急務となるトータルメディアコーディネーターの人材育成
白旗 保則 氏
(株式会社ビィーガ 代表取締役)
■企業にとって重要になってきた「クロスメディアパブリッシング」
Webを取り巻く現状は急激に変化しつつある。ネットバブル崩壊による新興企業の業績低迷、クリック&モルタルに代表される既存企業の台頭、世界規模で調達を行うe-マーケットプレイス(電子商取引)の急激な拡大など、ITを中心とした勢いはネットバブル崩壊をもろともせず、より急激により加速度的に拡大しつつある。
また、既存企業は国際競争にさらされる中、製品情報やサービスメニュー、投資家向けIR情報など海外への情報発信から、特許取得・契約まであらゆる面で、国際ルールにおけるビジネス展開が求められている。
そのような国際競争にさらされている環境で、あらゆる情報を一元管理し様々な媒体へ最適な情報を発信してゆく手段である「クロスメディアパブリッシング」が注目され始めている。つまり、企業における広報・宣伝活動の中で、同じ情報を提供する印刷とWebは違うメディアではなく、強力な連携メディアとして位置付けられ、より効率の良い情報発信のできる手段が模索されているのである。
■WebはWeb制作会社、印刷は印刷会社とメディアの分業状態
では、そのように「クロスメディアパブリッシング」が注目されている中、それぞれのメディア制作の発注形態はどのようになっているのであろうか。
印刷物を受注する際の競合は、同業の印刷会社であろう。しかし、Webを受注する場合の競合は印刷会社ではない。Web専門の制作会社、IBM・富士通などのコンピュータメーカー、IIJ・ニフティなどのインターネットプロバイダ、など印刷とはまったく異なるのである。
では、なぜ印刷とWebのそれぞれを発注する際に、このような現象が起きてしまうのであろうか?それは、本来はそれぞれが密接な相関関係にあるにも関わらず、発注側も受注側も双方のメディアの特性と情報の一元管理のよる効率の高い情報発信形態のメリットを認識していないからである。Webの内容が印刷物と同じ内容で、かつ原稿として印刷物を出稿しているにも関わらず。
つまり、企業の情報発信にとってトータルにメディアをプロデュースする、つまりWebや印刷のメディアの違いに関わらずトータルにメディアを理解し、それぞれのメディアに対して情報を最適化(コーディネート)できる出来る企業との取引や人材の育成が必要なのである。
■印刷会社の強みと弱み
では、そのような環境の中で印刷会社がWebを受注する際、どのような分野において力が発揮できるのであろうか。まず、確実に言えることは「システム開発は不得意」ということであろう。そして、一番の武器は「密着営業・原稿整理」ではないか。
今まで印刷業界は、「装置産業」から「情報加工産業」へと変貌すると言われてきた。では本来の意味での「情報加工産業」とは何なのであろうか。「最適な媒体へ情報発信できる提案力」「よりわかりやすく、より正確に情報を発信できる企画・制作力」「コストパフォーマンスの良い媒体を選択できる知識」「頻繁な情報更新に対応できる機動力」この4つがあってこそ、真の意味での「情報加工産業」の担い手になれるのではないか。
では、現状の印刷会社がWebの受注をするため何をすべきなのか。大切なのは、「自分の強みと弱みを知ること」である。Webがまったく新しい領域であった場合、すでにライバルは多数存在している。そのライバルを打ち負かすだけの自社の特性を見極めることが重要である。まずは「強みは最大限に活かせる手段」を考えることである。製品カタログ、入社案内、伝票など自社の得意としている印刷媒体をWebに展開することもひとつの手段であろう。また、自社のスタッフを最大限活かすことも可能だ。機動力のある営業、質の高いクリエイティブスタッフなどは、印刷会社にとって大きな武器になるであろう。つぎは「弱みはアライアンスパートナーを作り補完」することが必要だ。印刷と違い、Webは技術の進展が早く、しかも領域が幅広い。これを自社のみでカバーすることは、大手であっても不可能であろう。自社の不得意とする領域は、補完できるパートナーを作り、早急にカバーすることがネットビジネスで勝ち抜くためには必須である。
■メディアをトータルにコーディネイト出来る人材育成を!
今まで述べてきたとおり、発注側は「クロスメディアパブリッシング」の重要性に気づきつつある。その中で印刷とWebの両方のメディアを理解し、コーディネイトできるのは印刷業界しかないのではないか。個々のメディアに合った情報をわかりやすく伝えるコンテンツ産業の新しい担い手として生まれ変わるチャンスが目の前に存在しているのである。
では、そのチャンスを最大限に活かすためには、何が必要なのか。メディアをトータルにコーディネイト出来る人材、つまりWebプロデューサーの育成である。Webプロデューサーとは、簡単にいうとプロジェクトのまとめ役だ。クライアント(発注者)に対してはその場でWebサイトのイメージを描ける制作者の代表として。そして制作と開発に対してはクライアントの要望を的確に指示できる現場監督としての役割がある。
Webプロデューサーには、次のような能力が必要になる。
・顧客のニーズとIT技術に基づいた提案ができる「企画提案能力」
・制作及び開発との調整ができる「ディレクション能力」
・金・時間の調整も含めたプロジェクトを進行できる「プロジェクト遂行能力」
・企画を具体的に提案できる「プレゼンテーション能力」
・コンピュータとネットワークに関わる「幅広いITの知識」
光ファイバーやADSLなどに代表されるブロードバンド(広帯域伝送)。日本を含め世界各国でインターネットのハード面の整備は急速に進みつつある。次は、ソフト面での充実が課題だ。そのために、大手企業は映画や音楽などのコンテンツ産業を傘下におくべく様々な戦略を打ち出している。しかし、コンテンツとはけっして映画や音楽だけではない。企業の製品情報や企業活動の情報、そして個人で発信できる情報でさえ立派なコンテンツである。今までのコンテンツ配信手段として一般的だった印刷。次はそのコンテンツを新しいメディアに展開することでチャンスが生まれるのではないだろうか。つまりメディアをトータルにコーディネイト出来る人材育成こそが、印刷業界がコンテンツ産業の新しい担い手として生まれ変わる唯一の手段なのである。
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2001/06/21 00:00:00