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写真製版の最新動向

カラーマネジメント

カラーマネジメントが話題となってからもう何年に もなるが,印刷業界にはほとんど普及していないのが 現状である。その原因として,@専門知識が必要で難 しそうだという認識。Aプロファイル作成用ソフトと 測色機の購入が必要(一式揃えると高価)。B定期的に キャリブレーション作業が必要で面倒。CColorSync に対応しているDTPアプリケーションが少ない,ない し対応が不十分,などが挙げられる。この中で,Cの アプリケーションの対応に関しては,この1年で大き く進展した。

Adobe Photoshop5.0では,カラーマネジメントの機 能が大幅に強化された。大きな変更点として作業する RGBのカラースペースをモニタのICCプロファイル と別個に設定するようになったことが挙げられる。カ ラースペースで定義されたRGB値をモニタのICCプ ロファイルを参照し,変換して表示することによって, モニタが違っても同じ色で表示することが可能となっ た。バージョン4.0までは,RGBのカラースペースは モニタのICCプロファイルと同一であったが,この場 合,ある作業環境で作成されたRGBデータを別のモニ タで表示するときには,色再現が異なってしまう。ま た,色再現範囲の広いモニタで作成したデータを,色 再現範囲の狭いモニタで編集した場合,カラー領域の 圧縮が起こってしまう。同じCMYKの値でも,紙やイ ンキの種類やドットゲインなどの印刷条件によって色 再現が異なるように,RGBデータといえども色再現は 出力するデバイスに依存してしまうからである。RGB のカラースペースは,さまざまなものが選択できるよ うになっているが,印刷を前提にしたDTP作業におい ては,AdobeRGB 1998(旧:SMPTE-240M)がAdobe から推奨されている。

QuarkXPressは,バージョン3.3までは,ColorSync を利用するには別途XTensionの購入が必要であった が,4.0(Mac版)になってColorSyncを正式にサポー トするようになった。貼り込まれた画像ファイルに対 してもレイアウトソフト上で色指定した平網等につい てもカラーマッチングさせて出力することが可能であ る。ただし,貼り込み画像への色変換はTIFF形式のフ ァイルに対して適用され,EPSについては対象外とな っており注意が必要である。これはPageMaker6.5Jに ついても同様である。またカラーマッチングの機能は, プリンタドライバやRIPも備えており,どのようなワ ークフローが自社に最適なのか,さまざまなパターン を検証してみることが必要であろう。

ColorSync2.5以降のバージョンでは,AppleScript 対応となった。さまざまなサンプルスクリプトが用意 されており,自作しなくともそれらをうまく利用する ことで,かなり強力な自動処理のワークフローが構築 できる。DropEmbedは,画像ファイルをこのスクリプ トにドラッグ&ドロップするとColorSyncコントロー ルパネルのシステム特性で設定しているプロファイル を埋め込むものである。Match to CMYKは,同じく画 像ファイルをドラッグ&ドロップすると,ColorSync コントロールパネルのCMYKデフォルト特性で設定し てあるプロファイルを参照して,元の色空間から CMYKに変換するものである。AutoMatchは,ホット フォルダを利用するもので,画像ファイルを AutoMatch用TIFF処理元というフォルダに入れる と,アップルのカラーレーザプリンタ用に色変換され た画像ファイルが自動的にAutoMatch用TIFF処理結 果に収納される。

デジタルカメラの普及などで,画像データの入稿が 増加しつつあり,自社内のクローズドな環境の中だけ で,色をコントロールすることが難しくなってきてい る。またクライアントが,デジタルデータは貴重な資 産であるという認識を持つようになり,社内にデータ ベースを構築し,多目的に使うことを考え始めている。 CMYKデータというのは,スキャナ入力の設定時にあ る特定の出力条件を想定して作成されるので,別の環 境に持っていって使おうとすると色が合わなくなり, 汎用性が低い。こうしたことから,オープンなカラー マネジメントシステムへの対応が,ますます求められ て行くであろう。それとともに,RGBデータへの対応 が求められてくる。

究極のカラーマネジメントのワークフローとして は,画像の入力はすべてRGBモードとし,画像処理も RGBで行い,レイアウトソフトにはRGB画像を貼り つけて,分版処理はRIPで行うというものである。ク リエイティブな画像処理には,CMYKよりもカラース ペースの広いRGBのほうが適しているし,RGBデー タはCMYKデータよりも1版少ない分データ容量が小 さくて済み,データの転送や保管が効率的に行える。 従来,RGBスキャナは低価格で低品質というイメージ であったが,最近の製版スキャナでは,RGBモードで の入力が可能なものが多い。また,PostScript3に対応 したRIPであれば,RIP内での分版機能を備えており, あながち夢物語とはいえない環境になっている。 とはいえ,CMYKのノウハウをそう簡単には破棄で きないので,当面のカラーマネジメントの目標として は,従来どおりのCMYKでのワークフローで印刷物と カラーマッチングされたプルーフを作成することで, 校正のコストと期間を削減することになるだろう。

