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InDesignのBETA

NEXPO99報告 その4

AdobeのプレゼンではInDesignの位置付けが他のアプリとの関係で示された。中央にInDesignとあり,上にPhotoShop,Illustrator,AcrobatとType1やOpenTypeなどがなる。その下にWorkflowやAssetManagementがあり,PostScriptやPressReadyやPDFがある。 実際,DTPの作業をする95%の人はIllustrator,InDesign,Acrobatから上で,主な作業はInDesignになるだろう。しかしAdobeとしてのストラクチャは,下のWorkflowやAssetManagementなどや,イメージングモデルであるPostScript,PDF,またPressReadyというインクジェットのカラープリンタをカラーマネジメントをして校正する仕組みがある。

このようなもの全体をソリューションとして考えているわけで,部分の切り売りをするわけではない。特にInDesignは中心的なもので,ICCのカラーマネジメントにも対応し,InDesign,PressReady,インクジェットプリンタを使えば,デザイナの段階からそれなりに印刷と合うであろう色を手元で出せるということも言っている。

InDesignそのもののセールスポイントは,例えばPhotoShopのネイティブファイルをそのまま貼り込み,開いて加工できたり,Illustratorを開いておき,図版中の必要なオブジェクトを取り出して,カットアンドペーストしてInDesignの中に貼り込み,それからオブジェクトの色の指定したり変形,加工することができる。このようにIllustratorとまったくシームレスに使うことができる。

PhotoShopに関しては,写真の見出しの文字は普通白黒の字で打つのだが,それをアウトラインにして写真の上にのせ,グラデーションで色をつけるなどしてしまう。つまり,PhotoShopでも文字に上にのせてアウトラインで加工することができるが,PhotoShopの上で文字を加工するように,InDesignの上にPhotoShopの絵を貼って,まるでPhotoShopでつくったがごとく加工することができる。ほとんど同じ機能でベクタや画像を扱うことができる。

PDFそのものもPhotoShopなどを開けるが,これも同じで例えばInDesignに貼りこまれたPDFの画像をクリックしてPhotoShopで開き,回転させたり色を変えるなどして,戻してしまう。PDFがEPSFとまったく同じか,それ以上に使える。 このように図1の各ソフトが合体して作業できる。また当然,ここでつくったページは,その場でPDFに落ちる。落ちたものを通信でどこかに送れば,受け取った方もAdobeのプレスレディなどを持っていれば,自分のインクジェットプリンタでカラーマネジメントして校正出しができる。ここまでのシステムがパッケージソフトの組み合わせだけでできる。

ファイナルBETAの完成度は,DTIなどは動いているのに,マネージングエディタなどは未熟で,人によって評価は異なる。これはInDesignのプログラムが過去と相当違うものなので,慣れるのに時間がかかるのではないかと思う。例えばAdobeタイプリユニオンや,AdobeタイプマネージャなどはInDesignでは使えない。そのような,過去のレンダリングに関するものは全てとっぱらっている。もともとAdobeのIllustratorなどでもPostScriptを扱うのだが,そのような従来のものとはまったく違うし,当然クイックドローも使えない。フォントのラスタライザも,全部を通じてクールタイプという名前のフォントラスタライザになり,ATMではなくなっている。

また,これが動く環境は,かなり厳しく決められており,G3MacでOSは8.5以上とか,ペンティアム300以上のWindows98かNT,RAMは64MB以上などがある。ハードウェアの負荷はたいしたことないが,ソフトウェアでは流儀が違うと大きなハンディキャップになるのかもしれない。このようになことが応用の遅れる原因になりそうだ。

組版機能

InDesignを使っての効果で,パッと見の魅力では組版の品質向上が一番だ。欧文の段組で単語と単語の間が以上に空いて非常に間抜けな行ができることがある。これをを防ぐため,TeXがしているように,前の行などを見て,そちら側に詰めたり追い出したりすれば次の行がうまく収まる。そのような前後関係を見て最適な組み方をするマルチラインコンポーザがある。実際は単語間が詰まり気味になり,そのために行数が若干短くなり,スペースの節約になる。

また英語ではタイポグラフィックカラーといい,色のことではなく文字組イメージのことである。今までクラフト的に組版をしていた人の感覚でも納得できる組版調整ができる。しかし日本語に関してはどうなるのやらという気もする。 次に,売り文句のQuarkのファイルを開いてそのまま使えるというのは,Quark3.3はほぼ開け,4.0になると9割くらいは開けるという。しかし開けても,Quarkにはいろいろなテンプレートの設定やライブラリなどがたくさんあり,それらをはたして引き継げるのかということになる。

