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CTPとプルーフ・検版

DTPとCTP

2000年はCTPの導入が急速に進み,プレートセッタの導入台数が500台を越えた。このことは,少なくとも大きな流れとして,プリプレスのデジタル化が終わって次の段階に移りつつあることを示していると考えてよいと思う。
プリプレスのデジタル化を実質的に推進したのはDTPだったが,もともとCTPはDTPより早い時期に発案され実用化も始まっていた。つまり,この時点でCTPより先にDTPが選択されたのは,技術的な問題が原因だったわけではなく,デジタル化の利点を,まずは編集・制作において生かす道を選んだということを意味する。そしてその結果,出力周りの整備,ひいては効率化や生産性向上がいわば棚上げされたかっこうになった。
Level2までのPostScriptが抱えていたとされる問題や,フォントと出力をめぐる問題,あるいは処理対象となるファイル形式の問題などは,技術進歩やメーカーの思惑という要因はあるにせよ,以上のような背景も無視できない。
つまり,PostScript3やPDFなどによって技術的な問題が解決に向かっていることは,CTP普及の一因ではあるだろうが,しかし,DTPからCTPへの大きな流れは,何ができるかという技術の問題というより,むしろ何をやるべきかという意思決定の問題と捉えられる。そしてそう考えれば,CTPを論じる際,CTPそのものの技術動向よりワークフローをどうすべきかが議論されるのもうなずけるし,校正やカラーマネージメント,プルーフや検版など広い意味での品質保証がCTPのもっとも重要なテーマとして取り上げられるのも当然であろう。

プレフライト・チェック

プレプライトはその名の通り出力前にファイルの出力適性,とくにフォントと画像の状態をチェックするために制作側で行なわれることが多く,製版・印刷側で行なわれるプルーフや検版とは区別される。しかし,CTPでは効率化以前の原理的な要請として,前工程へは戻らないという原則があるため,印刷物製作上最初に行なわれるチェックであるプレフライトがきわめて重要な意味を持つようになる。というわけで,プレフライト・チェックの作業的な位置づけとしては,校了のデジタル化だと考えればよいだろう。もっとも,フルデジタルという以上,後戻りも含めた工程間のやりとりを実現すべきだという考え方もあるだろうが,この場合は,技術的に可能かどうかと,実際にどういう工程を組み立てるかは別だということのかっこうな実例といえる。
プレフライト・チェックソフトは従来からおもにDTPで作ったファイルのチェックに使われている。製品によってチェック項目はさまざまだが,アプリケーションレベルでのフォントの使用状況やカラー設定の具合,テキストの状況など,「ファイル」というより「ドキュメント」の状態をチェックするという考え方である。しかし,最近の傾向としてはPDFへの対応,さらにその延長上でPDFワークフローシステムにプレフライト機能が組み込まれる場合も多くなった。

プルーフ

プルーフということばもデジタル化の進展によって多様な意味を持つようになったが,ここでは「試し刷り」「校正刷り」と捉えて,版を出力する前のハードコピー出力によるチェックという意味合いで考えてみる。
フィルムレスのCTP時代のプルーフとしてDDCPが注目されているが,DDCP自体は1980年代半ばに生まれて1990年頃から実用化されたもので,技術的には一定の成熟に達している。DTPに期待が寄せられていた当時は,制作側で仕上がりがシミュレーションできるのなら網点にこだわらずに制作側のイメージに合わせればよいという考え方もあったが,その後,ワークフローとしてのカラーマネージメントの必要性や難しさが強調されるようになったり,あるいはカラープリンタの驚異的な品質向上という環境の変化も影響して,現在ではむしろ忠実な網点再現のできるDDCPの需要が増大している。どの製品を選ぶかは要求品質や納期など仕事の内容によるが,DDCPの特徴を生かした安定した網点方式による忠実な再現が可能で,かつ大サイズな出力機がトレンドである。
1990年代後半から続いているカラープリンタやデジタルカメラなどの一般向け入出力機器の高性能化は結果的にCTP化にも拍車をかけているようにみえる。DDCPは,技術的にも,また本来のコンセプトからしても,もともと「高品質なカラープリンタ」なのだから,カラープリンタそのものの品質が向上してしまえば,後はどれを選ぶかという選択の問題になってしまう。
カラープリンタは圧倒的な低価格ゆえにクライアントやデザイナーが導入する場合が多い。したがって問題となるのは,クライアントやデザイナーから「このカラープリンタの品質で」といわれたときの対応である。印刷側でもカラープリンタを導入して校正に使い,クライアントを含めたシームレスな流れの上でカラーマネージメントを確立すればよいのだが,それはかなり特殊な場合に限られる。しかし,少なくともカラープリンタの種類とその出力特性を把握しておくことは現実的な対応策となる。
なお,ここではくわしくとりあげないが,CTPの場合は本機校正によっても相当程度のコスト削減が実現できる見込みがある。結局のところ,デジタル化しCTP化してもプルーフの選択肢は従来とそうは変わらない。むしろ考えなければならないのはデータのスムーズなやりとり(クライアントからデザイナー,プリプレス,印刷まで)でどのように一貫したデジタルデータの流れを作るかということである。

