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印刷営業のモバイル利用への課題

 以前モバイルで成果が出ているという記事を紹介したが、反対にモバイル利用がなかなか進まないという実状もある。
 モバイルというと一般的には次のような意味のどれかで使われているので、それぞれ受け取り方が異なる場合がある。
 ・ノートパソコンを持ち歩きPHSなどの回線を利用して接続する
 ・PDAやi-modeなどの携帯端末を利用し接続する
 ・ノートパソコンを持ち歩くがネットワーク接続はしない
 ・自宅からネットワークを利用して接続(これはモバイルと呼ばない)
 この中で一番目が一般的なモバイル利用として想定している場合が多いと思われるが、現状ではこの利用についていろいろと課題が多い。

 印刷業務でモバイルを活用するケースは、だいたい次のような利用になる。
 ・出先から日報などの報告を入れる
 ・出先から作業の進捗を確認する
 ・出先から見積や受注入力を行う
 ・出先から顧客情報の確認や行動記録などを確認する
 このような機能を想定して、モバイル利用を始めようとしているが、実際にはなかなかうまくいかない。その理由には、運用などを含めていくつかある。

接続に時間がかかる

 A印刷会社では、電話回線(PHSなど)を利用して社内サーバの情報共有が行え、進捗の確認や見積作成が行えるようにした。このシステムはWeb対応ではなく、通常のアプリケーションを外から利用する方式であった。実際に利用をはじめてみると、接続して開くのに時間がかかってしまうという問題が出た。理由はまず電話をかけてつながるまでの待ち時間があり、つながってからデータをアクセスするのに時間がかかってしまう。そのため、進捗の確認くらいならば内勤の営業に電話して確認してもらった方が早くて楽という結果になった。
 また出先で見積作成を行うにも社内のサーバに接続して過去の見積を参照したりするため遅い接続では時間がかかる。それならば会社に戻って作成した方が効率的という結果になってしまい、そのため結局重いノートパソコンをだれも持ち歩かないということになった。これをWeb対応にすれば多少は速度は上がるが、基本的にはWebでも過去の検索を行いながら見積を作成するような作業は、PHSレベル(64Kbps)の接続では大変である。

 B印刷会社でモバイルで日報を入れて成果を出しているという話が対比としてある。この場合はPHSレベルのモバイルでもうまく利用できているのは、持ち歩くノートパソコンで日報のデータ入力を行い、終わったらサーバへモバイル経由で転送するため接続して操作するという時間が短いからである。
 両方の運用の対比でわかることは検索しながら入力するような物は現在のモバイルでは難しく、ノートパソコンでデータ入力を行いデータを送るだけならば使えるという結果である。
 しかし最近では、ホットスポットというような無線を利用してブロードバンドクラスのネットワークを利用できる場所が出てきている。喫茶店とかホテルのロビーなど複数の施設で無線でネットワークへ接続できるようにするサービスで、これを利用すれば出先から高速に社内ネットワークへ接続できるようになる。今後はこのようなホットスポットがモバイル利用の基地になりそうだ。

セキュリティの課題

 今営業が利用しているアプリケーションで一番多いのは、サイボウズのようなグループウェアのソフトウェアを利用したケースである。顧客情報の共有化や営業の行動管理と日報処理などに利用するケースが多い。このようなソフトウェアは、i-mode対応やWeb対応は既に実現されており、モバイル利用を前提に設計されている。
 しかしこのようなソフトウェアを利用しているC印刷会社でもやはりノートパソコンを持ち歩く営業は誰もいなくなったという。
 理由はいくつかあり、ひとつはセキュリティの問題である。例えばノートパソコンを持ち歩く場合でも、パソコンの中にサイボウズのようなグループウェアのソフトウェアだけでなく、自分や会社のデータも入っているし顧客から受け取ったデータも入っていることが多い。ノートパソコンを持ち歩き、もし電車の網棚に忘れて来て、そこに顧客情報や顧客から受け取ったデータなどが入っていたら情報が漏れてしまう。ノートパソコンの紛失や破損に対する対応が社内にできていない場合は、営業は責任問題が起こるため持ち歩くのを躊躇してしまう。これからプライバシーマークを取得しなくては仕事がとれないという場合、さらに個人情報を保護するような仕組みが要求される。

 このような状況への対応は、パスワードや個人認証技術でセキュリティを高める事で、パスワード管理を行えるWindows2000やWindowsXP Professionalなどで誰でもログインできないようにする。さらに指紋認証とかカードによる認証などの仕組みを導入するなど、設備投資がいる。このため費用を出しても効果が出るような運用が求められるので、日報報告や行動記録の参照くらいならば会社に帰ってからということになる。
 グループウェアの利用だけならば、i-modeやPDAなどの携帯端末を利用したモバイルが考えられる。グループウェアソフトウェアで利用できる機能は、スケジュール管理とか、顧客情報などの共有化であるが、このような機能で効果が出る運用ならば携帯端末を利用することでノートパソコンを持ち歩くリスクをなくせる。

ネットワーク接続しない利用

 今持ち歩きで多いのはネットワークは利用せず、プレゼンデータとか見積ソフトや日報ソフトなどを入れて持ち歩く。そして出先や自宅などで見積や日報を入力しておく。この場合会社に行ってからデータを転送してサーバのデータを更新する。
 この場合に活用されているのはプレゼン関連が多く、特にWebシステムのような受注がからむ場合には、必ず持ち歩くそうである。しかし、見積や日報入力は会社に戻ってからという運用になってしまうそうである。重いノートパソコンを持ち歩くのは、必要があるプレゼンの時だけで毎日の業務である日報などは習慣として会社で行うという。
 このような状況を変えるには、やはり常にノートパソコンを持ち歩くような運用形態を整備する必要がある。例えばプレゼンデータならば、WevDAV技術を利用してデータの管理やバージョン管理を行うとか、また日報とか見積情報などは、社内のネットワークに接続すれば簡単な操作でサーバと同期してデータを更新するような仕組みなどである。
 サーバと持ち歩くノートパソコンとの間でデータの一元管理を簡単にできることで、どこでもノートパソコンで仕事が行えようになる。これからはノートパソコンも数十ギガのディスクが付くのでデータを全部入れられる。後は、社内サーバとのデータの同期を行う仕組みである。

自宅からの接続に期待

 今一番実用的な利用には、自宅のパソコンから会社のサーバに接続して見積や日報などの入力を行う利用だそうである。これは最近自宅にADSLなどを入れている人が増えており、高速で常時接続ならばサーバに接続して、利用できる。さらにセキュリティに不安があるならば、自宅のパソコンと会社のルータ間でVPNを組んで情報の暗号化と接続の限定で安全性を高められる。
 A印刷会社では、数名がこのような利用を行っているが、この場合やはり社員の自己負担となってしまうという。同じようにC印刷会社もこれから自宅からADSLなどでサテライトオフィスのように社内システムを使えるようにしたいという。そのため今後は自宅のシステムの投資をどう考えるかが課題である。

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2002/12/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会