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DTP豆知識(200109)トラッピング方法,貼り込みデータの確認

本コーナーでは,DTPエキスパートを目指すうえで理解しておきたいことを模擬試験形式で解説します。JAGAT認証DTPエキスパート影山史枝氏に,問題のポイントや重要点を解説していただきます。試験勉強のご参考に,またはDTPに必要な知識の確認にご活用ください。DTPエキスパート認証試験の詳細はDTPエキスパートのページをご覧ください。

問1 トラッピング方法

次の文の[ ]の中の正しいものを選びなさい。

 印刷物上で異なる色版の境界がわずかにずれ,毛抜き合わせの輪郭部分がぼけたり,分色版の色が出たり,[A:(1)色が脱落する (2)ジャギーが出る (3)白い隙間が出る]ことがある。これらは,印刷機の機械精度や用紙の伸縮などが原因で,総称して[B:(1)チョーク (2)スプレッド (3)トラッピング (4)版ずれ]という。

 従来の製版はフィルムの複製を繰り返すため画線部が太り,毛抜き合わせの境界が自然になじんだり,露光の際の調整でなじませる工夫ができた。しかし,刷版焼き付け用フィルムにダイレクトに出力する場合やCTPでは,画像データを事前に補正する[C:(1)トーンカーブ補正 (2)フィルタ処理 (3)トラッピング (4)版ずれ]を出力の前に行うことになる。

 具体的には,毛抜き合わせの部分に[D:(1)白地部分 (2)グレイ部分 (3)刷り重ねの部分 (4)白フチ]を作成するが,その方向や幅,印刷条件などは,隣り合う色の色合いや網点パーセントの大小によって異なる。輪郭線を中心に重なり合う部分を形成したり,輪郭線のどちらか一方に重なり部分を形成する。これをチョークとスプレッドの処理という。前景のオブジェクトの色の領域を拡大することを[E:(1)チョーク (2)スプレッド (3)マスク (4)ブリード],背景の地色のヌキ部分を縮小することを[F:(1)チョーク (2)スプレッド (3)マスク (4)ブリード]という。これによって,輪郭領域に前景と背景の色が重なった細い帯が形成される。

 適正なトラッピングは,経験を元にこれらの方法をケースバイケースで組み合わせて行う。一般に,色が薄い領域を拡大するが,本文文字など太らせることができないオブジェクトでは,背景に[G:(1)チョーク (2)スプレッド (3)マスク (4)ブリード]が適用される。トラッピングの幅は印刷機の種類や精度に依存し,太すぎると擬似輪郭となり不自然となる。また,トラッピング部分の色が問題になる場合もあるが,DTPではトラッピング部分を新しいエレメントとして,不自然のない色を指定できることが多い。

 図1のうち,スプレッド処理として正しいのは[H:(1)A (2)B (3)C (4)D]であり,チョークの処理として正しいのは[I:(1)A (2)B (3)C (4)D]である。

    ■出題のポイント■
     従来,集版時に行っていた製版処理のひとつであるトラッピングの方法を問うもの。印刷工程上の基礎知識および注意事項を知るとともに,従来の製版手法をDTPでどのように実現していくかを理解しておく。

    ■関連項目■
    印刷方法(印刷機,用紙),集版,線画作成ソフト/DTPソフト,RIP

    ■問題解説■
     多色刷りの印刷では,各インキを順に刷り重ねていくことでカラー印刷物が刷り上がる。この時,正しく版ができていても,印刷用紙の伸縮や平滑度の影響,印刷機の精度や振動によって,各版の刷り位置がずれてしまうことがある。その結果,異なる色版の隣接している位置で,紙の地の色である白い隙間が出てしまったり,写真の位置で,撮影時に手ぶれを起こしたように各色版が,ずれて仕上がってしまう。このような現象を「版ずれ」と呼ぶ。

     従来の製版工程では,手作業でのフィルム集版時に,各版の撮影を意図的に調整して,版ずれの対策を行っていた。この処理によって,印刷時のわずかなずれを目立たないように補正することができた。このような各版での微調整のことを「トラッピング処理」と呼び,一般的には,異なる色同士の隣接部分で,薄い色を濃い色のほうに広げるようにして,刷り重ね部分を作成する。この時,前景のオブジェクトの色の領域を広げる処理を「スプレッド」,背景の地色のヌキ部分を縮小して前景にくい込ませる処理を「チョーク」と呼ぶ。

