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21世紀の印刷工場の課題

何のためのFA化なのか

印刷業も,本格的にFA化を目指すべき時期にきた。

第一の理由は,紙媒体を活性化させるためである。
コンピュータの進化によって,情報提供の手段を目的と対象に応じて自由に選べるようになった。それとともに,電子媒体に対して従来の紙媒体制作システムの弱点が浮き上がってきた。それは,制作期間の長さと個別対応型の情報発信におけるコストの高さである。

印刷業がFA化に取り組まなければならないもうひとつの理由は,業界内での競争に勝ち抜くためである。
従来の印刷物生産設備の能力向上は印刷産業に供給力過剰をもたらし,厳しい価格競争の中での生き残り競争を迫っている。もちろん,情報化にともなうビジネスサイクルの短縮化による短納期要求への対応も競争条件の大きなポイントになる。

印刷物製作のFA化のモデルのひとつは新聞製作システムである。新聞自体の物理的形態は画一的だが,地方版や十数版にものぼる内容の入れ替えがあり,実態は1品種ではなく数十の製品を作っている。また,1部単位でコントロールしなければならない仕分け・配送業務や短い製作時間,さらに配送の時刻が指定されており,新聞の印刷は実はオンデマンドでの印刷物作りなのである。
印刷業が目指す生産システムは,新聞のようにぎりぎりのタイミングでの製作時間の保障をすることや,多様な仕様の製品を過不足なくきっちりと作ることができるFMSである。 そのためには,不安定な人的作業を極力排除し,工程の間をバケツリレーのようにしてつなぐのではなく,シームレスな流れにすることが必要になる。従って,必然的に省人化,無人化された生産ラインをコンピュータでコントロールするシステムになる。

印刷分野におけるFMSのひとつの例は,セレクティブ・バインディングシステムである。また,フォーム印刷機にインライン加工機能とインキジェットプリンタを組み込んで,個人宛てメッセージの入ったDMを印刷するパーソナライゼーションの印刷システムも,印刷版FMSのひとつの例であろう。もちろん,デジタル印刷機で,小ロットのページ物印刷物を過不足なく作ることもFMSである。

従来の印刷方式とは全く異なる方式に,DICOWEB(MAN-Roland),Elcography(Elcorsy inc.+東洋インキ),Goss ADOPT/CP(Goss Graphic Systems)など,画線部の書き換え可能なシリンダを版として印刷するグループがある。これらの技術はまだテスト段階のものが多いが,印刷版FMSを実現する技術のひとつとして位置付けることができるのではないだろうか。

環境対応

資源環境問題が,消費者や顧客の意識の変化を通じて印刷物需要に影響を与えてくることは明らかである。ただし,印刷物が果たしている機能は幅広く深いから,その変化は唐突に起こるものではなく,法規制を含めて事前の予知情報が発せられながら徐々に進んでいくことになる。

1.進むインキのアロマフリー化

平版印刷インキには高沸点の炭化水素溶剤が使われてきたが,国際癌研究機関の見解をもとにOSHA(米国労働安全衛生局)が危険有害性の表示を義務づける規制を出して以降,アロマフリー溶剤(従来の溶剤に比べて臭気・皮膚刺激,その他の毒性が少なく,大気汚染性も少ない溶剤)を使ったインキが使われはじめた。このために,インキに使われる樹脂の変更などが行われたが,印刷適性の問題などは特に指摘されていない。

アメリカの農業振興とEPA(米国環境保護庁)によるVOCs(揮発性有機化合物)規制対応のために,アメリカのノンヒートセット新聞インキとして普及したインキが大豆油インキである。脱石油系溶剤の方策として植物油利用が検討され大豆油が選定されたが,用紙へのセット性や乾燥性の遅延などの理由で,新聞インキ以外への実用化は進まなかったが,環境保全への関心の高まりで注目されだした。

例えば,松下電器産業(株)が,オーディオ事業部のパーケージや取扱い説明書で採用し,さらに,松下電器製品のカタログ制作部門のメディアサービスセンターが取り扱う家電製品カタログを全面的に大豆油インキで印刷することを決定するなど,顧客の側からの動きが始まった。現時点での大豆油インキの全インキ使用量に占める割合は3%程度と見られているが,普及の速度ははやく,大豆油100%のインキや低価格型も出て,拡大に拍車がかかりそうである。

