最近、オンデマンド印刷という言葉をあまり聞かなくなった。ときどき、5年後には現在より1桁も大きな市場が拓けるといった7〜8年前の繰り返しのような情報が出てくるが、昔のようにそれで期待を膨らます業界人はあまりいなくなった。一般論としてのオンデマンド印刷は不振のままである。それでは、オンデマンド印刷ビジネスは、結局、幻に過ぎなかったのだろうか。
オンデマンド印刷については、そもそも最初から夢、幻を追いかけるような誤りがあった。 コピーでも従来の印刷機でも満たせないGood Enough Colorの小ロット印刷という分野に、小規模事業者や個人からの需要を中心に2兆円にもなる巨大な市場が眠っているといったことが喧伝された。そして、かなりの人がそれを信じて大きな期待を寄せたが全くの期待はずれに終わった。この限りにおいて、オンデマンド印刷ビジネスはまさに幻であった。
それではデジタル印刷システムは、全く印刷業のビジネスに貢献してこなかったのかというと、皮肉にも、当初のデジタル印刷機ベンダーが自社製品の対象外とした市場分野においてビジネスを成立させた。そして、その市場は、これも当初喧伝されたような「新しい市場」ではなく、従来の製版,印刷システムではそのニーズを満たせず、顧客の側に潜在的な不満が鬱積していた「既存市場」の中にあった。ひとつはチョボチョボした市場だが、もうひとつはひとつの業界を活性化させるほどの大きな市場である。
いずれにしても、市場のニーズ自体が幻であったわけではなく、成熟化した印刷市場の中で、とにかく新しい市場を見出したいという印刷業界、ベンダーの強い欲求が、新しい技術の可能性のまわりに描いた市場が幻だっただけである。 ショートランカラーで夢破れ、新たに期待を膨らませた1:1マーケティング用のオンデマンド印刷市場についても、少なくとも現時点では同じことが言える。
デジタル印刷機が登場したとき、その技術を使うビジネスモデルとしてプリントショップを想定する人が多かった。それは、対象として小規模事業者や個人を強く意識したからである。しかし、これも空振りに終わった。
小規模事業者や個人からの仕事で上手く行った事例が多様な印刷製品分野で紹介され、十分なオンデマンド印刷の仕事があると感じさせられた。それぞれはウソでも架空の話しでもなかったが、それらの仕事を狙ってショップ展開をして上手くいった例はなかった。
何故か? 顧客の来店を基盤とするショップの限定された商圏内には、固定費を賄うだけの市場がないからである。ショップ展開で狙うような市場の特性は、密度が低いということである。
インターネットの普及で広域の商圏から仕事の受注を受けることができるようになって、この問題も解消できると思うかもしれないが、ただ、ネット上で仕事を受ける体制を作るだけではやはりだめである。全部がダメかというとそうではなく、仕掛けがあればうまくいく。その仕掛けとは実にオーソドックスなものである。
JAGATは、1993年以来、オンデマンド印刷に関する調査やディスカッションを継続的に行なってきた。そのなかで、オンデマンド印刷市場の特性やビジネス展開のポイント、またデジタル印刷システムが向うべき方向などを明らかにしてきた。
オンデマンド印刷のニーズは確かに存在し,その市場の潜在的なポテンシャルは非常に大きい。また、今後ともデジタル印刷システムの新製品は次々と出されてくるだろう。このような市場と技術を活かすも殺すも、上記のようにどのように市場を捉えるかにかかっている。そのヒントは、今までの成功事例、というより失敗事例の中からより多く得ることができる。
来る11月28日に行なうマーケット研究会主催セミナー「オンデマンド印刷ビジネスを展望する」では、いままでのオンデマンド印刷ビジネスを総括し、その上で「今後、オンデマンド印刷ビジネスを伸ばしていく条件は何か」を探る。
2001/11/16 00:00:00