     このようなトラッピング処理は,版ずれの発生要素である印刷条件によって適正値が異なる。製版側では,従来からの経験上,ケースバイケースで処理を行っている。

     例えば,一般的には薄い色を濃い色のほうに広げるのだが,本文文字のように太らせることができない場合には,背景の地色を文字にくい込ませる「チョーク」を適用したり,印刷精度に応じてトラッピング幅を変更したりする。印刷機の精度が良い場合には,トラッピング処理を行わないこともある。また,色帯上の墨文字では,墨版を太らせると,文字が太って見えてしまうので,ノセ処理(オーバープリント)を行う。

     DTPでは,これらの処理を,イメージセッタやCTPへの出力前のデータ作成段階で行う必要がある。主なDTPソフトでは,トラッピング機能を備えているため,印刷機の種類や精度に応じて,幅や方向の設定を行う。また,RIP側で自動トラッピング機能を備えているものもあり,RIPによっては,RIP処理時にトラッピング処理を実行することも可能である。

     DTPソフトでトラッピング処理を行う場合には,隣接部分の色要素を自動的に計算して処理しているため,不自然にならないように刷り重ね部分を作成することが可能である。しかし,それぞれのソフトが行うトラッピング処理の仕組みや設定を理解して行わないと,思わぬトラブルとなる場合もある。

     問題の図1については,A・Bは,濃い色の背景に薄い色の前景の場合の例であり,C・Dは,薄い色の背景に濃い色の前景の場合の処理となっている。スプレッド処理は,薄い色の前景を広げている「A」であり,チョーク処理は,薄い色の背景を縮小して前景にくい込ませている「D」となる。ちなみに「C」は,トラッピング処理を施していないヌキ合わせ(ノックアウトともいう)である。

    ■用語解説■
    毛抜き合わせ(けぬきあわせ) 製版用語のひとつで,異なる色同士が隣接する状態をいう。場合によっては,2つの意味合いで使われることもある。そのひとつは,異なる色同士の隣接部分に対して,髪の毛1本の隙間もなくぴったり合わせること。もうひとつは,版ずれを考慮して,髪の毛1本程の重なりを作り,印刷した時に紙の白い隙間が出ないように処理すること。ここでは,前者の意味合いで使われ,その対処方法として後者の意味合いで,処理方法を問う問題となっている。

    トラッピング(trapping) 製版では,絵柄を重ねて印刷する場合に,絵柄の周囲に紙の地の白い隙間が出ないように処理することを「トラッピング処理」と呼ぶ。印刷会社によって,「太らせ/細らせ」「広げ/くい込ませ」「逃げ処理」などと呼ぶ場合もある。また,オフセット印刷においては,先に刷ったインキの上に後刷りのインキが重なっていく状態を「トラッピング」と呼ぶ。本問題では,製版処理上のトラッピング処理を指す。

    スプレッド(spread) 英語で「広げる」という意。前景のオブジェクトの色の領域を拡大すること。

    チョーク(choke) 英語で「詰める,ふさぐ」という意。背景の地の色部分を縮小すること。

    CTP(Computer To Plate) 印刷用のデータをコンピュータから直接,刷版(印刷版)出力用の機器に出力すること。

    ■解答■
    A:(3)白い隙間が出る B:(4)版ずれ C:(3)トラッピング D:(3)刷り重ねの部分 E:(2)スプレッド F:(1)チョーク G:(1)チョーク H:(1)A I:(4)D


問2 貼り込みデータの確認

次の文の[ ]の中の正しいものを選びなさい。

 DTPで作ったページを出力するために保存メディアで受け渡しする際には,あらかじめそのページレイアウトソフトが貼り込みデータをどう扱っているかを確認しておく。

 完成後に構造を読み取ることは困難なので,トラブルが起こらないよう,保存の際にファイルフォーマットや貼り込みデータのサイズ,倍率,解像度などをチェックする。

 貼り込みデータをページデータに取り込んで合成してしまうものもあるが,貼り込みデータが別ファイルのままで,それにリンクを貼るのは[A:(1)Photoshop (2)QuarkXPress]である。この場合は「出力ファイルの収集」を使って,保存メディアにまとめるのが良い。

 リンクが崩れるのは,貼り込みデータが[B:(1)別アプリケーションのもので (2)EPSFで保存されたもので (3)異なるフォルダに (4)プレビューを含んだもので]あったり,後で貼り込みデータの[C:(1)中を開いて見る (2)サイズを見る (3)日付を変える (4)名前を変える]ことで起きる。

