今話題のJDFは生産システムと管理情報システムとを統合するものとして期待が大きい。PAGE2003コンファレンスのMISトラックでは,全体最適や統合管理というキーワードからJDFを考えた。
凸版印刷(株)宮野正貴氏からは,生産系システムの進化の過程を振り返りながら、今後の生産系システムの方向や基幹系システムとの連携に向けて報告があった。
80年代はCEPSなどによるデジタル化が始まったが,これは「機械単体の最適化」といえる。90年代に入るとDTPが定着するとともにLANによるネットワークが完成した。これは「部門最適化」といえるだろう。2000年代に入るとCTPが普及,CIP3も実用化され,さらなる技術革新が続いている。一方で基幹系システムの発展を振り返ると,オフコンによる見積もり,受注,生産指示のシステム化から始まり,90年代には企業間EDIが立ち上がりはじめ,最近ではWeb系システムの採用やインターネットを利用した商取引が話題となっている。こうした動きから考えると,今後の製造業はCIM(Computer Integrated Manufacturing)化,EDI化に向かうのは必然の流れといえる。
CIMやEDIへの対応を考えたときに「標準化」というのは大きなキーワードとなる。例えば激しい技術革新の続く半導体業界ではSEMIスタンダードという業界標準があり,工程管理,装置管理,品質解析等の各社のパッケージをパーツとして組み合わせて工場の垂直立ち上げも可能となっている。
自社開発や特注が大半の印刷業においても投資効率やスピードを考えると標準化によるパッケージソフト採用の方向に向かうだろう。
印刷業の標準化活動を進めている組織がCIP4である。JDFはCIP4の共通フォーマットとして定められたもので,印刷生産のCIMを目指し,印刷の全工程の処理を統合するとともに,これからのeCommerce等への展開も考慮され,XML言語を採用している。
「プリプレス、プレス、ポストプレスの情報を統合する」という横のシステム統合と「生産とMIS間の連携の掛け橋となる(生産システムからMISへのフィードバックも可能)」という縦のシステム統合の役割を果たす。CIP3/PPFとの最も大きな違いは、生産システムからの情報をMISにフィードバックできることである。
JDFの高度な目標としては,顧客,営業から生産,納品までの工程において,印刷ジョブについての表現や情報交換はすべてJDFを介して行うというものである。一つの仕事の進行と機械制御に必要なデータが、得意先、営業,基幹システム、生産管理システムから順次集められ、そのデータで生産設備を自動制御する。このようなJDFの機能をイメージ的に表現すると「デジタルの原稿袋」と言える。
JDFの仕様については,まだ完全に確定したわけではなく,理想的なワークフローの実現までにはまだまだ試行錯誤が続くであろうが,簡易的なJDFワークフローについては,すでに米国で先行事例がある。
クレオジャパン(株)の真壁 敏氏からは,この米国での先行事例の紹介があった。これは米国の中堅印刷業(JohnsByrne社)における事例で,プリプレスワークフローシステムがCREO社のPrinergy,MISシステムがPrintCafe社のHagenOA,そして印刷機が小森コーポレーションという組み合わせで行われている。HagenOAとPrinergyの間の情報のやり取りは,CREO社のSynapse Linkというソフトウェアを利用する。MISからは印刷ジョブの得意先データなどが渡され,Prinergyからは生産実績のデータがMISに渡される。実績データとは,材料の使用量、機器の使用時間、機器の使用状況、仕事毎の追尾(オリジナルジョブと変更・訂正の有無)などである。
JohnsByrne社では,どんな仕事に対してどんな処理をしたか、どのような校正の出し方がなされたか、使用された材料はどのようなものだったか、どの程度材料を使ったかといった情報を自動集計し,見積もりとの差を請求金額に反映している。印刷機についても,稼働実績がジョブ単位に自動集計される。JohnsByrne社では,この実績数字と事前に算出した仕事に掛かる予想時間との比較を行い生産性のチェックを行っている。また,Prinergyで作成されたPPFファイルは,小森コーポレーションのK-Stationを介して,印刷機のインキキープリセットに用いられる。そして印刷機の実績データはK-Stationを介してMISシステムに渡されるという双方向のデータ交換となる。
2003/03/03 00:00:00