InDesignが注目されるのは,おもに以下の2点である。ひとつは,いうまでもなく単体ソフトとしての機能そのもの,とりわけ日本語組版機能の充実である。日本語組版に特化したインタフェースと詳細な組版設定機能は,先進的なデザイナーや経験豊富な組版担当者からの評価が高い。もうひとつはPDFベースのワークフローにおける有用性である。
ただし,これはワークフローシステムの状況やOS/ネットワーク環境などにも依存するから,実際にどのように使えるかは今のところ未知数である。ただ,PDFを使ったワークフローでは,パワーユーザがハードウェアやプラグインを組み合わせて個別にシステム構築することが進んでいて,InDesignはまずこの方面から取り入れられる可能性が高い。
InDesignについては必ずしもよい話ばかりではない。ビジネス向けのPageMaker7の英語版が2001年6月に発表されたが,ターゲットが違うとはいえ,1社でふたつもDTPソフトを持つこと自体,先行きの不透明さを物語るものだろう。QuarkXPressが今後どうなるか,あるいはWindows市場がどうなるかなど,ソフトウェアの機能そのもののとは直接関係ない変動要因が多くて,InDesignに限らず,組版ソフトの行方は非常に見えにくくなっている。このうえMacOS Xまで考慮するとなるとほとんど混沌とした状況にみえる。
とくにフォントの場合,そもそもType1とTrueType,OCFとCIDのフォント形式の違いはアップル,アドビ,マイクロソフトなどの都合で生まれたものといってよい。T&G研究会のミーティングで「OpenTypeでようやく本来のフォント制作/書体デザインの仕事に集中できそうだ」とのフォントベンダーの意見があったが,ユーザのみならず,フォントベンダーさえ,フォントフォーマットに振り回されてきたのが実情である。OpenTypeでその状況も変わるだろうが,まだ少し時間がかかる。今年2001年の後半から2002年にかけてがOpenTypeへの移行期ということになろう。その鍵を握るもののひとつがMacOS Xの普及である。
MacOS XにはヒラギノなどのOpenType書体が搭載されて出荷された。フォントの文字種については,数の多寡よりも,どこからどのように集めて決定したかが重要だが,その点では文字セットはAdobe-Japan1-4が基本という線が確定したと見てよい。リリース時のMacOS X付属のOpenTypeフォントのうち,プロフェッショナル版と呼ばれるものがAdobe-Japan1-4に準じたものだという。アップルはさらに文字種を追加した拡張文字セットを策定中で,これがおそらく2001年後半から2002年にかけて発表されるだろう。
この中身が明らかになって,JIS規格との関係などがはっきりすればOpenTypeフォントの普及も早い。しかし,肝腎のMacOS X自体は,いかんせん,現時点では対応アプリケーションがほとんど登場していない。たとえばPDFをベースとした描画エンジンQuartzはTrueType,Type1,OpenType形式のフォントを標準でサポートしているはずだが,DTPアプリケーションやドライバ,RIPによる検証はこれからである。
これは根本的な矛盾であり,簡単には解消しない。基本的なデータフォーマットだけは統一して,メーカーはオプション的な処理ツールをシステム化し,自動化・効率化で競う方向に向かえばよいのだが,そのためには今のPDF自体も見直す必要があるのかもしれない。こうした状況に対し,信頼できる出力フォーマットとして1-bit TIFFがクローズアップされている。
通常,データは入力側/プリプレス側では8ビット256階調のカラー画像として扱われるが,イメージセッタなどから出力する最後の段階では階調のない1ビットの白黒データである。つまり,色分解され網点化されたラスターデータがデータとしてはもっとも信頼がおけるということだ。1-bit TIFFのワークフローとは,この1-bitデータを中心にデータフローを考えようというものである。
1-bit TIFFは,その由来からして明らかなように,修正が困難でデータ容量が大きいなどの欠点を持つが,データの信頼性という一点に注目が集まって修正ツールやデータ圧縮ツールなどがそろい始めた。ただ,デジタル網点を画面上でストリップ修正するというのは現実的なソリューションとして有効かもしれないが,デジタル化本来の姿とは逆行するものではないだろうか。
これはこれまでメーカー主導だったプリプレス側のPostScript/PDFワークフローに対する,プレス側からの揺り戻し現象と考えればわかりやすい。工程全体のワークフローを考えれば,1-bit TIFFですべて解決するわけではなく,あくまでも現時点におけるソリューションのひとつと捉えなければならない。将来を考えれば,月並みではあるが,やはり,仕事や場合に応じてPDFも1-bit TIFFも流せる柔軟性を確保しておくに越したことはない。
デジタルプリンタ分野では富士ゼロックス,キヤノン,リコーなど複写機の老舗によるシリーズ展開が目立ち,カラープリンタでもエプソンやHPをはじめとしたメーカーが元気だが,いずれもオプション機能で競う方向になってきた。
しかし,オプションが増加するというのは,一面では本来の出力機能が飽和しつつある現れだとも考えられる。つまり,ここ数年来続いてきたカラープリンタのプリンタとしての速度や画質はひとまず一段落したと見てよいだろう。残ったのはカラーマネージメントだが,これもやはりワークフローの範疇であることが指摘されている。
PDFワークフロー関連でユーザによるカスタムメイドのシステム構築が進んでいると述べた。今ではみんな当たり前のように使っているが,なんといってもPDFは画期的なフォーマットであり,最初からユーザの後押しが大きかった。PDFの良さを感得した人たちは,自分たちがPDFをよりうまく使える方法を模索し,自らシステムを作り上げる道を選んだということである。
そこにあるのは,PDFが絶対などという考え方とはまったく逆の,よいものがあればできるだけうまく使おうという貪欲で柔軟な精神である。これはXML/SGMLについても同様だし,カラーマネージメントでも同様である。
PDF,XML/SGML,カラーマネージメントは,いずれも供給側にとっては市場が把握しにくい分野とされている。しかし,これらがいずれもワークフロー構築の要となる要素であることを考えれば,もともとユーザ主導であってしかるべき分野だということは明らかである。ユーザ主導とは,ハードウェアであれソフトウェアであれ,高価格であれ低価格であれ,必要なのはものを作るための道具であって,それ以上でもそれ以下でもないという認識を持つことである。
ユーザが必要としているのは便利で柔軟なツールであって,なにもかもいっぺんに解決できるような大掛かりなシステムを要求しているわけではない。
■出展:JAGATinfo別冊機材インデックス2001-2002より
2001/10/20 00:00:00