多くの企業でECによる調達の重要性と利点が認識されている。企業間の商取引における購買コストの削減と調達プロセスの合理化を,企業レベルの構造改革や経営課題として捉える企業が大企業を中心に増えている。なかでもB2Bにおける間接材のコスト削減は,企業が取り組むべき課題として,大いに注目されている。
今回は,ITを活用した電子調達支援システムを提供するディーコープの取締役川原洋氏に同社の姿勢を伺った。
インターネット利用の総合購買支援事業
ディーコープ(代表・宮内謙氏,本社・東京都中央区)は,「電子調達の活性化による新たな経済価値の創出」を使命として2001年2月に設立されたソフトバンクのグループ企業である。インターネットを利用した企業向け総合購買支援事業サービスを提供することを目的としている。資本金は3億2055万円で,出資比率は,ソフトバンク・イーシーホールディングスが51%,ソフトバンクが49%である。
主な事業内容は,日本アリバ(代表・宮下繚氏,本社・東京新宿区)の提供する「Ariba Buyer」と「Ariba Enterprise Sourcing」(以下「Ariba」)を利用して,電子調達ソリューションの支援を行うことである。「Ariba Buyer」「Ariba」は,サプライヤー企業選定,交渉,購買申請,電子カタログ検索,見積もり依頼,発注という調達プロセスをすべて電子的に処理することができる。企業内の各部門や営業所で発生する間接材の発注を全体で取りまとめ,インターネットを介することで,コスト削減,購買業務の一元管理,購買サイクルタイムの短縮,などの電子調達ソリューションを実現する。
同社は,多くの国内大手企業に対して「Ariba Buyer」「Ariba」のシステム構築,独自の電子調達コンサルティングサービスを展開している。「Ariba」は現在のところ日本の大手企業約20社に導入実績がある。
間接材コスト削減とは
同社が大手企業250社を対象にROI(投資対効果)調査を行った際に,間接材料の占める割合が非常に大きかった。なかでもトップ企業の購買分析をした結果,電子カタログ化できないサービス分野に多くの購買が集中していることが分かった。通常メーカーなどが製品製造のために購入する直接材に対して,間接材とはどんな企業でも使う事務用品やコンピュータ機器などを指す。最近では,オフィスサプライ,オフィス家具,コンピュータシステムおよび同関連機器などとともに,「人材派遣」「宅配便」「出張手配」「印刷」など,今までカタログ化できなかったものが多い。それらの商材を調達可能なサービスメニューとして開発,提供し,コスト削減の優先的なターゲットとする。
電子購買全体の話では,カタログ化できるものは金額ベースで全発注件数の3〜4%で,残りが非カタログ発注によるものだという。要するに都度カタログ外発注するものが多いということだ。
戦略的な電子調達の実現に向けて
あらゆるビジネス現場におけるITの効果は,何といっても時間と空間の短縮に尽きるだろう。人的作業では現実的に不可能だった調達業務を,ITにより短時間で遂行可能にすることができる。
同社のソリューションでは,コスト削減のプランとシステム環境を提供する。
戦略的な電子調達はテクノロジーだけでは成功しない。最適な市場から新たなサプライヤーを発見し,価格設定を含めた交渉を効率的に行うこと,購買申請から発注,納品,支払いまで一貫した管理購買システムとその運用体制の整備が,成功へのカギとなる。
適正価格での購買を実現するためには,自社内の状況を把握・分析することから始まる。全社的に誰が,何を,どのサプライヤーから,いくらで購入しているのか,調達要件を整理・標準化することが基本となる。
バイヤーサイドの購買担当者と購買要件定義を設定するための面談をし,市場調査を行い,対象の商材を選定する。また,サプライヤーの選定のために評価基準を明確にし,既存サプライヤーの流動化を可能にしている。
さらに商材ごとの業界の分析を行い,約6万社のサプライヤー情報に関するデータベースを整理し,マーケット・メーキングを支援している。
リバースオークションが商取引を変える
バイヤーの立場で希望する商材・サービスについてリバースオークションを実施・運営し,最優先交渉権者を選定するサービスも行っている。公平で透明な運営と最優先交渉権者決定までのプロセスを明確にすることを重要視しており,バイヤーとサプライヤー双方にメリットが出る仕組みである。バイヤーとサプライヤー間の直接交渉がなくなり,サプライヤーが自らの競争力をもってビットすることになる。それにより短期間で適正価格を導き出すことが可能になる。
バイヤーと調達条件,選出ルールを調整した後,指定サプライヤーおよびサービス登録済みサプライヤーとの調整を行ったうえで,リバースオークションを開催する。オークションは基本的にサプライヤー同士は匿名で行われる。リバースオークション終了後,あらかじめ開示されていた選出ルールに基づき,バイヤーの確認のもとサプライヤーを選出し,直接取引に向けた交渉をしてもらう。
リバースオークションにおけるバイヤーのメリットは,(1)適正価格による調達を実現するまでのプロセスコストの削減,時間の短縮,(2)サプライヤー決定プロセスの明確化,(3)調達条件と決定価格により商材・サービスの価値の管理が可能になることが挙げられる。
またサプライヤーのメリットは,(1)営業コストの削減,(2)決定プロセス,最終価格の透明性,(3)大型受注あるいは新規顧客獲得のチャンスがある。
どのサプライヤーを選ぶか,選択の基準を明確にしなくてはならない。当然「印刷」などの場合,価格以外に品質や商習慣,サービスなど多岐にわたる。常に最低提示価格だけで決定されるわけではない。過去の調達実績やサービス品質,または互恵取引などが総合的にオープンに評価され,それらの結果をもって決定されることもある。サプライヤーは,ほとんどの場合,価格のほかにサービスレベルの維持や指定水準以上の品質,支払条件等を満たした上で決定されることが多い。
リバースオークションによって価格が決定した購買品をカタログ化することで,全社の計画的な発注が実現できる。
印刷もサービス商材の一つ
企業の調達という観点からすれば,印刷も一つの商材と位置付けられ,当然コスト削減の標的となってくる。バイヤーサイドの購買品目の一つ,サービス商材という捉え方なので,封筒,名刺,伝票類などは実現化しているが,データを受けてからの工程管理については,対象外である。
印刷会社が入札に応じる場合,応札価格を決定する権限をもつ人の参加が不可欠になる。
電子調達の導入企業をクライアントにもつと否応なしに巻き込まれていく。そのまま組み込まれていくのか,それとも効率化を武器にクライアントにもメリットを与える攻めの戦略に出るのか。印刷業界ものんびり傍観してはいられない。
クライアントの印刷物発注担当者の意識変化もさりながら受注担当側においても,取り組みを考える時期に来ているのだろう。
今後とも,同社は,企業向けの総合購買支援サービスを強化していく方針だという。(上野 寿)
2002/12/17 00:00:00