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K2の背景

NEXPO99報告 その2

1998年夏にはK2(クオークキラー)騒動があった。Quarkはプロのパブリッシングの7〜8割は押さえていて,AdobeはPhotoShop,Illustratorなどの分野は9割以上のシェアを押さえているが,両者ともにらみ合って膠着している。AdobeはPageMakerをアルダスから引き継ぎ,いろいろやったもののQuarkを押し返すことはできなかった。またQuarkはPhotoShopのようなものをつくろうとして失敗した。

こういった状況を突き抜けるために両者とも電子メディアに取り組んだ。Quarkはパッケージメディアの方を考えてImmediaをつくり,AdobeはPDFなどネットワーク対応を考えていたが,Quarkはネットワークの方は見ていなかったし,AdobeもインターネットのHTMLの方が,PDFよりよく使われているように,両方とも違うレベルへいけずに,またもとの土俵で激突することとなった。

両方とも表現系の技術は強いものの,SGMLやデータベースなどコンテンツ管理やデータ管理が弱い。そこは他社に譲らなければならないので,他社との関係をうまく築けるかどうかが今後の鍵であるだろう。

AdobeはIllustratorやPhotoShopのバージョンを次々と出したのだが,必ずしも機能が上がったわけではなく,Adobeの都合でユーザインタフェースを統一していった。しかし実はその裏で,例えばタイポグラフィや,色を扱うなどの部分でモジュール化をしてきたのである。つまり,それぞれの似たような機能を共通のモジュールにして一貫性を持たせてきた。

AdobeはPhotoShopやIllustratorというキラーアプリケーションをベースに,もう一度DTPをつくり変える準備をしており,その総決算がInDesignである。 そしてもう1つ,紙用に作ったコンテントがなるべくシームレスにWEBにいくように,WEBへの働きかけもしている。ソフトのモジュール化とデータの互換性の関連上でもInDesignは位置付けられてくるだろう。AdobeがInDesignをつくる理由は,Quarkとのシェア争いだけではなく,Adobe自身が抱えている諸々の製品の整理という意味があり,もう1つには紙だけではなく電子メディアに向うために必要だからであろう。

例えば色を扱うモジュールは,PhotoShop,Illustrator,PageMakerでそれぞれ別々にあると,色をWEBと合わせるなどした場合,それぞれ3つのソフトに関してWEBと合わせる仕事をしなければいけなくなる。色に関するモジュールを1個のコアでつくったなら,新たな色の規格に対応するときには,Adobeは1個のモジュールに対して変更を加えれば全部のアプリで使えるようになると思う。

このようなことはPageMakerにしがみついていてはできないのである。もう1つの課題であるPDFについてもPageMakerが進展の鍵にはなっていない。技術的にいえばPDFは今1.3だが,1.2の時代が長かった。Geschke氏は世界に1億個のPDFのリーダーが散らばっているという。客先校正にするものもこれでやり,ワークフローツールになっているというのだが,客先校正であろうとワークフローツールであろうと,ディストリビューションであろうと,それぞれPDFに対するいろいろな要求が起こった。

Adobeがあまり要求に応えず沈黙し続けていたのは,PageMakerそのものが,もう1つPDFとしっくりいかない点があるからではないのか。当然PageMakerからPDFに出すことはできるが,例えばPDFを貼りこんだりエディットすることはできない。AdobeがデータをPDFにしておけば,デジタルマスターとしてずっと使えるといっても,PageMakerでは加工できないことやXMLの対応はどうするかなど,急いで答えを出すべきことが増えている。

以前は,PDFの中にもXMLのタグを入れられるようにすると言っていたのだが,今PDFが中途半端なのは,とりもなおさずAdobe側にPDFを扱うキラーアプリケーションがないからであろう。

AcrobatはDTPソフトのように機能があるわけではなく,変換プログラムのレベルである。AdobeはPDFというテクノロジーを持っていながら,十分にアプリケーションに活かしてなかったということになる。

少なくともQuarkよりPDFでは先を行っていたのだが,DTPの8〜9割の人はQuarkを使っているのだから,PDFはQuarkで扱えなくてはプリプレスの中では意味がないと言われてしまった。QuarkがHTMLやPDFをサポートするのは1999年だと言われていた。AdobeにしてみればQuarkがPDLやHTMLをサポートする前に,Adobe自身でこのようなものをサポートする製品を出さなくてはならない。1999年3月のSeybold Bostonで大きく2つの発表があった。期待されていたのはAcrobat4.0でPDFが2.0になりXMLをサポートすることだったが,実際は1.3に踏みとどまり,XMLの話はなかった。しかしInDesignの発表があり,PageMakerが突破口にならない点は目途がついたように思える。

1998年に話題になった「クォークキラー」という表現は刺激的で,要するにソフトの乗り換えをしましょうということである。機能的にいえば,XPressの文書をそのまま開けるとか,XPressのショートカットキーがそのまま使えるオプションがあるとか,Quarkのユーザに割り引き販売するなど,挑戦的な広報をした。また,PDFワークフローが注目を集めているので,PDFをサポートしたInDesignを世に送り出すチャンスでもある。

Quarkは多く使われているように,ある意味では機能的に非常に優れているのだが,Quark社はカスタムサポートが悪いと不平不満を言う人が多い。AdobeとしてはPageMakerではなく,もう一度仕切り直しをしていけるとの見込みができたのだろう。

Quarkのソフトを持ってくれば,InDesignは699ドルくらいだが,5分の1の値段で交換して売りますなど,ちょっと前までマイクロソフトがOfficeソフトでしていたようなやり方で売るぞという意気込みだった。これがQuarkがAdobeを買収しようかという話になっていたのである。

InDesignの性格でQuarkとの一番の違いは,いわゆる今日的オブジェクト指向のプログラミング技術であることである。完全にモジュール化した,過去の足かせのないクリーンなデザインであるということは,XTentionのように温泉旅館の建て増しのようなかたちでシステムをつくるのではないから,開発が容易で動作が信頼できる可能性が高い。

Adobeはモジュールを使うためのインタフェースのガイドラインを出版して,用途ごとのカスタマイズを行いやすくするフレームワークを提供して,QuarkXTentionよりもシステムインテグレータに好まれるというのもK2の狙いだった。

(T&G研究会会報117号より)

1999/09/01 00:00:00


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