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中堅印刷会社の生産部門業績把握の事例

中堅印刷会社の生産部門業績把握の事例 商業印刷物、パッケージ印刷物の仕事が多い従業員規模300名弱の印刷会社における、生産現場の業績把握の事例を紹介する。同社は、技術部を持ち印刷物品質と生産現場の管理において高い評価を得てきた企業である。

1.具体的データの収集と分析

以下は、同社が生産部門用に収集、分析しているデータの内容である。

(1) 基本的業績数字

部門別収益管理データとして、以下の数字を出して活用している。
 営業部門利益=売上高−標準原価−一般管販費(営業分)
 製造各部門利益=標準原価−製造経費−一般管販費(製造分)
 全社利益=営業利益+製造利益
上記の式で使われる「標準原価」は、製造各部門の「生産額」として取り扱われるものである。また、上記の「利益」、「売上」、「標準原価(生産額)、経費は全て予算を設定し、予算を目標として達成度あるいは進捗度を評価している。
変動費については、対売上材料比率、対売上外注比率を集計しチェックしている。

(2) 生産性評価

1)能率把握1:「 標準作業時間/実際作業時間」
・各仕事ごとにこのデータを出し、機械毎に、1日、月単位、年単位で集計し、これが100を上回った場合は表彰する。
・ここで使う「作業時間」は「直接作業時間」(同社での呼称は「正味稼動時間」)である。

A.標準作業時間の設定
・標準作業時間は、あらかじめ決められた機械毎の標準時間(印刷機であれば常用印刷速度とセット時間をベースとして計算)と印刷枚数とから各仕事ごとにコンピュータで自動計算される。

B.実際作業時間データの収集
・ 各機械のオペレータは、作業開始、作業終了の入力を行う。ただし、作業終了入力は各仕事の終了時点で入力するが、作業開始の入力は朝一番の仕事の開始時のみに行い、以降の仕事については前の作業の終了を次の作業の開始として扱う。

「実際作業時間(実際に掛かった直接作業時間)」は、朝一番に入力した開始時刻と最終の仕事が終わったときの作業終了入力時刻から、「給油」、「清掃」、「立ち会い印刷等」の「間接作業時間」と「朝礼・集会のようなあらかじめ決めてある業務による不稼動時間」および「100%他部門の責任による不稼動時間」を差し引いて算出する。
いままでは作業者が手書きで間接作業やその他の不稼動内容について時間記録を取っていたが、現在、各機械毎に設置しているパソコン端末を使って、あらかじめ内容を定義した不稼動内容をA1、A2、A3等のように記号化し、そのボタンをオペレータが押してこれらの作業の開始と終了を入力することで記録できるように準備を進めている。

2) 能率把握2:「目標アワー金額/実績アワー金額」
・この数字は、1日単位で推移をグラフにプロットする。このグラフにはあらかじめ管理限界を設定しておき、推移のバラツキ具合、管理限界からの逸脱の状況を把握し問題の有無を判断する。

「アワー」とは
・ ここでいう「アワー」とは「稼動時間」である。同社が定義している稼動時間とは、「直接作業時間」(=「準備作業時間」+「本刷時間」+「後処理時間」)と先に紹介した「間接作業時間」を加えたものである。したがって、稼動時間には「朝礼・集会のようにあらかじめ決めてある業務のような不稼動時間」および「100%他部門の責任による不稼動時間」は含まれていない。言い換えると、MISページに掲載した「現場の生産性評価、稼働率について」で定義した実働時間から、朝礼・集会のようにあらかじめ決めてある業務のような不稼動時間および100%他部門の責任による不稼動く時間を差し引いた時間が同社が定義する「アワー」、「稼動時間」である。

B.目標アワー金額、実績アワー金額の計算
・「目標アワー金額」は、作業項目、仕様(印刷作業では印刷サイズ、通し数)毎に設定された標準原価(たとえばA半裁の印刷は、1000枚までは5000円といった価格)を、上記 1)項「標準作業時間の設定」で決められた標準作業時間で割って算出する。実績アワー金額は、上記で定義されている稼動時間に該当する時間の実績値で目標アワー金額算出のときに使った標準価格を割って算出する。
しかし、DTPによるプリプレス作業では、データ等を開けてみないと作業工数が判断できないのが普通である。したがって、印刷や後加工工程のように、事前に目標アワー金額を出すことができない。したがって、プリプレスの作業者が作業内容をインプットして、そのデータを各作業毎に決めてある標準価格表と付け合わせて作業後に目標アワーコストを算出して上記の計算に使用している。例えば、集版のレイアウトにはA,B,Cの3ランクの難易度設定があり、内容がBランクであると判断して入力すると、自動的に工数は30分、標準原価は2500円と計算される。入力された作業内容は作業日報に出力され、製版業務部門でチェックする。なお、プリプレスの外注分は業務部門で入力する。

