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カラーを見る視環境とCTP印刷テストの結果

■視環境(カラーを見る照明条件)

カラーマネージメントは原稿(現物,カラーポジや 写真,絵画などの反射原稿)の色を,CRTなどのDTP 用モニタ,カラー校正,印刷物の色と科学的に合わせ 込む方法であるが,DTPのようなオープンシステムに なっても,なお経験と勘の世界から抜け出せないでい る。

CTPの普及にともなって注目されるデジタル校正 出力やリモートプルーフの外校への利用を促進するた めにも,はじめに基本となる「色を見る環境」につい ての理解が必要である。

1.色評価の目的は

色評価の目的は色の良否判定である。それには2つ の方法がある。1つはイメージ通りの色になっている か,もう1つは目標物の色と合っているかである。前 者のイメージする色との比較とは,デジタルカメラの 色がイメージした色が合っているかや,校正刷りで顧 客が「この赤鮮やかに」など,頭の中の色と比較して 色を決めていくように,イメージする色と比較する方 法である。

後者は目標物の色と成果物の色が合っているかで, 現物とモニタや印刷の再現比較や,リバーサルカラー と印刷物の比較,色見本の何番という指定,校正刷り と本機刷りの比較がある。 校正刷りを目標(ターゲット)にして印刷物を刷る ときには,クライアントからOKをもらった校正刷り と印刷が合っているかどうかを比較する。最近ではモ ニタ画面と印刷物との比較も行われる。

2.標準観察条件

「色の見え」は見る環境によって異なる。観察者や 対象物が置かれている環境や,照明方法,照明光の特 性などで大きく変わる。ある環境で評価した色を別の 環境で同じように刷っても,評価環境が違うと色が違 うというクレームになることがある。

そこで観察条件の標準化が必要となる。製版・印刷 では,ISOやANSIまた日本印刷学会が推薦する透過 原稿,反射原稿および印刷物の観察方法などの規定が あるが,まだ十分ではない。

製版・印刷ではイルミネーター上に置かれたカラー 原稿,反射原稿,印刷物についての規定があり,また 周囲の色なども決められている。反射物で重要なのは 照明で,印刷学会の規格ではCIE昼光のD50を標準と して使い,明るさや照明と観察の方向も決められてい る。色のやりとりはこうした条件もきちんと整えなけ ればならない。

ところが実際のD50光源は市販されていないので, 近いものとして平均演色評価数95以上,特殊演色評価 数90以上のAAAタイプ(印刷色評価用)蛍光灯を使 うことになる。印刷物を見る照度は2000±500ルクス, 透過原稿は1270±320カンデラ/平方メートルとされ ている。また,観察面の周囲にあまり鮮やかな色や暗 い色を置くと色の見えに影響するので,無光沢のマン セルN8(グレー)を使う。

3.照明による色の見えのバラツキ

環境をきちんと規定しないと色が正しく評価できな い。例えば,白色の蛍光灯と白熱ランプで交互に照明 して印刷物やモニタの色を比べると,色は違って見え る。しかし,製版・印刷分野ではモニタを評価する方 法が実用上未整備でもある。

さらに,製版・印刷側でいくら標準観察環境にして も,顧客はそのような環境では見ない,などなど,色 の評価にはバラツキが生じてしまう。

4.CRTと原稿や校正を並べて見る場合

デジタルの世界では,CRTと原稿や校正を並べて見 る場合のように,異なるメディア間でも色の情報をや りとりできることが必要になる。これを主観的にやる ことはもちろん難しいが,客観的な評価もメディア間 においてはまだ課題がある。照明学会の推薦規格では, モニタにフードを付けてなるべく直接照明が当たらな いようにし,印刷物には色を評価するために必要レベ ルの照度を行い,両者同じ方向から観察することにな っている。

また現在,印刷学会の標準化委員会では,モニタを 用いる作業現場で使うことを想定した推薦規格を作る 動きがある。第1段階として,実際のモニタを使った 作業現場がどういう照度でどういう環境になっている のかを調査して,観察環境の標準化をしようと検討し ている。

