1997年時点で本機校正を行っている企業の比率は約4割という高い比率になっているが(「平成9年度CTP方式印刷に関する調査研究報告書」:社団法人日本印刷産業連合会),以上のような機械の性能向上がこの増加に大きく寄与している。自動化された枚葉印刷機による損紙削減,能率向上のメリットで本機校正のコストアップ分をバランスできるからで,本刷りと校正刷りの再現性の差の解決にもなる。
印刷スピードは1万5000〜1万6000回転/時に達し,これ以上のスピードアップの要望は少ない。
色のコントロールに関しては,カラーパッチの濃度測定からインキキー調整までを自動で行う品質管理システムや,絵柄そのものからLab系の色情報を採取,制御するシステムが出てきた。いずれも自動コントロールを目指すものだが,後者は,印刷機もインキジェット方式などのデジタル印刷あるいはカラーディスプレイへの出力を含む多様な出力の一部として扱うという大きな転換を視野に入れたものである。
それは,「オペレータが校正に合わせて印刷機を調整する」という方式を完全に覆すもので,平版印刷機は,あらかじめ作られたカラープロファイルに合うよう調整された状態で運転されるようになることを意味する。
CIP3に関しては,主要なプリプレス,プレス,後加工メーカーが参加するコンソシアムが結成され,導入も始まっている。しかし, CIP3の効果をフルに得るためには,印刷機以外の機械も置き換えていくことが必要となるので,CIP3の本格的なインパクトが出て来るまでにはまだ時間がかかるとの見方がある。しかしながら,このような仕組みをベースとした印刷工程の自動化は,10年以内に支配的なものになると見られている。
枚葉印刷の利点は,被印刷体の材質,サイズ,厚さの選択幅が広いこと,あるいはメタリック印刷,コーティングなど,他の印刷手段では不可能な印刷に対応できることであり,印刷機はさらに多色化し8色+コーターが小型機の市場にも普及し始めた。
各工程機械の自動化,省人化が進むにしたがって,印刷前後の製造工程を含む生産情報と管理情報の統合管理を実現するか否かがこれからの能率向上の差になっていくだろう。
オフ輪の小ロット化は,市況を反映した部数の抑制指向や平台物の輪転印刷化傾向などに伴って進んでおり,そのような仕事を効率良くこなしていくことが最重要課題の一つとなっている。従来,オフ輪は準備時間に手間どることや損紙が多大であることが問題であったが,自動刷版交換装置等の導入によって,上下8版を3分以内で取り付けられるようになった。
さらに,自動版見当装置の有効利用,絵柄面積率プリセットと連動した機上のインキ皮膜制御,テンション・引き率プリセット,折機の自動型替え機能等を組み込み,ドライヤー温度の設定を含む各種調整を同時並行的に進め,印刷運転のスタートをかけてから一気にトップスピードまで運転速度を上げていき,ほぼ500枚の試し刷りで製品の領域に達するまでになった。
オフ輪においても,インライン測定のカラーバーコントロールシステムがある。紙幅方向に入っているゲージをスキャニングし,濃度・色差等を測定して印刷調子再現性の品質管理基準を数値化し,最終的にはインキキーにフィードバックをかけて品質保証体制の強化を図ろうとするものである。
カラーバーの幅は各社ともにかなり狭くなっており,余白への挿入が可能となってきている。また,CTPと組み合わせていけば,刷版工程の負荷も軽減出来る。インラインの評価として重要になるのは測定精度の検証であり,また,コントロール技術には,これまでのオペレーション技術の注入が必要となるので,システムとして確立していくには課題もあるようだが,さまざまな発展性が考えられるので,今後の動向に注目しておきたい技術である。
もちろん,これを成り立たせるには高速域までのインキ−湿し水バランスの適正化と連続安定性を維持する温度制御が必要と思われる。材料メーカー各社ともにこの技術に取り組んでおり,改善は進んできている。また,水制御装置も今では一般的になっており,横
転ローラ以外に元ローラの温調をし,各ユニット毎に制御温度を変更する方式も出ている。さらに,版胴表面を直接温度制御する方式も出ている。また,印刷ユニットを囲って,雰囲気温度さえもコントロールしている場合もある。