2.斑模様の水性インキ化

グラビア印刷は,環境問題に対する技術的な対応がその将来を左右するといわれ,水性インキ使用の方向性が示されてから久しい。

出版グラビア印刷では溶剤回収装置を導入し,回収したトルエンを再利用するシステムが確立されており,水性化の動きは少ない。包装グラビアインキの分野ではノントルエン化が定着し,今後もノントルエンへの移行が加速すると見られている。

水性インキ化については,紙器分野で浸透しはじめた。プラスチック印刷分野でも,乾燥機の能力,水性対応シリンダなど,コスト高になるシステム対応が必要だが,地球温暖化への関心の深まりとともに水性化の動きが加速,実用化が図られつつある。インキ自体としても,OPP,PETなどのプラスチックフィルムに印刷可能な「完全水性インキ」も開発される一方,有機溶剤使用量を従来の10分の1まで減らせる有機溶剤を使ったインキと水性インキを併用する「ハイブリッドグラビア」技術も発表された。

フレキソ印刷の分野でも,この5年間で,水性インキ,水性OPワニス,水性ノンスリップワニスなどが,段ボール,紙器,プレプリント分野で拡大してきた。しかし,包装材フィルムの印刷は,種々試みがなされているが実用化の兆しはほとんどないという。
日本でのアルコール性フレキソインキの使用は,紙おむつやミルクカートン印刷に見られるが,日本の包装フィルム材印刷はグラビア印刷が主流なので,ここ数年大きな変化は見られない。

シール・ラベルのようなナローウエッブ分野では,水性インキやアルコールインキからUVフレキソインキへの切り替えが進んでいる。大きなコストアップにもならずに,被印刷体の多様化対応が可能になるからである。

スクリーン印刷分野の水性インキ化は,刷版の洗浄時に溶剤使用問題,あるいは印刷皮膜の耐水性等の物性面での問題が多く,その弱点を補強し版洗浄が水でも可能な水性UVインキも,廃水処理設備の必要性などからほとんど普及していない。

3.急務のリサイクル

日本のゴミ処理事情は,現在,非常に切迫した状況にあり,リサイクルの推進が急務になっている。

平版印刷への再生紙利用も増えている。古紙の再生に際してインキの脱墨技術は既に確立されており,従来,禁忌品といわれていた表紙のPP貼りや,中綴じのステッチ等の除去技術もほぼ解決している。今後の課題としては,UVインキや製本のホットメルトによる抄紙工程での対策が残されている。ホットメルトは古紙再生工程で細片化され抄紙工程に混入するトラブルがあったが,対策として細片化しない接着材の開発なども行われている。
現時点で,剛度や光沢が従来品に比べ若干低いとの指摘もあるが,当初発生していた紙ムケや擦れ汚れなどの問題もほぼ解決しつつあるようだ。

森林資源保護の観点から紙の大量消費に対する世界的な規模での問題意識が高まる可能性はあり,その対応として非木材パルプ利用拡大の期待がある。非木材パルプとして有力視されているのはケナフとバガスだが,供給力や木材パルプと異なる新たな排水処理設備が必要になることなどの理由で,少なくとも日本においては,木材パルプに本格的に代替する可能性は極めて低いと見られている。

4.大きな課題となった脱塩ビ

紙以外の被印刷体では,製造時,廃棄後の燃焼時の塩化水素発生や焼却炉の短寿命化などに対する配慮から,建材印刷の分野では化粧板の脱塩ビ化の流れが見られ,ポリオレフィン系素材などが一般的な認知も受け始めているという。

また,包装用プラスチックの分野では,塩素を含まない材料の開発とともに,分解性プラスチックとして,光分解ポリマーや生分解性ポリマーなどを使うことが考えられてきた。しかし,前者は地中に埋められた場合には分解しない点が問題で,現在は生産されていな い。後者は安全で環境に良いが,汎用ポリマーに対してコスト高である。

逆に,容器包装リサイクル法に伴うゴミ,リサイクルへの配慮とダイオキシン問題への対応から,プラスチック容器や金属容器から紙容器への動きなども見られる。

1999年9月JAGAT刊「グラフィックアーツ機材インデックス」工場内共通より。

1999/09/24 00:00:00


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