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IT投資はプラスかマイナスか?

いまはIT不況と言われているが、日本の産業全体におけるIT投資は大幅に増加し、2002年上期にはGDPの1.8%に達し、対GDP比で米国の1.7%を抜いたと見られている。ERPやSCMが企業競争力の消長を左右する重要な要素であるとの認識が高まってきたからである。
2001年の日本のGDPは500兆円だから日本全体のIT投資額は9兆円であったということである。この日本全体の数字を印刷産業に置き換えてみるとどうであろうか。GDPは粗付加価値である。JAGAT推計による2001年の印刷産業の出荷額は8.1兆円である。印刷産業の対出荷額付加価値比率は50%弱だから付加価値額は約4兆円で、その1.8%は720億円と計算される。対出荷額比率は0.9%である。
しかし、現在の印刷産業が毎年700億円程度のIT投資をしているとは思えず、どう見てもこの数字の数分の一程度である。

上記で計算された720億円という数字を人件費との対比で見てみよう。印刷産業の対売上人件費比率は約25%だから、2001年における人件費総額は8.1兆円の25%、2兆円と計算される。そして、720億円はこの人件費の3.6%である。つまり、3〜4%の人件費削減ができれば、印刷産業が日本の全産業平均と同程度のIT投資をしても充分にペイできるということである。従業員数100人(売上規模では20億円〜25億円)の会社なら、3,4人分の人件費削減である。現時点における印刷業の一人当り人件費平均は510万円だから、1500万円〜2000万円/年が3,4人の人員削減に見合う投資額ということなる。
それでは、今後のIT投資は、そのような費用対効果が望み得るものなのだろうか?

経営管理分野におけるコンピュータ利用は、まず手作業で行っていた各種計算業務と伝票発行をコンピュータで行うことであり、つい数年前までもそのような使い方であった。しかし、ここ数年は、オフコンベースであったコンピュータシステムをパソコンベースのクライアントサーバー型システムにして、一度入力したデータをさまざまな業務で共通に使えるシステムに作り替える動きが中堅企業から始まった。共通で使える情報をデータベース化することによって再入力時のミスを減らすとともにコストも削減、さらに各アプリケーションで使われているデータを集めて管理資料を作ることが、手間と時間を掛けずにできるようにもなる。
また、インターネットとWebブラウザを使うことによって、社外を含めたリアルタイムでの情報共有をして、より一層の省人化効果や作業指示ミスの削減、短納期対応を目指すシステムを構築、運用する企業も出始めた。来る10月28日に行う「リアルタイム工程管理システム実現」では、そのようなシステムの運用事例を紹介する。
先の「今後のIT投資は費用対効果でプラスを出せるものかどうか」という問いに対する解答は「Yes」である。ただし、IT化によってコミュニケーションのあり方を変えるという発想に基づいたシステム作り、運用ができた場合においてである。

2002/10/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会