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パソコン工程管理の開発からパッケージ販売まで

株式会社グラフィカ大内/株式会社イデア

製版業界を取り巻く環境は依然厳しい状況が続いている。技術やノウハウがコンピュータに取って代わられ,レタッチもなくなるのではという不安もある。しかし,日本においては高度な製版技術は印刷物に不可欠ではないかという見方もある。多くの製版会社がプロの技術力を自負しているように,画像を管理できるのは製版会社しかない。
今回はデジタルとアナログを内包させながら新事業にも意欲をみせる(株)グラフィカ大内の代表取締役大内靖之氏とクリエイティブ事業部の若林真人氏に今後の展望を伺った。

新社名で新たなビジネス展開を

東京・墨田区にあるグラフィカ大内は,1948年創業の製版会社で,生産管理室にレタッチ課とデジタル課をおき,主要業務である製版を行っている。2000年11月に業界の技術変化に伴い(株)大内プロセス製版社から,現社名に変更した。

graficaとはスペイン語で,「いきいきとした描写」という意味がある。同社は写真製版という分野で熟練した手腕と技術をもつマエストロ(職人)を自負してきた。そこに新たなるデジタル画像処理とデジタルコンテンツを取り入れ,あらゆるメディアの創造をトータルに支援し,「いきいきとした描写」を創造する。そして,良きアドバイザー,良きパートナーとして,プロのサービスとサポートを提供するだけでなく,万全なケア体制のもとで,顧客との間に親密なパートナーシップを結びたいと考えた。

社名から「製版」の文字が消え,さらに今春からは,ニューメディア事業部とクリエイティブ事業部を立ち上げ,新たなビジネスとサービスを提供している。
また,関連会社の(株)イデアでは,一つのデータからあらゆるメディアを創造するビジネス展開を考えている。ニューメディア事業部の担当者がイデアの業務を兼務し,グラフィカ大内のもつノウハウを基にして,何ができるのかを模索しているところである。

後発ながら全社一丸でデジタル化

同社がデジタル化に着手したのは,意外に遅く1997年ころだった。デジタル化は既に時代の主流になりつつあった時期で,各セクションの責任者による採決の席で,満場一致でデジタル化採用が決定した。

そうはいっても,最初からうまく稼動したわけではなかった。従来の方法のほうが慣れているし,やり直しも速い。しかし,困難な局面にぶつかっても皆で決めたことだからとやり抜く姿勢は崩さず,乗り越えていった。後発だから即稼働しなければいけないという思いもあった。

まだ業界に染まっていない新卒で頭の柔らかい人材がいたこともプラス要素になっている。若い人がどんどんコンピュータを覚えていって,先輩社員に教えていく光景も見られた。現在では8割から9割がデジタル製版になっている。

自社開発の製版工程管理ソフトが好評

現在力を入れているものに,クリエイティブ事業部が開発した製版会社向け社内工程管理ソフトがある。ファイルメーカーPro5上で運用できる「Process Job Manager」で,販売はイデアが行っている。

元々は自社の管理用に独自開発したもので,製版会社の入稿から出校までの管理をパソコン上で行える。
それ以前は,デジタル製版が進み,仕事自体はパソコンで行っているのに,工程管理は紙に手書きのままだった。その日の予定を毎日いちいち手書きで一覧表に起こしていた。現在誰がどの仕事をしているのか,その仕事はもう終わっているのか,進行中なのか進捗状況がわからない。メモ書きや口頭での伝達でコミュニケーションが必ずしも取れていない。電卓片手に伝票入力することが面倒だ。一日の仕事量を一目で見たい。

「Process Job Manager」によって,さまざまな情報をLAN経由で自室の机の上から把握できるようになった。管理者にとっては売上日報や予定一覧,ワークシートなどの情報は必要不可欠である。また,仕事の情報を全員で共有できるようになり,工程管理の効率化が図れる。

今ではパソコンによる工程管理が当たり前になって,今さら手書きには戻れない。知り合いの製版会社に見せたところ「うちでも使いたい」という話が出た。そこでパッケージ化して販売することにした。製版会社がユーザの立場で作成したことが大きな特徴といえる。

すべての企業にぴったり合ったパッケージソフトを作成することは実質的には不可能である。システム構築からカスタマイズされたものまで一括で導入すると相当費用がかさむ。通常ソフトの設計には,基本的に500万円から1000万円は掛かる。その結果,自分たちの思うようなものができてくればいいが,使い勝手が悪かったりする。またパソコンベースの数十万円単位のパッケージソフトではかゆいところに手が届かないし,その割には高価だったりする。「Process Job Manager」なら,ずっと安いコストで導入できる。

カスタマイズフリーだから自社の仕事に合わせて作り替えることができる。開発担当者の若林氏によれば,「ファイルメーカーProを少し覚えていただければカスタマイズも自在にできる」という。大がかりなシステム構築やデータベースまでは考えていないけれど,社内の情報の共有化を図り効率よく工程管理がしたい企業にとっては,ちょうどいい「ひな形」といえる。
MacintoshとWindowsの両方で使えることも使い勝手の良さとなっている。

ISO9001認証取得に向けてプロジェクト発進

また,同社では先ごろISO9001取得に向けてプロジェクトが開始された。2000年版がきっかけといえなくもないが,以前から必要性を感じていた。製版の品質管理は当たり前だと思っている。事故が一番怖い。利益をなくすことより,信用をなくすことのほうがはるかに怖い。20年前から社内にマニュアルがあるが,それでも事故は起きる。事故をゼロにしたいという強い思いがあり,ISO取得は同社にとって必然の流れであった。

製版会社のISO取得率はきわめて低い。もともとISOは大企業が取得するものといったイメージが強かったからかもしれない。取引先からの要請でISO認証の取得に踏み切るケースも増えているが,同社とは全く別のスタンスである。

コンサルタントには初めから依頼していない。独力で認証取得に取り組むことにしている。コンサルタントの先生では印刷の実状がわからず,ましてや製版のことなど理解できるわけがない。そのことは初めからわかっていたので,社内独自にプロジェクトを組んでいる。「Process Job Manager」を開発した若林氏が中心となって準備を進めている。さらに,社長自らがやる気にならないと駄目だということを実感している。来年3月取得に向けて一丸となって邁進していく方針である。(上野寿)

■出展:JAGATinfo9月号より

2001/09/23 00:00:00


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