トピック技術セミナー2000より 文祥堂印刷株式会社
現在までにその種類・形態は様々なものが発表されていますが、その呼称もDI機ともオンプレスCTP、またはCTC(Computer To Cylinder)機とも呼ばれ様々です。ここでは印刷インキを用いたバリアブルでない大量複製目的の伝統的印刷方式のマシンをDI機とし、静電方式やインクジェット等のPOD(Print On Demand)プリンタとは区別してまとめてみます。
分類としてはDIそのものの意味である「直接画像を書きだす=版を形成する」ことですが、その版そのものが有版か無版かの違い、形態的には通常のユニットタイプの印刷機にイメージングユニットを搭載したものか、サテライト型や倍胴・三倍胴などを用いた一体型タイプかという形状からの分類、さらにDI専用機か通常の印刷版でも印刷が行える兼用機か。また本体内部にフレキシブル・プレートを内蔵し版胴に巻き付けダイレクトにイメージングするタイプで給排版を自動化したものか、イメージングするメタルプレートを既存の自動版交換装置にセットしておくタイプかという刷版供給機構上の分類ができます。
またdrupa2000ではCTC技術ではスイッチャブルポリマーをシリンダ上にダイレクトに吹き付けイメージングし、印刷終了後は消去するという刷版プレートさえも不要なリ・ユース(リライタブル)ともいうべき技術がAgfa(LiteSpeed)とCreoScitex(SPプロセス技術)から発表されました。同じリライタブルの先駆であったMAN RolandのDICO WEBは「Forget your plates.」というキャッチコピーで刷版自体を忘れてくださいというコンセプトでシリンダにダイレクトに画像を形成するCTC技術で注目を集めました。
●CreoScitex系ヘッド搭載DI機
(1)Karat Digital Press : 74Karat
Karat Digital Press社が97年に発表したもので、1本の版胴に2色分の刷版を装着(C・YとM・K)する2ユニット構造で、用紙が3倍径の圧胴を2回転することで4色の印刷を行います。またインキング・システムGravyuflowという独自のキーレス方式で、水なし方式とも合わせ簡易オペレーションを実現しています。
(2)ハイデルベルグ:SpeedMaster 74DI
SpeedMaster 74DIは、CreoScitex製の830nm、192chのユニットを搭載し、2400dpi/175線、自動刷版交換装置付きで各胴同時イメージングでイメージング時間は3分、イメージングはPresstek社製のPerlGold水有り版を使用しますが、他のCTP出力の版や通常の刷版も装着できるハイブリッド型としても使用可能です。
(3)小森コーポレーション:Project-D
CreoScitex製の240ch(最低224chを量産保証)のイメージングユニットを搭載し、drupa会場のデモではプレートはAGFAのThermolite(湿し水現像型)とKPGのNavajo(アブレーション型)を日替わりで使い、4色同時に175線/2400dpiでイメージングを3分で行っていました。3つの絵柄のうちの1つを来場者に選んでもらい、KHS(小森ハイパーシステム)と連携をとってイメージングから刷り出すまで4分程度という趣向をこらした実演を行い、ブースはデモンストレーションの時間になると大盛況でした。
(4)MAN ROLAND : DICOWEB DIGITAL OFFSET
drupa2000に展示されたDICOWEBのイメージング部の機構はCTC方式で、あらかじめ親水処理してある金属シリンダのスリーブ(デモ機はスチール製)の版面に、親油性リボンを当てサーマルイメージングを行い画像を転写します。その後約3分ほど表面をヒーティングユニットで定着・固化することで、約30,000通しの耐刷力が生まれます。そして親水性を高めるためのコンディショニング処理を行い印刷を始める準備が整います。
印刷終了後はシリンダ上の画線部とインキを熱溶解と消去液によって除去しシリンダを再使用する、つまり版基材は繰り返し使用するリユース(リライタブル)型であることが大きな特徴です。
(5)CreoScitex:SP方式デジタル印刷
Agfa:LiteSpeed技術
スプレー・オン・シリンダとも言うべきプレートレス技術で、シリンダ上に生版を形成するCTC方式の全く新しい技術です。Agfa社のLiteSpeed技術は、液状の親水性相変換(スイッチャブル)ポリマーをメタルベースのシリンダまたはプレートにスプレーするとただちに乾燥し生版を作成します。ネガタイプなので830nmのIRレーザーで画線部をイメージングすると、発生した熱でこれらの粒子を溶かし版面に融合し親油性の画線部が形成されます。
一方非画線部は比較的柔らかい状態のまま残り、印刷時に湿し水、インキにより溶解・除去されるという、いわゆる湿し水現像タイプです。イメージング後にコーティング層を水着けローラーで湿らせ、インキローラーで非画線部のコーティングを取り除き、取り除かれたコーティング材は刷出時に数枚の用紙に転写されてしまいます。
この方式は材料及び液状ポリマーをスプレーするという技術をAgfaが供給し、サーマルイメージング部をCreoScitexが担当するもので、drupa2000後のGraph ExpoのCreoScitexブースではシノハラ66II Pにイメージングユニットが搭載され、デモが行われました。
●Presstek系ヘッド搭載DI機
(6)ADAST:ADAST 507 DI、705 DI、
Presstek、Adast、Xerox:PAX DI
Xerox:DocuColor 400 DI
ADAST社の印刷機にPresstek社のDIユニット「ProFire」を搭載した機種で、Adast507シリーズはA3、705はA2。PAX DIはAdast507シリーズがベースで、機械がADAST社、イメージングユニットがPresstek社、ワークフローがXerox社のDigiPathワークフローをシステムとして採用している機種の呼称です。
