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近代活字母型製作の歩み(1)-印刷100年の変革

活字は鉛合金を溶解して母型と鋳型から鋳造して造ることは前に述べたが、母型製造方 法にも歴史的背景がある。日本における当初の母型製造方法は、アメリカで開発された電 鋳法(電胎法)を、本木昌造がアメリカ人宣教師のウイリアム・ガンブルから伝授された ものである。

この電胎法による母型製造方法は、日本では第2次大戦後の1950年代まで行なわれてい た。電胎法は、まず柘植(つげ)の木を活字原寸大に1本1本造り(駒という)、その面に 彫刻刀で逆文字に彫刻し種字を造る。

次に蝋盆で種字から文字を型取り、これに伝導性を与え銅メッキをして凹型のもの(ガ ラハという)を造る。このガラハを母型用のマテ材(真鍮)に嵌め込み母型とする。これ が電胎母型で、通称「ガラ母型」とも呼ばれるものである。

●種字が活字書体の命

母型製作に関する問題は「種字」製作である。柘植の木に1本1本彫刻することは、各 サイズの活字と同じ状態のものを数千字分製作することを意味する。

逆文字を彫刻する技術はハンコ屋さんが印鑑を彫るのに似ているが、種字彫刻は活字母 型用として精度が高いものを要求され、しかも格調高い書体を形成するもので、種字彫刻 師は名人芸的技術が必要であった。現代のタイプデザイナー以上の技術である。

種字は母型製作用であるが、この他に「直彫り(じかぼり)」という方法がある。組版の 文選過程において、欠字(活字がないこと)が生じた場合、つまり使用頻度が低い外字で 母型がないときの活字補給の応急方法である。今でいうパソコンのユーザー外字作成に相 当する。

この「直彫り」は、柘植の木に彫刻する方法と同じであるが、柘植の木の代わりに活字 と同じボディに彫刻する方法である。活字の高さと同じで、字面部分がない金属片のところからかつては「メクラ」と呼ばれていた。

この他に欠字補給方法として、木活字(柘植に彫刻したもの)も使われていた。現在で も活字組版で、母型がない文字の場合の対応策としてこれらの方法が行われているが、現 在では彫刻師が少なくなり難しくなっている。

活字書体の良し悪しは、この種字彫刻師の腕にかかっている。明朝体やゴシック体など の活字書体は、多くの名人彫刻師によって多様な書体が生まれた。和文書体の代表的な明 朝体のなかでは、明治時代から二大主流といわれた東京築地活版製造所の「築地明朝」と、 秀英舎(現在の大日本印刷)の「秀英明朝」が有名である。

●母型製作の機械化

後年になり電胎母型の製造技術と品質は年々改良されたが、一字づつの種字彫刻による 製法は、漢字・仮名の数千字を要する母型製作に多くの時間とエネルギーを費やした。と ころが、この手工芸的な母型製造に代わり、母型量産化のために登場したのが「ベントン 彫刻機」である。

ベントン彫刻機は1884年に、アメリカのLinn Boyd Benton(リン・ボイド・ベントン) によって考案された。この方式は、パンタグラフの原理を応用したもので、1つのパター ン(文字原版)から大小文字の母型を精密に母型材(マテ材)に彫刻できるのが特徴で、 画期的な発明であった(つづく)。

他連載記事参照

2001/03/11 00:00:00


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