CTPに向けてのワークフローの動向

いよいよCTPが普及期に入ったと言われている。 CTPの導入にはフルデジタルのワークフローが不可欠 である。しかも高価なCTPをデータ待ちで止めておく ことなく,エラーのない安全・確実なデータを供給し 続けることが必要となる。そこで,CTPベンダー各社 からさまざまなワークフローシステムが発表されてい る。これらのシステムは,機能的にはほとんど差が無 く,まず各社固有の中間フォーマットに変換し,デー タを安定化してから,OPI処理,トラッピング,プル ーフ出力,面付け,データの部分修正などを行う。 プルーフ出力は,RIP Onceという考え方でCTPと 共通のRIPを使うことで,プルーフとプレートの内容 が同じことを保証し,かつ,直しがなければ再度RIP 処理することなく,そのままCTPから出力できるよう になっている。中間フォーマットには,ハイデルベル グのDeltaリスト,大日本スクリーンのレナトスJob (POMを含む),サイテックスのサイテックスJob (CT/LWを含む)などがある。

これらのシステムは,PostScriptの弱点を補完する ものでもある。つまりPostScriptは,デバイスインデ ペンデントで汎用性の高いデータ形式であるが,記述 (データの作り方)の自由度が高いために,解釈する RIPが異なると出力内容が変わってしまったり,出力 面積が同じでもRIP処理の時間が異なり出力される時 間が予測できない。また,PostScriptファイルやRIP 後のデータを編集することは難しい。さらに,ページ という概念がないために,面付けしてRIPした後に1 ページだけ差し替えたいときでも,全ページのRIP処 理が必要になってしまう。

こうしたことから,CTPを導入するときには,ワー クフローシステムと込みで検討することが多い。ただ し,専用システムの場合,メンテナンスフィーやバー ジョンアップフィーまで含めたトータルシステムとし て考慮するとやはり高価となることと,提唱している メーカーがCEPS系ベンダー中心ということで中間フ ォーマットに汎用性が乏しく,出力機が限定されてし まうというデメリットがある。

PostScriptの弱点を補いつつも,PostScriptのオー プン性,汎用性を保持するようなワークフローシステ ムも提案されている。サカタインクスのArtFlowは, PSファイルを取り込み,中間フォーマットに変換する ところまでは同じだが,この中間ファイルは,ベジェ またはショートベクトルで記述されており,PostScript に極めて近い形になっている。Illustratorなどで作成 されたEPSファイルのレイヤー情報もそのまま維持で き,編集も可能である。この中間ファイルに対して直 し,トラップ,安定化処理,さらに最適化という処理 を加え,最終的に非常にコンパクトで,確実性の高い PostScriptデータに再変換する。そして,ArtFlowの 大きな特徴は文字のアウトライン化が可能なことであ る。

各社のワークフローシステムでは,フォントはすべ てラスタ化して,ビットマップデータとして持ってい るが,ArtFlowでは,フォントをフォントのまま維持 することもできるし,アウトラインを抽出することも 可能である。文字をアウトライン化した場合は,RIP のフォント環境に依存せずに確実に出力することがで きる。しかも,最終的にPostScriptファイルで出力す るので,出力機の解像度に依存しない。ちなみに文字 のアウトラインの抽出には,ATMフォントを利用して いる。ArtFlowに面付けソフトであるImpostripを組 み合わせることで,プリプレスから面付けまでオープ ンなワークフローを構築できる。

一方で,こうしたPostScriptへのニーズに対する Adobeからの回答が,PDFおよびExtremeである。 Extremeは従来のRIPの機能を大幅に拡張するもの で,ページ独立かつオープンなフォーマットである PDFを中間フォーマットして用いる。PostScript等の 入力ファイルは,ノーマライザによりRIP処理され PDFファイルに変換される。そして,中間ファイルで あるPDFファイルに対して,トラッピングや面付けや 分版などの処理を行っていく。このときに,処理の内 容と順番をコントロールするのが,PJTF(Portable Job Ticket Format)である。PJTFの内容は,ユーザがJob の内容に応じて,自由に設定することができる。PDF とPJTFは独立して存在することもできるし,PJTFを PDFの中に埋め込むこともできる。そして,個々の処 理を実際に行うのが,JTP(Job Ticket Processor)と いうものである。

JTPはそれぞれ独立したプログラムとして存在して いるので,PJTFに記述された仕事の内容に応じて,そ の都度自動処理のワークフローが組み立てられる。ま た,JTPはサードパーティが独自のものを開発するこ とができるようになっている。Extremeの仕組みを利 用した製品としてはアグフアのApogeeワークフロー システムがある。ワークフローをコントロールするコ ンポーネントであるApogee Pilotプロダクションマネ ージャの日本語版がようやく発売され,日本でもワー クフローシステムとしての利用が可能となった。

1999年9月JAGAT刊「グラフィックアーツ機材インデックス」写真製版より。

1999/09/24 00:00:00


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