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プリプレスにおける2つのワークフロー

DTPも1990年前後は大変な勢いでソフト開発がされて、そのバイタリティは他業界でも比類がないものであった。それで写植や製版の世界がすっかりDTPに置き換わったわけだが、写植製版の世界がデジタル化の先に何をしたかったのかという理想像をDTPは引き継いでくれなかった。DTPは企画編集など印刷物の設計段階と、刷版準備など印刷物製造のちょうど間に挟まれた工程だが、欧米のDTPは前工程との結びつきに重点があって、後工程との関連を希薄にしたまま進んでいった。

ところが写植や製版は印刷工程の始まりであり、印刷から逆算して作業を行うものであった。だからDTPで作業したあとに、改めて刷版や印刷完成予測(網点プルーフなど)の作業が始まるという、2パスのワークフローになったのである。理論的にはPostScriptとPDFで刷版以降のための処理もできるのであるが、利用者はプリプレスの前側ワークフローから後側ワークフローに乗り換えることを余儀なくされている。

Adobeはクリエイティブから出力まで大きな影響力をもっていたので、プリプレスの一貫したシステムをAdobeが構築するのではと期待していた人も多いが、分散RIPのソリューションなどが完成せず、1bitTIFFが出てくるなど出力側の技術的な影響力は弱まり、印刷のためのPDFは中途半端なままで開発が止まったかのように見える。

昔アルダスはプリプレスのツールも扱っていたことがあるが、Adobeはその部門を手放した。そういったツールの機能をDTPに組み込むのかと思ったが、そうはならなかったのは、DTPの開発にこれ以上投資しても、DTPがたくさん売れるわけではないということだろう。このために刷版出力周りのツールは、かつてのCEPSベンダがCTP化とあわせて提供するようになったが、必ずしもPostScriptやDTPの技術をフルに活かしたものとは限らず、かつてのCEPS的ソリューションに戻ってしまった面もある。

つまりDTPとともにフレキシブルにシステムを組めるオープンシステムを期待したところは、AdobeにもCEPSベンダもあてにせずに自立的にオープンなワークフローのための考え方やツールを作らなければならなくなった。PDFを印刷に使うことはスイスやドイツで真剣に取り組まれ、ヨーロッパではいろいろなツールが作られ、アメリカのSeybold会議でもPDFのテーマはほとんど欧州勢のセッションとなった。

しかし日本のDTPユーザーは組版などの仕様についてはDTPの開発側に要求は出しても、刷版周りの問題を整理できなかった。それは印刷会社でも印刷を外注する場合が多く、すぐに刷版周りのシステム化をするメリットを感じなかったからかもしれない。そうこうするうちにCTP化が急速に進み、またJDFなどワークフローでの情報交換の基盤が整ってきたので、プリプレスの2つのワークフローを統合する方向での見直しが必要となっている。それは何らかのツールで2つのワークフローをブリッジすればよいというものではなく、もっとDTPソフトの奥深くまで再検討を迫られるものとなるだろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 193号より

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2002/12/12 00:00:00


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