全体最適化の基盤となるMIS
今後印刷業が目指すシステム化の視点は、印刷物制作・製造全体を見渡してのボトルネックの排除,生産に関する情報伝達の効率化、そして、それらを含めてクロスメディアパブリッシング、PODがビジネスとして成立するように土台を作り替えていくことである。これらの実現を目指すのがCIM、EDIによるビジネスの全体最適化である。
視野に入ってきた印刷産業におけるCIM
プリプレスのフルデジタル化がCTPの普及で完了し、プリプレスで生成されたデータで印刷機、後加工機をコントロールする生産システム間の連携に目途がついた現在、MIS(Management Information System)と生産設備間の情報交換を可能にするJDFが実装される段階にきて、印刷物生産のCIM化が完全に視野に入ってきた。
CIMとは、「コンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)およびコンピュータ支援管理(CAP:Computer Aided Planning)を共用データベースによって統合したコンピュータ統括生産システムである」(オーム社「CIM概論」人見勝人著)。
現在の印刷に即して言えば、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)とはプリプレスにおけるフルデジタル化であり、ここで作られたデータとコンピュータ支援管理(CAP:Computer Aided Planning)、つまり管理情報システムで生成された日程計画、作業割り当て情報に基づく生産設備の運転指示によって自動化された印刷、後加工機をコントロール、さらに生産機械の稼動状況に関する情報が機械から直接管理情報システムに送られてリアルタイムでの進捗把握やその後の生産性分析の資料として活用できる生産システムである。このようなプリプレスシステム、印刷・後加工機、管理情報システム間のデータ交換フォーマットが、いま話題のJDFである。
仕事の切替毎に人手による作業が不要な設備であれば、管理情報システムの情報に基づく自動運転も可能になるが、デジタル印刷システムでの実現が最も早いのではないだろうか。デジタル印刷ベンダーのイニシアチブ「The UP3I standard Board」は、2002年秋に、仕事の自動切替、リアルタイムプロセスコントロール、ヤレ発生時の自動排紙・自動復帰・再印刷、ダイナミックな後加工と配送コントロールをする機能を持ち、さらにJDFのような他のワークフロー標準との統合も可能な最初のシステムを開発、発表した。
手付かずの印刷のEDI
印刷物生産においては、得意先、協力会社、資材購入先との連絡、確認業務は非常に煩雑であり、そこに営業マン、生産管理担当者等の多くの手間、時間を掛けながらもミス、ロスを発生させる主要因になっている。そこで、Webを有効に使ってリアルタイムで外部組織と情報を共有することの効果は非常に大きい。しかし、人間がその情報に基づいてコンピュータに入力するなりの働きかけをしなければ、次ぎの業務がコンピュータで処理されることはない。
これに対して、外部組織との間で必要な情報をコンピュータ to コンピュータで流通して、人を介さずにスピーディーなコミュニケーションを実現するのがEDI(Electronic Data Interchange)である。
たとえば常備しておく紙やインキについて、自社の在庫管理をしているコンピュータのデータがある一定量以下になれば、そのコンピュータが自動的に発注先のコンピュータに一定量の発注を行うものである。同じことは、印刷物製造の最終工程が終わったという情報が生産管理のコンピュータに入ると、自動的に配送を依頼している会社のコンピュータに配送指示をするようにも使えるだろう。
リピート物の印刷物において、得意先のコンピュータが印刷物の在庫データを持っており、その在庫データが一定量以下であることを示せば、印刷会社に印刷物発注を自動的に行うこともできる。その先にデジタル印刷機をおけば、リピート物の印刷物の発注などは、まさにパソコンのデータをプリンタで打ち出すような自動印刷が可能になる。
印刷業界が、印刷における電子商取引を印刷物のオークション機能を主体とするECと誤解して、いまでは電子商取引にほとんど関心を示さなくなってしまったことは大きな時間的損失であった。しかし、いまこそ、全体最適化という文脈のなかで印刷の電子商取引の主眼はSCM(Supply Chain Management)であり、それを実現するEDIを目指してその準備に取りかかるべきである。
CIM/EDIの基盤
以上のようなCIM、EDIがこれからの印刷業界が目指す全体最適化の主要な部分であるが、その基盤は各社の管理情報システムである。
現状の印刷業界を見ると、CIMの要件であるCAD/CAMシステムはすでにその基盤ができて実用化されているが、これらと連動して生産活動をコントロールすべきCAPが驚くほど遅れている。CIMの一部になり得る管理情報システムが備えるべき基本的要件は、製品仕様、製造仕様から生産スケジュール、進捗状況、資材管理などの情報が統合的に扱えることであり、その上でコンピュータ制御の生産設備とコンピュータ toコンピュータで必要情報を双方向に流通できることである。しかし、現時点における多くの印刷会社の管理情報システムは各種業務単体でコンピュータ処理を行うものであり、2,3年前から中堅企業の一部で統合システム化が始まったばかりである。
EDIの観点から見ると、協力会社との間で生産スケジュールや進捗情報を共有して効果を上げる例が見られ始めたが、まだまだ例外的なものである。
次の争点はCIM/EDIの実現
以上のように、現在の印刷産業の管理情報システムはCIM,EDI実現には程遠い状態だが、そのこと自体が問題なのではない。今すぐにそれが実現できるわけではないからである。問題は、今後の経営環境の中で管理情報システムが果たす役割やそれがどのようなものでなければならないかのビジョンが描かれていないために、時代の変化に合ったステップアップがなされていないことがである。
上記のような目標を目指す情報化投資では、技術の流れの方向を的確に掴んだ上で、一発ホームランを狙うのではなくヒットを重ねてホームインを目指すことが正道である。もしそうでなければ、CIM化、EDI化などはとても達成できないだろう。また、このような最終目標に向けた各ステップ毎にそれなりの効果を得ながら目標に近づいていくことは充分に可能である。そして、経営環境や技術環境は、CIM,EDIなどはまだ先と言って静観するのではなく、もうその第1ステップを踏み出すことを促している。
印刷のCIM化につながる自動ワークフローや,印刷のサプライチェーンマネジメントを実現するEDIといった目標を利用者側各社の計画に取り込んで,顧客の問題解決を図り,サービス価値も高め,価値的な生産性の向上を競い合う日は近いだろう。
来る2月5日〜7日に開催するPAGE2003では、CIM,EDIの基盤になるMIS、JDFワークフローに関するコンファレンス「MISトラック」を行う。展示会場の「MIS/CIM ZONE」では、CIP3の創設メンバー企業3社が日本の主要MISベンダーと一同に会した場でJDFワークフローに集中した展示を行う日本初の展示が見られる。各MISベンダーの展示からは、印刷会社それぞれの現状に応じて、大きな目標に向かう各ステップ毎に成果を出しながらシステムを構築していく道筋を具体的な形で見ていただけるだろう。
■関連イベント
PAGE2003 MISトラック
PAGE2003 MIS/CIM ZONE
2003/01/08 00:00:00