(3) 時間分析

間接作業時間の集計は全ての工程で行うが、準備作業時間の分析といった時間分析は、セット時間が長い工程(貼り加工等)についてのみ行う。これは、現場の管理職が行うもので、幹部会等の資料として利用しているわけではない。

(4) 実際原価の把握

・ 全ての仕事については把握しないが、必要と思われるものについてはサンプリング的に把握する。
・上記で出される標準原価(1点ごとの生産金額)は、該当する製品の営業の売上高と差し引きして営業の出した粗利を1点ごとに計算している。このようにしていくと、営業粗利が大きなマイナスになる製品が出てくる。そのような製品については、生産現場の利益が出ているのか否かを見るために、作業伝票と一緒に詳細な実際原価計算をするためのデータ記入表を現場に回して、実際原価を把握する。
その結果、例えば営業粗利は▲30%だが、現場の利益が+40%であれば、会社全体の利益は出ているからその仕事自体の利益性に問題があるということにはならない、といった判断をする。

(5) その他

・ 設備の新設、入れ替えの場合、実際に生産した仕事の仕様(サイズ、色数、ロット等)を集計して、どのような設備の導入が良いかを検討する。実際の仕様をもとに、導入を検討している機械の稼動状況のシミュレーションを行い、導入機械選定の参考にする。
同社では、標準原価がA全で算出(営業部門)されたものを工場の都合でA半裁で印刷しても、工場の生産高はA全で印刷するときの標準価格から算出する。当然、A倍機で印刷する場合刷版もA倍が必要となるが、A全の刷版だけが計上される。逆に、4色表裏を呑天版で4版で済ませても8版の刷版代が計上される仕組みになっている。
つまり、受注傾向をにらんだ設備ラインアップをしていかないと工場利益が出ないような生産金額算出方式になっている。

2.管理データ収集、分析の基本的考え方

上記のような生産現場に関する管理データの収集、分析をしているのは、以下のような基本的考え方があるからである。

(1)細かな実績把握をしても「労多くして実り少なし」だから、部門あるいは会社全体として利益を上げていけるようにするために必要なデータに絞って収集、分析を行う。
印刷作業について、以前は、準備作業の内容を「版替え」、「色替」、「サイズ替え」、「見当合わせ」、「色調合わせ」といった細目に分け、さらにそれぞれの項目毎に難易度ランクを設定し、各細目の難易度毎に標準作業時間を設定していた。

しかし、現在では印刷機の性能が上がって準備作業時間も短くなり、製品による時間的なバラツキも少ないので細かく設定する意味がないこと、また、上記のような細目にわたって標準を設定して実績と比較してみても改善の役に立つことは少なかったということから、現在は、機械毎に一つのセット時間を設定するだけにしている。印刷スピードについても、印刷機の最高スピードを基本に、例えば、その80%を実用スピードとして決めて、そこから計算されるスピードを標準として設定している。ただし、ベタ刷り、厚紙印刷、特色については明らかに標準時間が異なるので、それに応じて標準原価に反映させている。

(2)機械単位の状況は、「目標」に対する「実際」の達成度で見る。
現在、同社における生産現場の業績把握のひとつの手段は、多くの企業が行っているように、該当月の「生産金額(標準原価)」、対売上労務費比率、対売上材料比率、対売上外注比率と「利益」(営業利益相当)、を集計し前年同月のデータと対比して見ることである。
もうひとつの評価は、能率に関するデータであるが、それは「目標アワー金額/実際アワー金額」として計算されるものである。また、「標準作業時間/実際作業時間」という「能率」も出してこの推移を見ている。

以前は、実働時間当り通し数や実働時間当り生産金額といった数字を使っていた。しかし、「実働時間」の内容に含まれる間接作業時間(待ち時間、機械故障、機械メンテナンス等の機械の不稼動時間)には、自部門の責任で生じた場合とそうでない場合があり、実働時間当り通し数や実働時間当り生産金額といった数字に対する不信感があった。そこで、間接作業時間を測定して実働時間からそれを差し引いて直接作業時間(準備作業時間+本刷り時間+後処理時間)を出し、それを分母として使う数字も出したが、この場合には記録される間接作業時間の精度の問題がありやはり不信感が拭えなかった。
したがって、目標値と実績値を比較するようにした。目標値は、「目標アワー金額」の場合、前年の「実際アワー金額」に5%上乗せをして設定するというように、過去の実績をベースにして設定する。

(3)生産性データを個人の給与査定には直接結び付けない
上記(2)のような方法を取っているひとつの理由は、上記(2)の結果を昇給や賞与査定には直接結び付けないという前提があるからである。個人の評価は、管理職と各社員との話し合いをベースとした目標管理に重きを置いている。
印刷会社各社における生産部門のデータ収集、分析内容の最も大きな相違は、出されたデータを個人の査定に使おうとするかしないかで、大きく二分されるのではないだろうか?

この記事にご意見のある方は、mis@jagat.or.jpまで。
関連記事は、MISページをご参照ください。

2002/12/11 00:00:00


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