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生活者とともに創るメディア(2/2)

シンポジウム「顧客の顔が見えるメディア」(7月16日開催)から(株)ぱど 代表取締役社長 倉橋 泰氏の講演内容とパネルディスカッションを紹介する。

メディアが進化すると地域が面白くなる

(株)ぱど 代表取締役社長 倉橋泰 氏

1983年米国駐在中、新聞のニュースを伝えるメディアとしての価値の低下を実感し、さらに無料宅配誌『Penny Saver』を知り、それをヒントに『ぱど』誌の企画を暖めた。

「ぱど」は、「いつでも、どこでも、だれでも、安価に、自らが発信できるメディア」、「エリアを選べ、サイズを選べる」ジグソーメディア(=効率的メディア)、「無料で配布されるメディア」である。「ぱどんな」さんという配布レディが住宅地図をベースにポスティングをしており、今現在約1140万部配布している。

「ぱど」のメディア特性

新聞が持っていた情報を、リクルートはジャンル別で書店売りで成功した。就職の情報を『B-ing』、不動産の情報を『住宅情報』、旅行情報を『エイビーロード』、結婚情報を『ゼクシィ』、おけいこ情報を『ケイコとマナブ』というようなかたちでどんどん成立していった。ぴあはイベント情報誌として成功した。
一方、ぱどは、渋谷周辺、新宿周辺、横浜周辺というふうにエリア別に分けている。住宅情報だけではなく、イベントの情報も求人の情報もグルメの情報も、あらゆる地元の情報を載せて横に切っている。そして、無料で宅配をしている。
インターネットは、何が欲しいとはっきり分かっている場合には非常に検索性にすぐれたメディアである。キーワードで検索するというPull型のメディアである。一方、ぱどはPush型である。こちらから届けてあげて動いてもらうという、オプト・イン・メールのようなものを想像してインターネット戦略を進めようと考えている。

紙とWebの連動「ぱどタウン」

今現在チラシは新聞に挟み込まれて配られているが、将来ネット上で届くのではないかという発想から、インターネットチラシを考えていかなければならない、インターネットでチラシを運べないかということから「ぱどタウン」をスタートした。
「ぱどタウン」は、実際にある街をモデルにしたバーチャルタウンを舞台にしたコミュニティサイトであり、実在の生活情報が混在する世界で、情報誌「ぱど」と同様、参加することによってさまざまな地域コミュニケーションや情報検索が可能となる。
「ぱどタウン」は、現在、全国で29のタウンがオープンしているが、エリアを細分化し70個作るつもりである。滋賀県のサイト「遊びわ♪タウン」を見ると、琵琶湖があり、一番最初にオープンした「泉州ぱくぱくタウン」では関西国際空港が洋上に浮かんでいる。
「ぱどタウン」の住民になると住民センターに登録され、街のカフェではチャットができるようになっている。また、ショップへ行くと買い物ができる。「まるごと地元情報」というのは、バーチャルな町なのだが、そこで地元のリアルな情報が取れるような感じになっている。各自の部屋にはメールボックスがあり、「めちゃ得掲示板」には、アクセス中に、文字広告が入ってくる。

地域とつながる

なぜ町を区切っているかというと、その町ではその町の情報しか出ないようになっており、地元で買い物をしてもらうというコンセプトで作っている。
「ご近所ドクター」といって、自分の近所の病院情報を条件に合わせて検索できるシステムがあり、これは医師会と組んで作っている。「あおぞらニュース」は警察署と組んでおり、防犯の記事などを載せている。警察に協力したということで,2003年6月、中野警察署から表彰状をいただいた。

STOP SHOP LOCALLY

「止まれ、ご近所で買い物をしましょう」という意味である。インターネットがあれば、店に行かなくても買い物できる。インターネットは実は敵なのだが、道具でもあるので、インターネットを使えばより顧客が獲得できるよということを提案するのがわれわれの仕事なのである。地元で買い物をするのが一番いいというコンセプトで作っているのである。地元で買い物をすると税金は地元に落ちるから、すなわち地元のためになる。