検版

CTPを導入したユーザからは検版の重要性が増したことが報告されているが,デジタル検版システムを使うと現状ではかえって工程が増えてしまうという指摘もある。つまり,検版用に別にファイル出力しなければならないという問題である。このことは,検版がアナログからデジタルにまだうまく切り替えられていないことを意味している。
検版システムは,最近では検査システムといういいかたもされるが,このところ注目されていて各社からいろいろな製品が出されている。プルーフや検版などはいずれもつまるところは比較である。したがって検版の各製品も,デジタルデータ同士の比較,データと版の比較,出力物同士の比較など,それぞれ訂正が正しくなされているかという内容のチェックや,版にきずがないかどうかなどのチェックを行なう。データ同士の比較はともかく,出力物を比較するということは,多かれ少なかれアナログの要素が入ってくるわけで,そうなると製品そのものの機能に加えて,いかに使うかが成否を分ける鍵になる。
たとえば現在のシステムでは,設備コストや大容量データのハンドリング,比較結果の表示方法などいろいろな課題があるが,これらの課題は,そのまま使う側の作業方法の問題でもある。つまり検版への設備投資をどう見るか,データフローをどう組み立てるか。あるいはどこまで機械でやってどこを目視するか,などである。
検版の根本的な問題は,いかに機械で正確な比較を行なったところで,比較結果の最終的な確認は人間が目視で行なわなければならないということである。それは出力物であろうとモニターであろうと同じだし,検版システムに,相違個所を色で示したり,リストアップしたりする機能があっても同じである。これはいかにデジタル化が進もうと自動化がなされようと変わらない。むしろ,制作工程がデジタル化されてフローがシームレスになればなるほど,チェックにおける人間の役割が重大になる。だから,従来のプロフェッショナルの目視の技術をあらためて検討して体系化することも議論の俎上に載せてよい。

網点

DDCPの項で網点再現に触れたが,実際,フィルムなしで刷版を作るCTPにおいては,網点をどう管理するかがもっとも重要なポイントととなる。
イメージセッタをプレートセッタに置き換えれば,それでCTPワークフローが実現できるというわけではないし,CTPによって網点はきれいになるかもしれないが,そのことが最終的な印刷物の色再現に直接つながるというわけでもない。デジタル化やCTP化で重要なのは従来設備の置き換えではなく,そのためのワークフローをどのように構築するかということである。つまり,最初に述べたように,なにができるかという技術への視点から,なにをすべきかという意思決定と選択の視点に転換する必要がある。たとえば,本稿のテーマからははずれるが,網点フィルムをデジタル化するコピードットスキャンもまた,やはりデジタル化という要請に応えるものであり,あらゆる局面で従来ワークフローの見直しが迫られ,統合がはかられていることのひとつの現れと考えられる。
網点の管理においては計測が基本である。網点測定といえばカラーマネージメント分野とも関連するが,そもそもカラーマネージメントにしても,色を比べて合わせるという意味で広い意味でのチェック作業である。分野別の切り分けにあまりこだわってもしかたがない。最近の傾向としては,網点の測定機器自体がデジタル化対応へ向かっており,ほんとうの意味での環境整備が着実に進みつつあるのはまちがいない。

品質保証としてのプルーフ・検版

本稿ではあえてワークフローやシステム化という視点は避けて,プレフライトチェックやプルーフ,検版,計測など個々の作業のそれぞれについて考えた。ひとつひとつを取り上げれば内容のチェック,版のチェック,網点のチェック,色のチェックなどさまざま作業が含まれるが,全工程の中で考えれば,すべて品質保証の過程として位置付けることができる。
昨今,印刷分野でもISO9000シリーズを取得する企業が増えており,品質保証の重要性がクローズアップされているが,その場合は,各工程におけるチェックというよりはクライアントに対する最終成果物の品質保証という意味合いが強い。しかし,最終的な品質をシステマチックに確保するためにも,プレフライトチェックや,プルーフ,検版について,人間の役割も含めて,品質保証として考え直すことがこれからますます重要になってくるのではないだろうか。
(Printers Circle 2001年7月号より)

2001/06/28 00:00:00


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