本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

印刷市場に打撃を与える出版流通の変革

アメリカでは、大学で使われる専門書の古書ルートが確立することによって、教科書印刷市場に大きなマイナス影響を与えている。出版物の流通の変化が印刷市場に影響を与えたひとつの例である。
 日本でも、ここにきて急速に伸びてきた新しい流通ルートや本を読むシチュエーションの変化が、出版印刷需要に影響を与えると危惧される。

 現在、新古書店数はすでに8000以上になったと見られる。書店数が全体で25000店程度だから、そのパワーは無視出来ないどころか完全にひとつのルートとして確立したといえるだろう。
 新古書店近くの書店のコミック売上は相当低下しているという。新古書店の増加は、一般の書店に対する影響も大きいが、アメリカにおける専門書の場合と同様に、印刷需要に与えるマイナス影響もかなりあるだろう。

 オンライン書店は大手書店数社に限られていたが、昨年暮れから取次ぎ、出版社連合、そして異業種、外資による参入が相次いでいる。IT、ECへの流れや2000年12月にアマゾン・ドット・コムの日本進出に刺激されたという面もあるのだろうが、本を頼んでもいつ手元に届くかわからない、さらには在庫切れなのか絶版なのかすらわからないという従来の流通問題が解消するのならば喜ばしいことである。この問題は、ネットを使えばすぐに解決するほど単純な問題ではないように思われるが、ネットであろうと従来のルートであろうと、いずれにしても、書店の販売状況と在庫状況をリアルタイムでつかめるような情報システムを作ることは不可避である。

このような情報システムが出来たときに、印刷市場に何が起きるかは明白である。頻繁な超短納期、小ロットでの印刷物発注である。そして、情報が無いために、多めに作って結局返品になるような無駄な本作りをしなくなることである。

 あまり目立たないが、出版市場に大きな影響を与え始めたのが図書館である。図書館数はここ数年着実に増加し、それに伴って個人貸し出し冊数も年々増え、いまやその数は5億冊になった。現在、取次ぎ経由で流される書籍の販売部数が8億冊弱だから、いかに図書館での貸し出し冊数が多いかがわかる。

 米国では、図書館の数が2万5千もあるから、図書館の予算の増加はそこでの本の購入の増加になって出版印刷市場にとってプラスであると捉えられている。しかし、図書館数が米国の十分の一に過ぎない日本では、本が買われずに図書館で読まれるマイナスの方が大きいのではないだろうか。

 その他、この2年ほどで急速に増えたサービス満点の漫画喫茶も、出版印刷需要に影響を与えるのではないだろうか。
 情報メディアの多様化や少子高齢化しながら減少に向かう人口動態だけでなく、急速に動き始めた出版流通の変革も今後の出版印刷需要に大きな影響を与える要素として、注目しておかなければならない。

 出版市場は絶不調が続き、8ヶ月を経過した時点で2000年もマイナス成長になる可能性が濃厚になってきた。本研究会で指摘してきた構造的な問題が解消されないからだが、ここへきてさまざまな変革の動きが見え始めた。

 再販制度についても、3年前に見直しの年とされた今年、その行方が大いに注目される。

2000/10/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会