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食と農業と環境のデータベース:ルーラル電子図書館

 農業関連の出版や調査・研究を手がける社団法人農山漁村文化協会(以下,農文協)が,自社の出版物をデータベース化し,会員制の電子図書館を運営している。蓄積してきた農業に関する情報を,農業や食べ物,環境などに関心のある人々に広く利用してもらうことを目的としており,オンデマンド出版にも取り組んでいる。農業の知恵のデータベース

 1940年に設立された農文協は「現代農業」や「日本の食生活全集」などを発行してきた。農業の技術は土地や農家によって異なるという。農文協では,最新の技術だけでなく,昔から伝えられてきた土地や農家の知識を,出版物やCD-ROM,ビデオなどで紹介してきた。農業関係者を始め,食物や環境に興味のある人,学校などに利用してもらうため,96年にホームページを開設し,情報提供サービス「ルーラル電子図書館」を開始した。

 ルーラル電子図書館は,農文協が発行する月刊誌「現代農業」「日本の食生活全集」「農業技術大系」「病害虫防除」「教育誌」の計5種類について,全内容(約15万ページ)をHTMLデータとPDFデータで提供している。

 検索システムにアシストマイクロの「ASSIST ACE」を採用することにより,Webから高速で全文検索することが可能である。また,各分野の編集者が目次を充実させている。そのため,検索システムを使わない場合でも,容易にほしい情報にたどりつけるように,ナビゲーションが工夫されている。

 本文のHTML文書とPDFを見るためには,有料で会員登録することが必要だが,検索結果の一覧とサマリーは無料でだれでも見ることができる。このため,既に雑誌のバックナンバーや書籍を購入している人は,情報の所在のみを検索して,本文は所有している本で読むという使い方もできる。

 ルーラル電子図書館の利用料は,年払コースの場合,1年間に2000ページまでの利用が2万4000円で,超過した分は,別途で課金される。

 会員数は現在約2000人で,一般の農家を始め,メーカーや農業改良普及センターなどが利用している。農業技術を支援している海外協力隊員が海外からアクセスしたり,教師が学校で教材に利用するケースも増えている。検索した情報で教材制作

 小学校の授業では,学力重点の学習よりも,ボランティア活動や植物を育てるなど,生活に密着した総合学習の時間が増える傾向にある。「ルーラル電子図書館を小学校の総合学習にぜひ利用してもらいたい」と農文協電算センターシステム開発部の藤井宏一氏は語る。昔の人の暮らしや,ものを育てる楽しさなどを学ぶための基礎資料が数多く,蓄積されているからである。

 例えば,大豆をテーマにした本を作りたい場合には,育て方や加工・料理など,ほしい情報を検索する。選んだ内容をPDFデータで取り出して,目次や構成を考え,オンデマンド出版する。こうすれば目的に合った資料を作ることができる。

 オンデマンド出版される本は,コピーと同じ扱いになるため,版権として1ページ当たりの著作権料が課金される。しかし,その収入よりは,「読者がどのような構成で本を作るか」といった情報のほうが,出版社の貴重な財産になるという。

 これまで本は出版社が編集するものだった。しかし,世の中に情報が増え,データベースがどんどん膨らむと,出版社と読者の垣根が低くなり,利用者自身が編集する機会もますます増えてくるだろう。

(JAGAT発行 プリンターズサークル7月号より)

◆PAGE2002コンファレンス  メディアトラック 「コンテンツの有料化 〜広がるPOD,eBook,会員制Web〜」ではルーラル電子図書館の運営を担当する農文協 藤井氏がパネラーの1人として参加します。

2002/01/31 00:00:00


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