どこまでやるのが効率的なのかは議論を呼ぶところであるが,温度制御は重要な要素であることに間違いない。ただし,高速高品質印刷はこれらの要素の最適な設定および組み合わせをしないと成り立たないと思われ,印刷会社としては,印刷条件の設定と材料の改善,選定が重要ポイントになってくる。
その他に高速オフ輪として必要な技術は,ウェブ制御の高精度化,各付帯設備のスピード追従と自動化である。乾燥機はロングドライヤーの技術は確立しつつあり,ハード面の環境が整ってきている。
現時点でみると,極小ロット向けの高解像度大判プリンタがかなり普及する一方,印刷スピードは枚葉印刷機以上で,解像度が240〜600dpiの範囲をカバーする高速デジタル印刷システムが,One-to-One Marketing用途で威力を発揮しつつある。また,オンプレスCTPがショートランカラーの分野でひとつの領域を確立しそうである。
その一方で,デジタル印刷機は,B3以下の一般商業向けシステム以外に,シール・ラベル向けの専用システムや半裁サイズなど,その分野拡張をねらって新製品を出してきた。さらに,Elcographyのような新しい印刷システムも登場してきた。
この結果,現時点において,デジタル印刷システムは印刷市場のほとんどの領域をカバーしつつある。それは,オンデマンド印刷という市場ニーズ(短期間で手間とコストをかけずに,必要最低限の量の印刷物を作るというニーズ)が,品目,ロットにかかわらず紙媒体制作に対する共通したニーズであるということに他ならない。
また,オンデマンド印刷事業による採算性は,収支トントンの上下で見ると,マイナスとの回答が38.3%,多少利益もあるを含めて利益が出ている企業は53.3%と過半数であった。しかし,予想通りあるいはそれ以上の利益を上げたという企業は全体の17.1%で2割に満たない。
その一方で,大判のカラープリンタを使った事業は,売上の大きな部分を占めることはないとしても,そこそこの利幅を得られるビジネスになっている。また,高速のモノクロプリンタは,全体量は大量だが印刷内容が個々に異なるパーソナライズ化された印刷物制作用に,大手印刷業を中心に導入が進み,ひとつのビジネス領域として確立しつつある。
オンデマンド印刷あるいはプリントオンデマンドというビジネスは,情報あるいは印刷物がどのような目的に使われようとしているかを考え,その目的にあった最適な方法で情報を提供することである。そして,最適な方法の枠組みは,ネットワークに乗ってデータを動かし,データ処理のプロセスは自動化する,というものである。
オンデマンド印刷が広い範囲でビジネスとして立ち上がってこないのは,印刷側の問題ではなく,例えばワンツーワンマーケティングの分野では,そのニーズがあることは理解されているが,具体的に何をどのようにするのかがはっきりしていないことと,技術面で
は,データベース・マネージメントが十分にできていないことに基本的な問題がある。
水なし平版は,当初はインキの高タックによる紙粉や地汚れの発生などの問題も指摘されたが,現在ではこれらは解消済みという。今後の関心事のひとつはオフ輪での水なし平版の利用であるが,インキ消費量削減と一層の版面強度向上が望まれている。
1994年にHi-Fi印刷方式が発表されたときには,かなり早い時期に高品質印刷市場の20%程度がこの方式になると言われた。しかし,現時点までの普及状況をみると,尻すぼみの感がある。その原因のひとつは,考え方はできていたが実際に物を作るツールが不足していたことである。昨年あたりから,パントン社あるいはデジタル印刷システム関連のベンダー数社から,これらの印刷方式向けの新製品発表があり,米国では再び関心を呼び戻しているという。
続々と登場する6色以上のデジタル印刷システムや,インキジェットプリンタなどのデジタル印刷システムは,Hi-Fi印刷では大きな可能性を秘めている。しかし,少なくとも現在の日本では,解像度の高さや色調の豊かさなどの印刷物の品質優位性は,受注拡大や印刷価格を押し上げる第一要因にはならない。したがって,高精細印刷やHi-Fiカラー印刷などへの取り組みもあまり増加していないのが現状である。
1999年9月JAGAT刊「グラフィックアーツ機材インデックス」平版印刷より
1999/09/17 00:00:00