 貼り込みデータを変更した場合は,[D:(1)画面で見て (2)別のパソコンで開いて (3)手元のプリンタで出力して (4)PostScriptコードをチェックして],間違いないことを確認しておく。

 貼り込みデータがEPSFなら,[E:(1)バージョンが異なっても出力の保証が (2)どのアプリケーションのものも同じで (3)アプリケーションやバージョンによる違いが (4)出力は不可能で]ある。

    ■出題のポイント■
     ページレイアウトソフトの仕組みと,出力時のトラブルを避けるための基本的な知識を問うもの。

    ■関連項目■
    出力処理の流れ,画像データ形式,ワークフロー

    ■問題解説■
     DTPでの出力処理は,主にページレイアウトソフトからの印刷命令により行う。その際,出力トラブルを避けるために事前に確認する項目があり,データ制作側の出稿時および印刷側の入稿データチェック時に確認することで,トラブルを未然に防ぎ,印刷工程をスムーズに進行することができる。

     出力処理を指定するページレイアウトソフトの役割は,文字・線画・画像データを配置して,組版処理や色指定を行うことである。この時,線画・画像などの割り付けデータは,別ソフトで作成したものを貼り込んでレイアウトしていく。

     印刷工程では,これらのデータを最終的にイメージセッタやCTPなどの出力装置で出力するため,各出力装置に適したデータであるかをあらかじめチェックする。

     この時のチェック項目としては,貼り込みデータのファイル保存形式,カラーモード,解像度などが挙げられる。

     一般にファイル保存形式は,EPSFやTIFFデータを使用し,カラーの場合にはCMYKモードにする。そのほか,解像度が印刷に適したものであるかなどを,各ファイルの保存時に確認する。

     ページ内に貼り込まれたデータは,ページレイアウトソフトによってページ内に埋め込む場合と,元データとのリンク情報を保持する場合がある。

     印刷業界でシェアの高いQuarkXPressでは,リンクによって貼り込みデータの情報を保持している。QuarkXPressのファイルメニュー「出力ファイルの収集」機能を利用すると,ドキュメント内の全ページで利用されている貼り込みデータとファイル情報レポートを,まとめて保存することができる。 

     データの出稿時に,MOなどのメディアにファイルを保存する場合に,この機能を利用することで,リンク切れによって発生するプレビューデータ(低解像度データ)が出力されてしまうといったトラブルを避けることができる。

     QuarkXPressでは,貼り込みデータに関して「ディスク内のどの場所に,どのような名称のファイルがあり,それがドキュメントの何ページ目に貼り込まれている」という内容をリンク情報として保持している。そのため,ドキュメントに貼り込んだ時のディスク名称,フォルダ名称,ファイル名称を異なるものに変えたり,ファイルを別の場所に移動したりすると,ドキュメントで保持しているリンク情報との相違が発生し,リンク切れが起こる。

     これらを確認するためには,QuarkXPressの補助メニュー「使用状況.../画像(4.1J)」(「画像使用状況...(3.3J)」)機能を使用する。状況欄に「OK」と表示されれば,リンク切れを起こしていないことが確認でき,「移動」や「更新」と表示されている場合には,この機能を使用して,リンクを設定し直すことができる。また,データの貼り込み後にデータ変更した場合には,出力前に別のパソコン環境でドキュメントデータを開いて,間違いないことを確認しておく。

     そのほか,貼り込みデータのファイル形式がEPSFの場合には,そのデータを作成したアプリケーションソフトや使用バージョンによって,内部の記述内容が異なることを認識しておく。

     DTP作業には,さまざまなメリットも多いが,デジタルデータを扱うことで発生するトラブルもある。各アプリケーションソフトの仕組みや特性を認識して,トラブルのないフローやルールを構築することによって,本来のメリットをより生かすことができる。

    ■用語解説■
    メディア FD,MOなどの記憶媒体のこと。

    EPSF(Encapsulated PostScript File) PostScript言語で記述された画像データを記録するファイルの形式。別ソフトや別システムへの貼り込み用データとして利用するため,画面プレビューデータを内包することができる。

    PostScript 出力装置で印刷する情報(文字や画像をページ内のどの位置にどのように配置するかという情報)を記述するためのプログラム言語。

    ■解答■
    A:(2)QuarkXPress B:(3)異なるフォルダに C:(4)名前を変える D:(2)別のパソコンで開いて E:(3)アプリケーションやバージョンによる違いが
(出典:月刊プリンターズサークル連載 2001年9月号記事より)

2001/11/05 00:00:00


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