■CTP印刷テスト

CTP印刷システムの現状を調査するために,JFPI では複数の種類のCTPプレートを用いての印刷テスト と,現在提供されているCTPシステム調査を昨秋行い, 今春に報告書としてまとめた。

テスト印刷では,代表的なCTPプレート3種類と通 常のPS版で刷版を作成し,オフセット印刷機(4色機) による印刷を実施した。テスト印刷物に対しては,物 理評価と主観評価を行い,通常のPS版ユーザーがCTP プレートへ移行する場合の,両者の品質特性の差異を 明らかにした。

またCTPシステム仕様調査では,代表的なCTPシ ステムについてベンダーへのヒヤリング調査を実施 し,CTPシステムを使用する際に重要な出力工程のフ ルデジタル化と,これにともなう仕事(ジョブ)の新 たな管理方法,仕掛かりデータの信頼性と再加工性を 兼ね備えたファイルフォーマットの選定,デジタルデ ータ保管の方法など,フルデジタル特有の課題に対す る各CTPワークフローへの対応内容を明らかにした。

1.テスト印刷に用いたCTPプレート

@サーマルプレート(第一世代)、A銀塩DTRプレ ート、Bフォトポリマープレートと,比較のためにフ ィルム出力してPS版に焼きつけた通常の刷版を含め て4種類のプレートによる印刷テストをした。

2.テスト印刷物の物理評価

網点の再現性は,特にトップハイライト部の網点(1 〜2%網)で明らかな違いがあった。また文字(4級サ イズ)や細線(2ピクセル幅)は実用限界とも言える微 細なレベルにおいては以下のように,4種類のプレート の順位が付いた。
・版上の入力値に対する網点面積率:全てのプレート は概略,設定通りに1:1に再現していた。
・印刷でのドットゲイン:少しデータのバラツキはあ るが,フィルム出力PS版とCTPプレートは印刷の ドットゲインはほとんど同等であるといえる。
・ハイライト網点再現性:CTPはいずれの方式でも, 版上・印刷物とも1%から鮮明に付いている。それに 対してフィルム出力PS版では,版上・印刷物とも1 〜2%が不揃い,不完全である。CTPは刷版に直接, 網点を形成しているのでハイライトの付きがよいと 言われている点を,実証している。
・文字の再現性:全体として文字品質は,「サーマル≧ フィルム出力PS版≧銀塩DTR≧フォトポリマー」 の順である。これは大略,現時点における各方式の 解像力の順番と一致している。
・白黒交互線の再現性:サーマルは横線,縦線とも, ほとんど同じ交互の線幅を示しており,良好な再現 性である。フィルム出力PS版と銀塩DTRは,画線 が細ったため白線幅が広くなっている。フォトポリ マーは画線の太りがあり,白線が細くなっている。

3.テスト印刷物の主観評価

色再現,なめらかさ,見当性,モアレ,ハイライト, キャッチライトの6項目について見ると,サーマルプ レートがバランスよく,高い評価を得た。特にキャッ チライト,ハイライトの微細な網点の再現性について の評点が高い。次いでフィルム出力PS版は,バランス は良いがモアレと見当性については4種のプレートの 中で最も低い評価となっている。

しかし,いずれの種類のCTPプレートであっても, 見当性の向上と1〜2%網点の再現性の良さによる品質 向上が確実に期待できる。また,改めてフィルム出力 PS版の完成度の高さも分かった。

4.システム仕様調査

CTPワークフローは2つのタイプがあり,データ形 式やRIPの位置づけ,面付けのタイミングなどから分 類することができる。直し工程の効率,校正(DDCP) と刷版との出力結果保証などに直接関連するので,ど ちらのタイプを選ぶか,将来性も加味しつつ十分検討 する必要がある。
@PostScriptベースの「RIP前面付け」ワークフロ ー(PostScript RIP前に面付けする) 完成したページデータ〜面付け〜RIP〜出力の一連 の作業を,PostScriptデータで行うタイプである。
A「ページ独立エラーレス中間ファイル」のワーク フロー(PostScriptインタープリット後の中間専用フ ォーマットで面付けする)