(7)HEIDELBERG:Quickmaster DI 46-4
Presstek社のDIユニットを搭載したDI専用機の嚆矢で、DRUPA95で発表されて以来1,350台の市場実績があります。ペットベースのPEARLdry水なし版を使用したA3サイズの4色専用機で、イメージングヘッドは各色16個(64個)搭載し、イメージング時の版胴の回転を16,000回転に高速化することで、4版同時に4分で製版をします。
(8)リョービ:RYOBI 3404DI
drupa2000で新たに発表された一体型専用機のA3縦通し4色機で、Presstek社のDIユニット「ProFire」を2ヘッド搭載(24チャンネル/ヘッド)、3倍径共通圧胴+2組の2倍胴ブランケット+2倍版胴(2色)のV型5胴配列で、1つのイメージングヘッドで2色をイメージングします。圧胴にくわえられた用紙は、くわえ換えなく2回転し4色印刷される機構となっています。
(9)桜井グラフィックス:OLIVER-474EP II DI
菊半裁4色機(4/0、2/2兼用機)にPresstek社の32本レーザのDIユニット「ProFire」を搭載。drupa2000ではPerlGold(水有り版)とシルバーデジプレートの両方でデモを行っていましたが、DI使用も通常使用も可能な兼用機です。DIユニットは印刷時にはユニット下部に格納され、露光時にせり上がってくるコンパクトな構造です。
自社開発系DI機
(10)大日本スクリーン:TruePress544
三菱製紙製ペットベースのシルバーデジプレート(水有り版)によるA3判片面4色専用機。イメージングヘッドは大日本スクリーン独自の120本ビームのIRレーザーで、一体型DI専用機で初めての水有りタイプでもあります。ヘッドまわりは1ヘッド機構で、ヘッド側に版胴が近づき4版のイメージングを行います。インライン色彩計で色をフィードバック管理しています。
(11)大日本スクリーン:TruePress744
ハード部分を桜井グラフィックスシステムズと共同開発した、2色機のTruePress742を2台連結したもので、三菱製紙製ペットベースのシルバーデジプレート(水有り版)による専用機。
印刷サイズは730×520mmでA2サイズを余裕でカバーすします。1ユニットで片面2色のものを2ユニット連結で4色機になる構造で、オプションの反転胴を搭載することによって、両面2色刷が可能となります。
一方で欧米の事例を見ると、デジタルが成熟したことで仕事が減少した製版専業会社が、小ロットや本機校正の切り口でDI機を導入し、製本加工も含めた設備を導入し新たな市場を開拓しています。しかし日本では欧米のような手法は通用しません、日本ではクライアント側にそのまま印刷に出稿できるデジタルデータが無いからです。
既存の印刷機を持っている印刷業の場合でのDI機導入を考えてみますと、ほとんどの会社は半裁あり全判あり、メーカーも2〜3社ありというバラエティに富んだ機械が設置されていると思います。当然刷版設備も持ち、プリプレスも持っているとすると異口同音に「1台DI機を導入しても、効果が上がらない。むしろDIよりもCTP」という結論が出るでしょう。
しかしそれは現在の枠組みでしかビジネスモデルを捉えていないからではないでしょうか? 多種多様・新旧も混在した印刷機のラインナップと、1カ所に数台集中させてクライアントのもとへ製品をデリバリしていくという現行のビジネスモデルの見直しが必要です。市場はますます多様化していき、枚葉印刷のロット・納期・売上は縮小化に歯止めがかかりません。自社のクライアントとの関係を見直し、ダイナミックにビジネスモデルを再構築する必要に迫られているのです。
このように混沌とした状況の克服の一つのポイントは「DI機によるサテライト印刷」だと思います。
クライアント側はSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)などで調達の見直しが急ピッチで進んでいます。またビジネスモデルもダイナミックに状況変化しています。変化していない(しようとしない)のは我々の印刷側であることを忘れないでください。自社のクライアントの調達にマッチした工場・物流の再構築、そのストーリーの中に「DI機によるサテライト印刷」が加えられないでしょうか。
具体的にはクライアントに近い場所、あるいはクライアントの内部にDI機と仕上げ工程を設置し、わずかな専門家と未熟練労働者でも十分生産性と品質を維持できる体制作りを進めることができないでしょうか? クライアントの調達に近いところにDI機と仕上げ工程を置くことのCSの向上、刷版室もいらない、デジタルデータは拠点から伝送する、これまでのサテライト印刷のネックであった「校了紙をどうする?」という問題も、DDCPや品質管理システム、CMSの進展で解決が可能になったこと、さらに自社だけは一頭抜き出て勝ち残ろうというこれまでの設備投資や業者間競争も、ネットワーク・協業時代になりつつあることなどから、自社のビジネスモデルを再構築することで、クライアントに最適な調達システムを提供し勝ち残りに加わる一つの可能性になると思います。
(2)DI機活用のポイントはビジネスモデルの再構築
DI機活用のポイントを含めて、今の我々に必要なのはダイナミックなビジネスモデルの再構築であると思います。これは「地道なものづくり」や営業戦略も含めて、経営の大きな柱となるべき課題であり印刷関係の経営にはやはりIT戦略がかかせません。その配線図を描くCIO(最高情報執行役員)やCTO(最高技術執行役員)の位置付けを含め、ビジネスモデル、ワークフローの再構築を全社的な課題として取り組む中で、一つの具体化がDI機の導入にあるように考えます。
2000/12/25 00:00:00