それらをきちんと自動変換できるかどうかは,結局は複雑さによると言われている。ライブラリは構造が違うため,そのまま変換することができない。ライブラリをいったん読み込んでコンバートし,もう一度InDesignでライブラリの登録をし直す必要があるため,まったく手間いらずで今Quarkを使っているところにそのまま持ってきたらそのまま使えることにはならないという。また,InDesignの構造関係はまだ明かされていないので,InDesignでライブラリなどデータベース化してどのようなことができるのかは,まだよくわからない。

また,文字を流し込むのは,記事編集するときにレイアウトにほぼ合うよう文章の長さを調整しておかなければいけないのだが,Quarkの場合は,Quarkに流してみなければ何行になるのかわからない。つまり,記事編集しているところで,これはQuarkで貼り込んでピッタリにしようと思っても,そのような文字編集がほぼできない。なぜならQuarkはハイフネーション&ジャスティフィケーションのアルゴリズムを公表しないため,テキストのレベルで字切り,どこで行が終わるかをできないということであった。InDesignは,テキストエディタで計算すればハイフネーション,ジャスティフィケーションがどこで行われるか分かるようにすることになっている。

最近Windowsなどマルチリンガルなプログラムであるが,この3月に発表されたAcrobat 4.0もプログラムとしては世界中で1個で,それに対してメニューなど,日本語にローカライズされているという意味で日本語版にした。InDesignでは組版モジュールは日本語に作り変えなければならないだろうが,例えばテキストを開くとき,テキストボックスの中にコードを指定するところがあり,UnicodeやシフトJISなども出ている。そのようなテキストをそのまま持ってきて,そこで開いて流し込んでしまうことができるくらい,本体は一応マルチリンガルにつくられている。

操作の改善

IllustratorでつくったものをPageMakerなどに貼ると,72dpiのTIFFビットマップの絵になり,字はギザギザで読めなかったのを,InDesignではIllustratorもカットアンドペーストができるくらいだからベクターをビットマップに展開してWYSIWYG表示できる。ビットマップのものはプロキシイメージと呼び,それに対してプリファレンスで切りかえてフルレゾリューションイメージ表示する。当然フルレゾリューションイメージは,画像でもイラストでも表示が少し遅くなる。しかしこれにより,ソフトプルーフィングできるのである。

ベクターグラフィックスの編集は,freehandのベクターグラフィックスを開いていじることができるほどで,どうもベクターグラィックスに関しては,いろいろなコンバートをしているのではないかと思う。これはAdobeの長年のノウハウであろう。 それから操作の共通性については,これはIllustrator,PhotoShopなど全てそうだが,アメリカ人は必ずしもよいとは言っていなかったのが不思議だ。つまり,アメリカには「分業」があり,カメラマンは写真を触ってもテキストは触らないとか,編集の人でテキストは触るけどPhotoShopは触らないという境界がある。だから,共通性に対して必ずしも皆がそれほど喜んでいるわけではない。ただ,広告の人はIllustratorやPhotoShopに慣れており,InDesignはまったくそれと同じインタフェースでできるから,「これはいい」と言うわけである。編集の人はPhotoShopやIllustratorは必ずしも使っておらず,使い方も知らないから,どちらかというとInDesignにはとまどう。写真担当やアーチストはレイアウトは知らないから,InDesignにはあまり関係がない。画面にいろいろなソフトをパッパと開いていくとき,似たメニューがいっぱい出たらどうするのかという心配もある。

また,Quarkのようなメニューを用意していて,ユーザが異なる操作は「ちょっと触りたくない」という心理的な障害がないようなにしている。Adobeの製品間で共通性を持たせる努力と,Quarkのメニューに慣れている人から見てそれが嫌なものであっては困るという矛盾も抱えている。これにら関してはキーになるユーザがどう評価するか,まだ答えは出ていない。

また主に編集の人はキーのショートカットを使うので,Quarkのキーのショートカットがそのまま使えるオプションがある。さらに,ショートカットをもっと発展させて設定を重ねられるようにして,Quarkをそのまま使うよりも,InDesignでさらにこのような設定をしていけば,あなたの仕事はスムースにいくという言い方をしている。

