NEXPO99報告 その5
新聞紙面は作り方に関してだいたい大きく分けて3種のタイプがある。第1は,いわゆるカバーページで,全体のカバーと,スポーツ,マネー,リビング,エンタテイメントなどいろいろなセクションのカバーがあり,そういう表紙はデザインをかなり凝る。第2は,記事編集して意匠広告の間などに記事を流し込んむものである。第3は,自動生成のページで,株価欄,案内広告,気象,ラジオテレビ欄など,決まったものを自動的に組む。ひとつの新聞はこれらの組み合わせになる。
新聞システムが手作業ベースだったときには文字と画像を貼り込むなどの共通部分のページネーションだけを目標にすればよかった。だが今は,ページネーションの概念が変わったように,例えば自動生成のもとはデータベースや通信からとってきたものなど,外部といろいろからむ。新聞のシステムはそのようにますます多様になっているため,新聞の場合,システムインテグレータやベンダーの活躍の場は減っていないということである。そのような人たちにInDesignの採用をAdobeは勧めているのである。
新聞インテグレータは,DTI,SII,マネージングエディタのほかに取り組みを表明していたのがハリスで,もともとDTP以前のWYSIWYG専用システムの生き残りである。デンマークの会社で,サクソテックはブラウザで新聞編集をするところがInDesign採用を表明している。同社はブラウザでテキスト編集だけではなく,一応フォントの使い分けも含めて,Javaで組版的なことができるようにしている。素材もぜんぶイントラネットでとってきて,最終的に,どこかの組版システムにポンと流し込む。ブラウザ上でこのようなことをする会社は,今いくつか出てきている。
アメリカンコンピュータイノベーションのオープンページは,例えばDTPでプリント用に作ったページをあとでHTMLか何かにしてオンラインに使うのではなくが,ここではWindowsベースの組版システムで,同時に両方できる。これは今,Quarkを組版エンジンにしており,ワードで記事編集し,QuarkのXTentionを使って組む。先程言ったように,ワードで組む段階でQuarkに流し込んだら何行になるかわからないということで,XTentionで一度Quarkに流し込み,流し込んだ結果の各行をもう一度XTention経由でワードに戻して表示するという回りくどいことをやっているが,InDesignを採用するという。InDesignを採用するインテグレータは,昔からやっているハリスや,Macのシステムでは古手のマネジングエディタなどと,新興の新しい会社の両方ある。
このことで思い出されるのは,DTP出現時にジョナサン・シーボルト氏が言った「第4の波」である。これは専用機がなくなってパッケージソフトウェアに置き換わるシナリオで,確かにQuarkが主流になった。ではプリプレスの専用システムは死んだのかというと,WYSIWYGだけを売り物にしていたメーカーは,ほとんどパソコンにとって代わられて,なくなってしまったし,カラーのスキャナシステムはNEXPOにはほとんど出なくなった。 しかしテキストの編集や管理のシステムは,実は残っていて,全部がパッケージソフトになったわけではない。
例えばAtexは,テキストの編集や管理システムでは一番有名だが,Atexはいろいろな会社に買収,売却されるたものの,Atexがなくなることはなく,もう一度時代に合わせた新製品が出ている。冒頭で言ったが,ページネーションというのは,ページの中に文字や図版を並べるのではなく,並べる文字や図版を必要なときに必要なものが出てくるように管理できなければいけない。このようなところがQPSも含めてDTPの時代になって新しいところがいっぱい出てむしろ増えている。しかも,いろいろな目的ごとに多様化している。 したがって,InDesignでいえば,新聞システムは多様に諸々の組み合わせがあるので,そこに入ろうとしており,入る余地はあるということである。逆に,パッケージ売りをそれほど重視していないかもしれないということだ。
冒頭のように,システムの統合が大きな課題であり,新聞の場合なら購読管理,会計など生産管理,広告受注の管理,プリプレスなど,これらをいかに統合していくかが近年のNEXPOなどのテーマであった。例えばオーストラリアのCyberGraphicsは,Windowsのレイアウトシステムを採用し,購読管理や会計,生産管理,広告受注管理など,どちらかというとOAシステムに非常に結びつきやすいものとしている。
新聞システムは他のシステムと組み合わされて使われるので,関連システムがInDesignをどう見ているのかというのも重要な情報である。新聞用記事の配信サービスというものがあり,日本でもラテ欄の専門の会社があるが,向こうの場合気象やテレビの番組,株式などの情報を新聞社に提供しているところがいろいろある。アメリカの場合は規模の小さい新聞社がたくさんあり,お客さんがほとんどQuarkでページネーションをしているのなら,このような記事もQuarkですぐに扱えるように,あるいはQuark用にいろいろなタグを入れるなど,便宜をはかる。客のワークフローに合わせて記事配信サービスをしている。ものによってはEPSFで提供しなくてはいけないものもあったが,これはお客さんが貼り込んで何かの都合で再編集しようとしてもなかなかできないということがあった。
InDesignになるとお客さんは再編集できるし,お客さんのワークフローに合わせやすいという期待はある。例えばTVDataは,いろいろな新聞,雑誌など2,600ほどのクライアントにデータを提供している会社である。小さい新聞社などはDTI,もう少し大きい地方の主要な都市ならSIIのシステムなど多くあるから,そのようなDTIやSIIのシステムに合わせてデータを配信すると,お客さんは助かる。DTIやSIIというのはInDesignを取り込むことを表明しているから,その意味でいくとQuark向けにデータを出すということと,もう1つDTIやSIIのInDesignを使っている人向けに,このようなデータを提供するという2つのチョイスが出てくることになる。Adobeとしてはぜひそうしたいということだろう。
ところが現状はほとんどQuarkなのだから,もうQuarkに合わせてやっていればいいやという会社もある。トリビューンメディアは,過去にQuarkに投資しており,今新たに別のDTPに対応するのはリスクが大きい。リスクが大きいが,今Macだけやっていればいいというわけでもないので,お客さんからどうしてもそうしてくれという要望が出たらInDesign対応するというように,少し静観する態度のところもある。
ユーザ側でもLosAngelsTimesは地域版がたくさんあり,また,気象,テレビ,株式,漫画などいろいろな外部のソースも取り込まなければならず,複合ワークフローを整理するのにInDesignに期待するむきもある。
APはAdSendが1999年は150〜160万件の広告をPDFで配信するようになるだろうというくらい大きくなっている。AdSendの場合,広告を作っているのはPhotoShopやIllustratorのヘビーユーザなのだから,そのような人たちはInDesignにきっと興味を持つだろうということで,APはInDesignをサポートし,それによる新しい何かを考えようとしている。これはおそらくAdobeが情報提供なり一緒に協力し,何か新しいサービスをAPにさせようと動いているに違いないと思う。
APは株式情報の改善にもInDesignを使うことが検討されているという。Adobeは新聞業界をあちこち突っつきながら,InDesignによる新しいワークフローや,新しいシステムのつくり直しが速いということを言おうとしている。特にDTIのように,従来専用機のようにして何十万,何百万かの行のコードを全部自社で書いていたところにとっては,InDesign上でモジュールでわりとコンパクトにコードが入り,それを動かしながらつくればよいとなると,非常にメリットがある。DTIの人自身もそう言っており,InDesignのようなオブジェクト指向のつくり方の方が,開発は速くて楽だと言っている。したがって,DTIが成功すれば,このようなつくりこみはInDesignでやるというのが1つのパターンになる可能性はあるだろう。
(T&G研究会会報117号より)
1999/09/01 00:00:00