インターネットは検索性にすぐれたものだが、きっかけが必要である。きっかけを与えるにはフッカーが必要なので、それには紙媒体がいいのではないかと思っている。今後は紙媒体である情報誌「ぱど」をフッカーとし、細かいことはインターネットで検索できるように、ネットと紙とをうまく連動させてやりたいと考えている。

10年後のビジョンは?―パネルディスカッション

各氏の講演後、(株)ダイヤモンド社 データベース事業局長 和田 昌樹 氏をモデレータにお迎えし、パネルディスカッションを繰り広げた。

和田氏は、講師の方々のビジネス展開の共通項を「ネットワーク、インターネットがあるということが1つの前提になっていて、その中で、今までのビジネスのフレームづくりとは全く違ったことが起こり始めている。パラダイムシフトが新しいビジネスを生んでいる」と切り出し、特に重要なのは、「そこの中で送るメッセージの問題であり、どのような内容のメッセージをどのような場面・背景で送るか、それからどんなチャンネルを使って送るかをスピーカーの方々は共通して意識している」とまとめた。最後に4人の講師の方々が、今展開しているビジネスの未来像、10年後の姿を語った。以下に紹介する。

「10年後までに、iMiネットのスケールをもっと広げたい。ネットワーク社会というのは、言うならば口コミで広がるのが一番正しい手法だろうと思っている。だからまずiMiネットに登録したメンバーがやめないということが基本で、その人たちがほかの友達を誘ってきてくれることが望ましい。そのためには、メンバーがプライドを持てるようなネットワークサービスにしていかなければならない。1億人登録していただいても歓迎である。
ユビキタス社会が来ると、無線のインフラも相当広がっているかもしれないし、テクノロジーもどんどん発達している。そうすると今のパソコンでもPDAでも携帯電話でもない何か新しい、けれども本質的にデジタルテクノロジーをうまく使って、日常生活に溶け込んでいるようなメディアがいずれ現れるだろうと期待している。そういうものを作り出していくことにも関わっていたい。会社を作ったときから、そのような夢を持っている」(鎌倉氏)

「10年前のことを振りかえってみると、デザインの集まりをもって『世の中を変えていこう』と思っていて、10年たったときにはデザインはインターネットビジネスに変わったが、みんなの力を集めて何か新しいものに変えたり、お互いに助け合ったりというのは変わっていないので、それは多分変わっていないと思う。
Q&Aということに関していうと、何に困っている、何がそのものの本質かということに使われつづけると思う。インターネットの脳細胞が発達するのと同時に、人間としての精神構造も上がっていったときに必要とされるQ&Aに関わっていて、それをインターネットになるのか、また次の世代のネットワークになるのかはわからないが、皆さんが何が問題で何が解決策かということを交換して、次のステップにいくというお手伝いをしていきたいと思っている」(兼元氏)

「みんなの書店に、書評を書いてもらっているが、この文章をよくよく読んでみると、うまい。プロの書評家に書いてもらったものと、みんなの書店の店長さんのコメントで比較分析をしたことがあるが、みんなの書店の店長さんのコメントのほうが倍は売れる。10年後は、お客さんの中から作家が生まれるだろう。作家を生み出したいなと思っている。
印刷という目で見てみると、今までは川上のほうで『こういう本を出す。こういう大量印刷がある』という形だったが、これからは、お客さんの中からコンテンツが生み出されてくる。お客さんがすべてを決めていくので、お客さんと向き合っていけば、われわれのビジネスも本というものも、どんどん増えていくのではないか」(鈴木氏)

「コツコツとメディアをインフラとして整備し、10年後に2000万部週刊を目指したいと思っている。ネットは10年後には、画像が全くストレスなしに出るので、本当の意味でのインターネットチラシができ上がってきているのではないか。リアルタイムで変わるようなチラシができているのではないか。それに対して自分たちがどんなふうにできるかが課題だと思っている。紙と電子媒体は共存共栄すると思う。広告を打とうとする広告主が併用して使ってくると私は思っている」(倉橋氏)

和田氏は、最後に「今まで企業人は『自分たちが作った製品をだれが買うか』という発想できたが、これからは『選ばれる』あるいは『顧客とともに作る』、『共創』の時代に入ってきている。その視点からビジネスを再構築されることをお願いしたい」と締めくくった。

(終わり)

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2003/08/22 00:00:00


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