調査はAのタイプのワークフローシステムについ て,CTPベンダー各社にヒヤリングを行った。この方 式に共通するのはプレRIP(PostScriptインタープリ ット)で各社独自の専用の中間ファイルフォーマット に変換して,これを面付けしている。

直しは必要ページのみ再RIPして,ページ差換えす るような方法で下版直前の訂正などを行う。そして出 力時に網点処理(スクリーニング)を施しながら,プ レートセッタやフィルムセッタからCTPプレートや網 フィルム出力を行うシステムが一般的な流れである。 ただし,中間フォーマットの内容や細部のワークフ ロー,入出力可能なファイルフォーマットの違いなど があるため,この点を中心にしてCTPベンダーにヒヤ リング調査している。また,PDFを中間フォーマット にする方法は,日本でもテストされており実用化への 期待が高まっている。

米国ではDTPを設備した顧客から入稿するデータフ ォーマットがPostScriptよりもPDFの方が多くなっ てきたという話も聞くが,日本でもそのようなことが 可能な環境が整ってきた。

5.CTP+DDCPで大幅な環境負荷低減が可能に

環境負荷の観点からは,CTP化により現像剤の消費 を伴う製版フィルムの消費を全廃でき,さらに校正刷 りをDDCPなどのカラー出力機に移行することによっ て,より大きなCTPプレート消費量の削減も可能であ る。

例えば,A4判48頁のカラー印刷物で校正チェック を3回行うモデルでは,通常のイメージセッタ工程に おける感材の消費量は,フィルム130m2+PS版82m2 である。これに対して,CTP工程を導入して,校正の 全てにDDCPを用いることができれば,刷版用CTP プレート20.5m2の消費だけで済む可能性がある。また, サーマル型CTPプレートでは現像レスタイプの開発も 進められており,さらなる環境負荷の軽減も期待でき る。しかしこれを実現するためには,DDCPなどのデ ジタル校正が受け入れられる技術的,商習慣的な改善 努力と,現像レス型CTPプレートの商品化と早期の普 及を期待したい。

6.CTP利用への課題と提言から

テスト印刷からは,CTPプレートがフィルム出力PS 版よりも小点(1〜5%程度の網点)再現性が良いこと, 印刷面全体にわたっての見当性が良く,このためにモ アレが予想どおりに出現して,色ムラが起こらないこ とが分かった。

従って,フィルム出力PS版からCTPプレートに移 行するには,使用するCTPシステムに合わせた製版カ ーブの設定が必要になるだろう。 ただし,小点の再現性の良さを欠点としないセット アップ条件を捜さなければならない。

CTPシステムの仕様調査からは,CTPワークフロー のさまざまなシステムが分かった。プリプレス工程は DTPによってデジタル化が普及して久しいが,実はプ リプレスの最終工程である,校正工程/下版直前の直 し工程/刷版工程は,未だにアナログ工程そのもので あった。CTPワークフローは,この部分をデジタル化 するものである。

CTPを導入するということは,プレートセッタをフ ィルムイメージセッタと単純に置き換えれば済みそう に見られがちであるが,そう単純ではなく,CTPワー クフローが重要である。CTPベンダーも各種のCTP ワークフローシステムを開発・発表してきている。新 たなデジタルシステムということもあり,課題も多い ので,ここでは項目を挙げるにとどめる。 その項目は以下の5つである。
@機器のハード的,ソフト的なオープン性
A直し範囲のフレキシビリティ (ページ単位,より小さなブロック単位など)
Bプリプレスと印刷の工程が距離的に離れている場 合のワークフロー
C色校正の方法と品質の保証
D検版の方法
これらは,印刷会社においてはいずれも新しい作業 方法,管理方法,顧客への説明や説得が必要であり, また,システム面ではCTP関連ベンダーによるさらな る研究開発などが求められる。

1999年9月JAGAT刊「グラフィックアーツ機材インデックス」校正・刷版より

1999/09/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会