5月23日にエッセンシャルシリーズのセミナーとして「デジタル時代のレイアウト方法論」を開催した。エッセンシャルシリーズは,より良い印刷物を作るために年2〜3回開催しているセミナーである。テーマは「書体」「色」「レイアウト」などで,DTPなどの業務知識以外の日常使う技術の奥にあるものを整理する狙いもある。
その中で,DTPエキスパート認証課題制作を例にしたレイアウトの思考と評価というテーマで,認証試験課題制作の内容にも触れ,特に課題Bについてレイアウトデザインの考え方やデザイン特性と評価の具体例などが紹介された。
■資格試験における課題制作
資格試験は知識に偏りがちになる傾向があるが,DTPエキスパート認証試験は,部分的な知識に偏らないように,幅広く筆記問題を出している。また,総合的に良い印刷物を作るための判断として,制作物の提出もある。
プロのデザイナーから見ると,現在の課題制作には若干問題がある部分も見受けられるが,ではどのようなものが理想なのかと考えると,なかなかすべての条件を満たす課題はない。今後,課題自体の改善や見直しの可能性もあるが,現状は継続している。
課題制作は,印刷物の制作工程でハードおよびソフトの機能を使いこなしているか,あるいは使うように指示しているか,シリーズの印刷物としての配慮,管理方法なども問題にしており,作品と制作ガイドの提出がある。
作品は,原則としてデザインは問わないが,クライアントからの要件や社会通念の範囲から外れたものは減点あるいは不合格という結果になる。また,校正紙として製版と印刷に必要な要素が不可欠である。従って適当に仕上がっている,注意力不足の作品は減点になる可能性がある。
■制作をとおしてのレイアウトデザインの考え方
課題制作もそうかもしれないが,現実のデザイン業務も必ずしも楽しいテーマばかりではない。ただし,課題制作に求められるものはプロレベルのデザインレイアウトではなく,DTPの基本を理解しているかが重要である。その上で次の条件をしっかり頭に入れる。
・手書きでラフスケッチをする
・基本的に原寸で作業する
・見出しなどを書き入れ,バランスをつかむ
また,制作するアプリケーションは,InDesign,Illustratorなどが一般的で推薦できる。特にフォント環境はさまざまであり,個人用インクジェットプリンタの使用も多々見られる。文字化けして見栄えが悪くなることもあるが,判読できないものは問題になるので配慮が必要になる。
■全体フォーマットや文字組版の設計
フォーマットの作成については,規格寸法を間違えないことはもちろん,製版要素であるトンボ,塗り足しなどの確認が必要である。
また,InDesign,IllustratorなどDTP系アプリケーションには当然ガイドラインが表示できるため,これを使用してラフスケッチをベースにガイドラインを用いて版面設計をしたり,図版とテキストなどの位置関係をそろえたりすることも有効である。
グリッドなどを意識して,そろえなどに注意することもレイアウトをする時のポイントである。
文字組版の設計については,度々問題になる。この旅行用課題のパンフレットの場合,タイトルや見出し,表組みの中の文字,あるいは中にあるキャプション類などのバランスを設計する。
例えば,キャプションの最低限の大きさは,極端には変わらないはずである。また,表組みの中の文字も,大抵パンフレット類には基準がある。
プロの人間でも新聞が何級で,雑誌は何級で,何々は何級でというのを,うっかりしていると把握していないケースも多い。このような仕事に関わることは,自分で考える常識的な文字の大きさを把握しておくとよい。そうすればバランスの悪いレイアウトは起きないはずである。
文字組版は,原則(常識)を理解し,読みやすさを基本に考える。デザインに行き詰まったら,旅行代理店にあるパンフレットや新聞,雑誌,書籍などを見ることも参考になる。
■色彩の設計
色彩の設計は,センスを要求されるプロのデザイナーの条件は必要ないが,基本を理解することは重要である。
トーンの概念があり,学生時代に習うマンセルの色立体や色彩論,色の3属性の加法混色,減法混色などである。色を使う時には,「明るく澄んだトーン」や,「派手で鮮やかなトーン」などのグループがあり,そのグループを利用することも一つの方法であり,網パーセントを表示しているものもあるので参考にするとよい。
プロのデザイナーがトーンで全部色を決めているわけではない。ヨハネス・イッテンが考えた色彩調和理論があり,色環の中の等距離に位置する色や,幾何図形の頂点に当たる位置にある色が調和色になるという理論である。これはトーンが同じ平面での選択なので,各色相の距離が同じであればバランスの良い色彩選択が可能になる。また,これを利用したX-Rite社のColorShopというソフトも,デザイン上の配色を検討する時に有効である。
また,具体的な基本として文字のバックには濃い色を使用しないことや,地網が濃い色の場合は文字を白ヌキにするなど,視認性を確認することが重要である。
■提出課題を例にした注意点
作例からいくつか紹介すると,タイトルに本文用の細い書体のまま見出しにしているものがあるが,デザインはあまり評価していないとは言いつつも,見劣がりする。実際,こんなに細い文字のタイトルはあり得ないのである。また,金額の数字が欧文数字になっていないため,ベタ組みになり間隔があいたまま組まれているものもある。これは提出者が見た時点で分かっているはずであるが,全角や半角という意識が全くない。
また,文章の中で文字化けしたまま気づかずに提出されているものもあり,配慮が必要である。
■課題試験の取り組みに必要なこと
旅行パンフレットは,複雑度の高い課題である。しかし,上手に仕上げている方も多く,良いデザインにすることは可能である。
制作ガイドは,量が多ければ良いのではなく,必要なことを簡潔に記述することを考慮すべきであり,また最後に作品を今一度確認し,不具合のチェックをすることが大切である。
継続的に課題制作を見て,全体的なレベルは向上している。問題はこのように手間を掛けるわけだから,きちんと勉強をしてしまうとよい。学校の試験のように嫌だなと思って,取りあえず嫌々ながら行うのではなく,むしろ楽しんで取り組むのである。
例えば,更新試験もそうであるが,「何でこんなに難しく面倒くさい出題をするのか」といつも腹立たしい。更新試験は基本的に自分で調べて行うものである。しかし,いざやってみると後になって,あの時勉強していたことが役に立つことが度々ある。課題制作もより役立つような方向にできればよい。
2003/07/20 00:00:00