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戻らない業界不振を解析する

以下は、印刷白書[2001→2002]における分析を元にJAGAT大会で話された、「戻らない業界不振を解析する」と題する講演の要旨である。

2001年度の印刷産業の景気は下期から急速に悪化し、第4四半期の印刷景況指標は7.1%と過去最低レベルまで低下した。2000年度には平均7%という高い伸びをした商業印刷物市場が、景気後退にともなって2001年下期からマイナス成長に入ったからである。ちなみに、10月〜12月期は7%以上の大幅な前年比マイナスになった。

過去5年半、底無し沼にはまり込んだようにマイナスが続いている出版市場もそろそろ底入れ、との見方が出てきている。昨年11月以降4月連続で書籍雑誌販売金額前年比がプラスになったからである。
しかし、90年代に入ってからの出版市場低迷の根底には、メディアの多様化による生活者の時間,支出の割り振りの分散によって、1人当たりの購読雑誌,書籍冊数が減少するという構造的な要因がある。たとえば、2000年時点において、PC,通信の利用時間がついに書籍・雑誌への接触時間を超えてしまった。消費支出の伸びも、電子媒体トップ5項目は電子媒体,通信関連費用であり、新聞・書籍は減少項目のトップ5に入っている。 出版市場が底入れしたと見るためには、上記の分散の動きが均衡状態に入ったかどうかを見ておく必要がある。

2001年に、再びマイナス成長に入った印刷業界だが、バブル崩壊後3回目のマイナス局面に入った。ここまでに2回の景気の山谷を経てきているが、その山谷はひとつのサイクルと経るごとに山はより低くなり、谷はより深くなっている。したがって、過去10年間を通してみると、印刷産業の出荷額は減少して2001年には8兆円を割る寸前にまで落ちてきた。印刷産業の出荷額のピークは1991年の8兆9300億円であったが、そのピーク時を一度も越えることなく10年間で9千億円以上の減少となった。
多くの業界人は、それが不景気と過当競争による価格低下によるものと見ているが、もっと根本的な原因が存在することを理解しなければならない。

印刷産業は、工業統計が取られ始めて以降1991年まで、一度もマイナス成長することなく伸びてきた。それどころか1970年からの20年間のGDP弾性値は1.2〜1.3という高度成長を遂げた。それは、世の中全体のカラー化に沿って、プリプレスの仕事量が印刷の倍以上伸びたからである。たとえば、100世帯当たりのカラーテレビの保有台数を見ると、1966年には数台であったものが1969年には20台を越え、1974年には100台を越えた。われわれが撮影する写真もカラーとなり、オフ綸が新聞折込チラシの一般的生産設備として使われ始めたのは、1970年代に入ってからである。

この間、製版の仕事量は印刷の仕事量の2.5倍〜3倍増加して印刷産業のGDP弾性値を1.0以上に押し上げた。その状況は、1990年代半ばの時点で、典型的な総合印刷会社における工程別売上原価構成において、プリプレス工程の売上原価構成比が印刷の3倍にもなるという状況を生み出した。 しかし、印刷業界にDTPが本格的に普及し始めた1997年以降、たとえば印刷の通し数は25%も増加したが、プリプレスの仕事量は3割以上減少し、2.7兆億円程度の付加価値を失った。これは、景気が回復しようと供給力過剰が解消しようと、今後とも戻ることのない付加価値の低下である。

日本の印刷産業では、1980年代いっぱいのまでの印刷産業に利益をもたらした要因が、いままさに消滅しつつある。そしていま、電子メディアで扱われる情報が膨大に膨れ上がり、その先では人口の減少という基盤の変化が明らかに予測されている。したがって、印刷業界が新しい事業領域を見出し、それに合ったビジネスモデルを作り上げていかない限り、縮小均衡のなかでしぼんでいくことは明らかである。

JAGATでは、今後の印刷産業発展の提言として、2002年5月22日付けの本ページで「印刷新世紀宣言」を出した。そこでは、21世紀の印刷の4本柱は、クロスメディア,eビジネス、デジタルプリンティングそして印刷文化の継承であると宣言し、個々の企業が新しい印刷の枠組みの中で自分の戦略が持てるような関係を皆で努力して作っていきたいと述べた。
JAGATは、1988年に第一回Pageイベントを開催して以来、さまざまな事業活動を通して印刷業界の第一フェーズのデジタル化に貢献してきたと自負しているが、これから始まるデジタル化の第二フェーズに向けて「『印刷新世紀宣言』具現化推進プロジェクト」を立ち上げた。

2002/06/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会