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広告会社の考えるデジタル送稿

印刷,出版のデジタル化にともない,ネットワークが欠かせなくなった現在,広告のデジタル送稿の動きが少しずつ生まれてきた。
 アメリカはもちろん,日本でも広告のデジタル配信の実証実験が始まっている。
 そこで,通信&メディア研究会では,印刷・広告業界における電子送稿と題したセミナーを開催した。以下は,(株)博報堂 デジタルソリューションセンターの柳瀬真氏の講演の抜粋である。

広告会社の考えるデジタル送稿

 広告会社はコミュニケーションに対する責任と同時に、売りの責任をとらなければいけない時代に入った。いわゆる「代理店ビジネス」ではもう成り立たない。
 現状のグラフィックアーツ業界のデジタル化は,ファイルフォーマットの標準化、カラーマネジメント、DDCPなど道具は揃っているが、デジタルやネットワークで物を作る習慣、ルール、運用技術など今一歩である。広告業界にとってデジタル化へ対応する最大の目的は、いろいろな技術や商品を組み合わせ,印刷媒体を活性化して今まで以上に使いやすい媒体にすることである。
 通信サービス、CTPなど、デジタルデータを流す道具は揃いつつあるが,機械を並べただけで新聞広告や印刷が変わるわけではない。例えば,通常のフィルムから刷版で作ったものとCTPで作ったものを比較した場合、技術者が見れば精度が上がったかもしれない。
 しかし、一般ユーザーから見て、CTPで作られた印刷物に媒体付加価値があるわけではない。最大の課題は,新たな道具をどのように使うかである。
 デジタル送稿やEDIは最終的な目的を達成するための第一歩であって,それだけで終わってしまうと、当然,費用対効果が合わないことも考えられる。その先のビジネスルール,仕事の役割,責任分担などビジネス構造を変える必要がある。

博報堂でのデジタル化

 広告業界のデジタルの流れは以下のような段階を経ている。
 第1段階では、会計系から業務系までを含む社内のシステムの整備である。
 博報堂では、10年前、広告業界でのデジタル化に対応できるようにシステムの開発に着手した。システムのコンセプトは,基幹システムと作業系のシステムを連携させ、それらの情報を全社で徹底的に一元化するものであった。当時は,パソコンが普及し、クライアントサーバが出始めた時期であったが、いわゆるダウンサイジングを目指した先進的な考え方であった。
 第2段階は,5年ほど前から急速に広告業界で話題になったEDIである。ただし、これはメディア取引の受発注データのEDIで,流通業、メーカーでは当然の話である。博報堂ではHENをベースに対応すると同時に、業界標準作りにも積極的に参画している。
 第3段階では、クリエーティブと深い関わりを持つコンテンツ制作のデジタル化対応である。広告会社で言えば、新聞広告、雑誌広告、印刷物の素材,また、いわゆるコマーシャルフィルムと言われている動画もコンテンツである。ホームページもコンテンツの一種である。
 この領域のデジタル化は、媒体社との間だけにとどまらず、協力機関、得意先、博報堂の営業などすべての取引先との間に関係する。したがって、マスコミ業界全体にまたがるデジタルワークフロー構築に取り組む必要がある考え、実験・実証機関としてのパワーラボを設立した。現在ここで、グラフィック領域のデジタル化全体の中で様々な可能性を探っている。
デジタル送稿実験
 博報堂は,現在デジタル送稿実験を継続的に実施している。
 新聞広告の入稿は1日前で、カラー原稿では数日前に入稿する必要がある。これは雑誌も同様である。「記事や報道写真は前日の記事を掲載できるのになぜ広告は載せられないのか」ということが、広告会社としての基本的な問題認識である。をこの課題に対して、いくつかの実験を行っている。
「スターウォーズ」が封切りされた日の夕刊のカラー広告に,その日の朝映画館で行列をしていた写真を入れた。これは,通常の入稿方法ではできない。まだ一般的にはできないが、今後は、これを実用化するための方策を検討していく。
 ゴルフ会員権の相場表の新聞広告を例にすると、火曜日に掲載している会員権相場は、実は金曜日のデータである。前日の相場を翌日載せることを最終目標として,デジタル入稿を始めた。ただ,これはデジタルで入稿するだけでは解決しない話で、原稿を作る体制も変えなくてはいけない。すべてをデータベース化して、可変要素のデータは組版後すぐに送るデータベースパブリッシングが必要になる。
 ある自動車会社では、DDCPをコントラクトプルーフとして使うカラー原稿のデジタル送稿を試している。たまたま得意先が場所的にも離れているので、DDCPをベースに校正、入稿するフローを確立する意味は大きい。
 印刷物の特徴は,何万枚も速く同じ品質で刷れることである。インタラクティブ、ワンツーワンでは、従来の印刷の得意領域がかえってデメリットになる。この流れに対応するためにオンデマンド印刷、バリアブル印刷などが出てきている。
 アメリカでは、実際に自動車のカタログで成功例が出てきている。単なるバリアブル印刷ではなく、インタラクティブなやり取りの中で、ユーザーが欲しがる情報が確実に絞り込まれていくような内容になっている。印刷における技術的な側面だけでなく、クリエーティブな側面でも全く新しい表現技術が求められてきている、実例である。
 従来のデザイナーは、質を追求するために文字の級数や詰め、色の再現性などにこだわりを持っていた。しかし、質は変化している。インタラクティブの世界では、クリエイティブ力はシナリオを作る能力も必要になる。シナリオライターやコピーライターの才能に近いものも求められる。
 博報堂も制作は混合体制にした。コピーライターでもデザインを行ったり、動画でもコピーをディレクションする。今,求められているコンテンツを作るには、多彩な才能を持ったクリエーターとそれを具現化するためのIT技術の両方が必要な時代になってきた。

電子送稿コンソーシアム
 アメリカではDDAPという非営利団体が標準化を推進し、別の団体でも同様な活動を行っている。しかし,日本ではそのような体制がなかなか実現しない。
 電子送稿を行うには、広告業界と新聞業界など他の業界との間で標準化を前提とした進め方について話し合う必要がある。その両業界で橋渡しを行い、実際に進めていく体制が必要である。 新聞電子送稿コンソーシアムは,それを具体化する目的で設立された。電通と電子送稿の研究会を運営して交換的な実験を行っていたが、共通でできる部分は共通で行い,少しでも広告業界や新聞業界の発展に寄与できればという考えからスタートした。標準化に向けての具体的な方向性、物づくりができれば最も理想的である。

 最近、印刷業界と広告業界は非常に似ていると感じている。広告業界や印刷業界には、本格的な外資の波がまだ現れていない。デジタル化に併せてグローバルスタンダードに対しての荒波が来るであろう。デジタル化に対応することで、従来からのビジネスが100%なくなるわけではないが、デジタル化を生かした新たな業態にが変わらなければ今後業界として拡大しないことは間違いない。

(通信&メディア研究会:1999年10月6日Techセミナー「印刷・広告業界における電子送稿」(株)博報堂 デジタルソリューションセンター 柳瀬 真氏の講演より)

(出典:JAGAT Info 1999年12月号より)

1999/12/13 00:00:00


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