中国は日本の印刷産業の脅威か?
中国が世界の工場として飛躍するにつれて日本の産業の空洞化が話題となっている。印刷業界においても一昨年当たりから中国の印刷業界への関心が高まってきた。日本の印刷需要が労働力の安い中国に流れてしまうのではないか?という、日本の印刷市場空洞化の懸念からである。
これに関して明らかなことは、印刷産業の顧客である企業がその工場を海外に移転させた場合に、その工場で製品と一緒に出荷されることになる包装資材印刷物(パッケージ、ラベル、取扱説明書、マニュアル等)の発注は海外に流れるということである。包装資材印刷物の利用のされ方からいって当然の話であり、商業印刷物や出版印刷物について考えるときは、この点についてはっきり区別しておかなければならない。
東南アジアからの輸入の半分が中国から
貿易統計によれば、中国からの印刷物輸入は確実に増加している。1999年〜2002年までの3年間は年平均24%で伸び続け、2002年の中国からの印刷物輸入金額は187.8億円になり、2002年の東南アジア9カ国からの輸入金額の44.2%を占めている。
東南アジアからの印刷物輸入を品目別に見ると、第一位は出版物の141.7億円、第二位が包装資材印刷物の133.9億円で、それぞれ9カ国からの輸入金額の3割強を占めている。印刷需要の東南アジアへの流出が考えられやすい事務用印刷物の輸入金額は52億円である。東南アジアでの印刷が増えているという話が出るカレンダの輸入金額は14.2億円に過ぎない。
包装資材輸入の7割は中国から
東南アジア9カ国からの印刷物輸入を国別品目別に集計してみると、輸入金額が大きい包装資材印刷物では中国からの輸入が1999年以降、急速かつ大幅に増加していることがわかる。2002年の輸入金額は92億円で、中国からの印刷物輸入の49%、9カ国からの包装資材印刷物輸入金額の68.7%を占めている。また、各種印刷物の輸入国トップ3位の国名と輸入金額の推移をみても、包装資材印刷物、事務用品印刷物を含む低付加価値で労働集約的な生産が想定される印刷物の輸入において中国が台頭してきていることは間違い。
「空洞化」を云々する輸入水準にはない
このように、明らかに中国からの印刷物輸入は増え、その品目を見ると安い労働力を求めて日本の需要が中国に流れたと思われるものである。ただし、その量は、少なくとも貿易統計に表れた数字で見る限り空洞化云々を言うレベルではない。いくつかの品目別に日本国内における生産額に対する輸入比率を調べて見ると、事務用印刷物で1.1%、紙器が0.6%、段ボールが0.1%であり、比率が高い袋でも5.5%程度である。ただし、この数字には、顧客である企業がその工場を海外に移転させて印刷物も現地で調達した部分は考慮されていない。
中国の印刷値段は日本の2倍
それでは、中国で商業宣伝印刷物や出版印刷物を作ると日本に比べて安いのだろうか? この件に関して、東京都が東京都印刷工業組合の申請を受理して実施した調査結果が、全日本印刷工業組合連合会の機関誌「日本の印刷」に掲載されている。その資料によれば、例えば枚葉オフセット印刷でB半裁の4色印刷を行った場合の1色当たり通し単価は5000枚で0.15元という。一元を15円として円換算すると2.25円になる。これに対する日本での通し単価を社団法人経済調査会の「印刷料金」で見ると1.50円である。B半裁のオフ輪で両面4色の印刷を100,000枚行った場合の価格は、中国の0.62円(0.041元)に対して日本の価格は0.32円であり、これも日本の価格は中国の半分である。B4の表1色の値段を見ると、500枚の場合、中国での通し単価は9.3円(0.62元)であるのに対して日本の価格は4.2円で、こちらも中国の価格が日本の倍強になっている。このように、上記の調査で見る限り、中国の印刷価格はやすいどころか日本の倍近いことがわかる。
中国への印刷物発注は得策ではない
中国の人件費は確かに安いことは事実である。印刷機のオペレータで日本の1/8 程度である。材料も、印刷インキ(日本の1/10)、版(1/3〜1/2)などは安いが、対売上比率が最も高い印刷用紙の場合は、中国製の塗工紙でも日本の価格とほぼ同じである。償却費に関連する印刷機械の価格を見ると日本の半分あるいは1/3程度のようだ。
「日本の印刷」では、上記のようなコストデータを元に、印刷コスト面から両国の料金がどの程度違ってくるかを推計している。その結果、中国の印刷会社の生産性が日本と同じであれば、中国の印刷価格は日本より42.1%低くなると推計された。しかし、現在導入されている印刷機は日本でいうと10年ほど前に導入されていた印刷機と同等の機能のものであり、CTPの普及度もプレートセッターの設置台数が一般印刷で50台というレベルにある。このような一般的な設備状況や技術者の教育体制の状況も加味してみると、一部の例外を除いて中国の印刷会社の生産性が日本と同じとは考えられない。
そこで、中国の印刷現場の生産性が日本の1/2の場合と1/4の場合の印刷価格を推計してみると、1/2の場合は25%、1/4の場合に9.0%ほど日本の価格に対して低くなる。しかし、物流のコストや時間および品質保証を考えると、2,3割価格が安くても中国で生産するのが得策とは言えないだろう。
(出典:JAGAT印刷マーケティング研究会会報 「FACT 2003年4月号」より抜粋・要約)
2003/08/26 00:00:00