これらは操作面では「次世代のソフト」という感じはしない。では,次世代と呼べる点はどのようなところにあるのか。InDesignは一つのビューアであると言ったが,全データをちゃんと完結して表示なり組み立てなりができるということだと思う。ベクターを切り貼ってでも持ってくるし,これ自身でPDFという一つの完結したファイルをはき出すことができる。そのためにいろいろなコレクト機能,例えばどんなフォントを使っているかなどリストを挙げる機能もある。Quarkとのデータコンバートの際に,QuarkのXTentionで扱っている,XTentionの向こう側にあるものまでアクセスするようにもできるという。

InDesignは自分の情報を管理するプレフライト機能を持っており,プレフライトソフトはいらない。考え方としてInDesignを中心にデータを集め,完結させてしまうもののようだ。 また,自動化でいうとスクリプティングによりシステムインテグレータをするほどではない,ユーザレベルのカスタマイズができる,MacのAppleScriptやWindowsはVisualBasicをサポートしている。

今までQuarkを使っているユーザや,MacでQuarkという人hにはアンチ技術的な人がいて,スクリプティングは必ずしも皆がするわけではない。改善するのがいやだとか,マニュアルも見たことがないという人がDTPをする人の中に多いから,このカスタマイズの機能がどれだけの売りにつながるのか,もうひとつわからないという言い方をされている。

オブジェクト管理

90年代のプログラミングはオブジェクト指向で,オブジェクト管理はなるべくもとのオブジェクトのデータのまま持っていて,なるべくあとでレンダリング処理をするかたちである。InDesignではページがレイヤ構造になっている。レイヤにいろいろなオブジェクトがバラバラにあってもリアルタイムに画面にレンダリングしたり,再度バラバラでいじれる機能を持っている。

新聞でいえば,例えば西東京版,東東京版などの版があり,記事や広告の一部が差し替わることが起こるのだが,そのような差し替えはレイア構造を使い,レイアを取り替えることにより記事の差し替えができるようにする。Quarkなどでいろいろな版をつくる人が困っていたのは,いちど版をつくり,それをもう一度つくりかえている。すると,ひとつ新聞を出すと何倍かの新聞のデータができてしまい,一元管理しないということであった。また,同じレイアウトに違うテキストを差し込んでいくような類のものも,InDesignでできるようになる。

このようなことはQuarkではXTentionを使って外側の機能でやっていた。つまり,外側でテンプレートや中のコンテンツを用意して組み合わせ,Quarkに持ちこんで流し込むことを繰り返す,というやり方である。InDesignはそのようなXTentionがしていたオブジェクトやテンプレートの管理機能を持ってきている。

このような機能があることと関連していると思うが,Quarkで20KBのファイルをInDesignに持ってきて保存したら100KBになっていたとか,Quarkで60KBのものが200KBになっているなど,今InDesignのベータでやるとファイルサイズが4〜5倍に大きくなってしまうと言われている。実際に商品版のときはどうなのかわからないが,ネットワークのトラフィックなどからいってもちょっと困るのではという話もあった。

ファイルサイズが大きくなるというのは,オブジェクトの情報など,そこでいろいろ処理をする手続きの情報などを圧縮していないというか,落としていないということだろうとも解釈できる。レイヤや小さいオブジェクトがたくさんあって,それがネスティングしているのをリアルタイムに重ね合わせて表示処理していくという,結構難しい仕事をしているのだろう。

それでもInDesignのネイティブで保存するなりPDFではき出すなりしていた方が作業的には軽い。EPSを開くなどに比べると,ネイティブのファイルを開く方が速い。だからなるべくEPSは使わずに,ネイティブやPDFでやればいいということになるのだが,ではInDesignのネイティブはRIPでどうなるのか。RIPの負担,またはRIPの対応が問題になる。この辺はまだよくわからないところになる。

イメージ処理は,従来とは違っている。RIP3などをつくったときと同じ考え方をしているのではないか。XPressは,ページの外側や重なって見えないところも出力処理をしているが,InDesignはページのバウンダリンの内側や,見える部分のみを処理するようになっている。RIP3で見えないところの処理ははしょることができているので,そのようなテクノロジーが入っているのだろうと思う。

また,InDesignは従来のPostScriptドライバを使わず,自分でPostScriptをはき出す。出力機が,従来ならドライバを対象に考えていたことからみれば,少し違う。InDesignがつくったPostScriptファイルはどのようなものかというのは,出力機側からの検証はまだよくされていない。

(T&G研究会会報117号より)

1999/09/30 00:00:00


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