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顧客サービスとしてのPDF利用

印刷の技術は,常に新しくかつ目まぐるしく変化していった。パソコンの出現,周辺機器の普及,カラープリンタをはじめとする出力機器の充実ぶりと印刷業にとってデジタル化は避けて通れないものになっている。かつての暗いイメージから最先端の技術を利用した業種へと変貌したともいえるだろう。しかし,それまでプロフェッショナルな仕事として位置づけられていたものが,融業化が進み誰でも参入できる可能性が出てきた。印刷業は以前には考えられなかった他業種との競争という新たな試練に見舞われた。そして,逆にプロフェッショナルならではの差別化を図る必要が出てきたのである。
今回は,厳しい環境の中で事業展開している五洋テクノプリント(株)の代表取締役堀江脩造氏に同社の姿勢を伺った。

得意分野の版下作成に特化


東京・新宿区にある五洋テクノプリントは,入力・版下作成業務を中心に1978年4月に五洋印刷として開業された。創業当時はタイプ全盛の頃であり,タイピストを雇い入力を行っていた。タイプで版下を作り,エレファクスで製版し印刷までを請け負っていた。印刷も軽オフを導入して自社で行っていた。その後,時代の流れとともにワープロを使い始めたが,ワープロの印字品質が上がるまでは併用せざるを得なかった。さらに電子組版機を導入したが,これは画像が取り込めないものであったため,文字のみを組版したあと,空いているスペースにトレースした図を切り貼りしていた。
同社の仕事は報告書関連が多く,文字だけでなく地図やグラフなどが半分近くを占めるものが多い。従ってワープロ,電子組版機と使用した後にMac(Macintosh)を導入し,DTPに切り替えたことは当然だといえる。ただMacに変えたとき問題になったのは,トレースであった。手作業によるプロのトレーサーに外注していたものをMacに移行することによりコストは半減した。しかしそれと同時に品質の問題があった。はじめの頃はMacでできるものとできないものがあり,やはりプロのトレーサーのほうが品質的にも優れていたそうである。それを補うには技術力のアップしかない。今では,IllustratorやPhotoshopを駆使しての図面の作成が得意分野になっている。
パソコンの普及が進むと得意先の内製化が始まった。しかし,トレースとなると技術的にも時間的にも困難で,顧客側でそこまでやることはほとんどない。内製化が進んでいる得意先の仕事でも,トレースの部分は請け負っているそうである。
このような環境変化の中で生き残っていくためには,他社に負けない部分を強調して,専業として特化できるものを全面に打ち出すことが必要だと考えた。そこで,印刷はやめて製版まで,しかもプリプレスの専業になろうとした。なかでも版下作成の部分が一番の得意分野なので,そこでの差別化しかないと考えたという。設備面でも軽オフを廃棄し,人員も整理しスリム化して版下に特化している。

PDFによる版下授受を開始


SGMLやPDFに対する期待は大きい。データ再利用を考えた場合,SGMLが一番いいのではないかと思っている。また,PDFの登場は,印刷業以外にも影響し,その利用方法は多岐にわたっている。PDFによる出版,CD-ROM,Web,オンライン校正,企業内の大量文書のデータベース利用など,その活用分野は急速な広がりをみせている。
同社では最近,得意先との間でインターネットを介したPDFの版下授受を始めた。従来は営業担当が原稿の運搬や完成原稿の納品を行っていたが,修正や変更のたびに行き来しなければならない。もちろん修正や変更の回数が多くなれば,それだけコストがかかる。何度も営業が足を運んだり,バイク便をとばしたりしていたのでは赤字になることもある。
そこで,Acrobat4.0を利用して,PDFによる版下を得意先担当者と自社の版下作成担当者が直接メールを使って校正の確認および修正ができる形にした。それによってワークフローが変わり,中間工程を随分簡略化でき,コストダウンも図れる。変更や修正が多くなればなるほど,Acrobatを使ったワークフローが威力を発揮するのである。
効率化・合理化によるコストダウンと納期短縮といった顧客の要求にも応えられる。また営業の行き来を少なくできるので,営業本来の仕事に専念でき,かつコストダウンにもつながる。同社では社長の堀江氏が営業を兼ねている。だから営業面における人件費の問題や時間短縮の問題は,会社経営に直接関わってくるといえる。
今後フォントの問題が解決されれば,インターネットを使ったPDFによる校正は主流になるだろうと考えている。

PDFによる文書管理の提案


今後はPDFの別の展開も考えている。印刷業の流れというより全産業に関わることだが,文書管理や標準フォーマットとしてPDFを採用し,得意先に提案していきたいという。おそらく企業内の文書管理をするPDF関連の製品は増えてくるであろう。もちろん全文検索できるものが必要になってくるであろうし,データ変換やプラグイン開発をする企業も出てくるであろう。そういった情報にも目を光らせて,自社のビジネスに取り組む工夫をしていきたい。
例えば,今まではマイクロフィルムでデータ化していた顧客に,いかにプレゼンしていくかが問題になる。今のところは「従来の方法でいい」という答えが返ってくることが多いという。PDFファイルでデータベース化することにより,得意先にどういうメリットがあるのかを具体的な数字でわかるようにして提案していく必要があるだろう。

紙媒体からの脱却へ


「従来の紙媒体による印刷は,安くて早くてきれいにできるところが勝つに決まっている」と堀江氏は語る。つまり体力があり設備も人員も充実しているところには敵わない。小さな企業が生き残るためには,それぞれの分野のプロフェッショナルがしっかりした仕事をすることだという。得意先の便利屋に徹して,どこをサポートすれば顧客満足につながるかを見出していきたい。
印刷会社の役割としては,高級美術印刷が残り,ビジネス文書の類はオンデマンド印刷に集約され,必ずしも紙を媒体としなくなるのではないかと考えている。
マニュアルや説明書の需要がひと段落したら紙媒体の需要は減ることが予測される。CD-ROMによる説明書に違和感をもたない世代が主流になれば紙の説明書はなくなるだろう。実際コンピュータ関連のマニュアルは,数年前に比べてずっと薄くなっている。会議資料として必ず紙の出力物を付けなければならない習慣がなくなった場合,コンピュータを使った電子会議に移行する。それらは極端な例かもしれないが,数年後には今以上に紙以外の媒体の需要が増えることは想像に難くない。そこに新しいビジネスが埋もれているだろう。そこに活路を見出すには,もちろんコンピュータを使う社員のスキルアップが戦力になる。
今後は例えば,オーサリングソフトDirectorなどを活用して,宣伝用パンフや教材の分野でDVDやビデオなどの媒体制作も考えている。
時代の流れに注目し,コンピュータ技術に精通することで,生き残りと飛躍をかけているといえるだろう。(上野寿)

『JAGAT info』1999年8月号より

1999/09/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会