NEXPO99報告 その1
アメリカの新聞製作コンベンションNEXPO99が1999年6月14日から17日までラスベガスで開催された。ここで始めてAdobeのInDesignが姿を現した。InDesignはDTPのソフトでもあるが,その機能だけでは語れない要素がある。というのは,これまでページネーションを主眼に発展してきたDTPの流れを変えるかもしれないからである。InDesignのDTP機能は特別おもしろいものではないかもしれない。それよりも,InDesignというソフトそのものがモジュール的につくられていることが革新的なのである。
DTPの前にも「ページネーション」はプリプレスのテーマであった。コンピュータ上でのページネーションは30年ほど前から新聞の世界では話題であった。これを最初に牽引したのがアメリカの新聞制作技術である。30年間叫ばれたページネーションが,DTPによって現実のものとなったのだが,それではページネーションは過去の技術であり,終わってしまったものかといえば,そうではない。ページネーションは蜃気楼のように,いくら前に進んでももっと先にゴールが移ってしまう。
当初のページネーションは,文字と画像を一緒に処理して,フルページで出力するもので,もうページネーションは終わってしまったのかというとそうでもなく,いくら進んでもページネーションはもっと先にある。実はページネーションの目的や定義が変わってきたからである。
1985年ごろにDTPが出てきた頃は,WYSIWYGのMacと,PostScriptのレーザライタと,Page Makerの組み合わせがDTPであったが,この概念はとうに越えられている。WYSIWYGはMacに限らず,PostScriptもハードウェアRIPとそこにType1フォントが入っているという実行環境ではなくなり,PageMakerのようなShrinkWrap Package Softwareだけで業務が行われているわけではない。少なくともDTPの定義というかモデルはもう過去とは異なっているのである。
この間のDTPの変化としてはプロの使用に耐えるQuarkXPressの登場が大きい。しかしQuarkもPageMakerもページネーションといっても単に電子的な切り貼りをしていただけである。それでもデザイナや編集者が制作に直接関与できるようになって,プリプレスの前工程と後工程の力関係がまったく変わり,USA Todayのようなデザイン革命が新聞界で広く起こった。DTPによるページネーションの目的は,プリプレスの生産性の問題を越えて,編集の変化であり紙面の刷新にもなった。
新聞のシステムの場合,記事の編集システムや集配信システムとの連携でレイアウトの仕事をするためには,Quarkをスタンドアローンで使うわけにはいかず,やはり通信インタフェースなどをつけなければいけない。そのためにXTentionが使われたので,Quarkを使っているといってもQuarkを機能拡張しないと新聞には使えないということでもあった。
今日のシステムを見ると,Adobeの製品でも半分くらいはWindows向けの出荷であるように,またPDFも含めてPDLはソフトRIPになり,TrueTypeも普及し,DTPにユニークな特徴は次第になくなっている。
またDTP以外にパブリシングのためのシステムが必要になっている。つまり,Quarkでも,QuarkデジタルメディアシステムのようなAssetes管理が作られ,XTentionで自動レイアウトが行われ,またQPSも含めて自動ワークフロー管理も必須になっている。このように,ページネーションの焦点はレイアウトよりデータ管理や作業管理のシステムの方に移ってしまった。今日ページネーションは,新聞社や出版社にとって全社的な情報管理システムの一環にあるといえる。
新聞でいえば,広告主と広告のクリエータ,例えばスーパーマーケットと,その広告をつくっている会社とのやりとりで,新聞の地域版ごとの内容に合わせて少しずつ広告の商品を変えるとか,いつ載せるかなどのスケジューリング,それを何版のどの紙面に埋め込むか,またそれらの制作においてネットワークを経由して共通のサーバにある素材を使って行うとか,さらにそのような広告を他の新聞やメディア,WEBに使ったり,新聞が広告の料金を請求するなど,諸々の要素全てがページネーションと関係している。
広告料金でいえば,どのページに貼りつけたかによって値段が違うとか,曜日,また地域版が5版あるうちどれだけ載せたかで料金が違うなど,ページネーションにどう扱ったかということで,料金の請求が見積もりから違う。このように,ページネーションそのものはあまり進歩していないかもしれないが,ページネーションがシステムの中でかかわる部分は非常に多くなっている。
Assetes管理,ワークフロー自動化システムなど,イントラネットでデータベースを利用し,このようなシステム統合をしようとしている。Knight Ridderのグループなどは,グループの37社が全部イントラネットで1つのデータベースを使うとか,また,ヨーロッパの新聞でも,イントラネットでなるべくシステム統合を自社開発で試みるところが続々と出ている。従来のようにベンターごとにネットワークの異なるプロトコルを持ちよってシステムを組まれるのは困るという考え方になる。そのようなベンダーからの依存を少なくするために,記事を編集するのにLotusNotesのようなグループウェアのツールを使うというものもある。
このようにアメリカでは焦点が変わってしまったために,かえってフルデジタル化という視点ではページネーションに邁進しているわけではないようだ。新聞発行者の協会であるNAAが調べているのだが,完全なページネーションはアメリカでは約26%。従来の版下を切り貼りしているところも約3%ある。したがって3分の2くらいは,ページネーションはしているが,一部,例えば広告はフィルムを貼り込むということなどがまだ残っている。特にアメリカの場合,広告がらみが非常に遅れていた。これも状況は大分変わってきており,APがAdSentなどをやっているように,広告をデジタルのまま配信することもしているが,旧来のシステムもたくさん残っているというのがアメリカの特徴にもなっている。
一方,ヨーロッパは,フルページネーションやCTPが新聞では進んでいる。アメリカは言論が自由の国というように小さい新聞社が多くあるようにメディアが多様化している。ヨーロッパは日本と似ているのだが,新聞社が結構しっかりしており,一貫した体制を持ってシステム的に仕事をしているので,フルページネーションが進んでいるという。
このように,ページネーションは生産性向上のためのスタンドアローンのシステムであったのが,他の目的も複合したデジタルシステムの時代になり,独立したシステムではなくなった。したがって,その会社なりに別の観点の目的があり,ページネーションはその目的に合ったように作り込まれていくようになった。
InDesignは,このような今日的な状況を踏まえて設計されており,一方Quarkは一世代古いスタンドアローン+XTentionのレベルのままで設計されているのである。Quark 自身は,もともとがShrinkWrap的Package であり,技術情報に関してはクローズドだったので,XTentionという外側からのインタフェースを作っていた。しかしそこでできることは制限があるし,またQuarkは非常に警戒心の強い会社で,誰でもXTentionをまったく自由にできるというわではなく,XTentionを開発するメーカーは,Quark の競合製品をつくってはいけないなど,いろいろな足かせがあった。ページネーションが多様化する時期であるから,Adobeはこれを契機にQuarkの弱みにつけ込もうとしている。
(T&G研究会会報117号より)
1999/09/01 00:00:00