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店頭でのオンデマンド実現「リアルタイムパブリッシング」

海外の新聞を読みたい、手に入れたいと思っても、当日のものを手に入れるのは今までは至難の業であった。ところが、それが実現できる場所ができた。全国の書店やホテルでサービスを展開しているコニカビジネスマシンの「リアルタイムパブリッシング」だ。 同社は、世界約160社の新聞、国内の新聞・出版社のコンテンツを、書店やホテルに設置したプリンタでオンデマンド印刷し、販売するという国内初の試みにチャレンジしている。出版の注文を受けてから印刷し、出来上がったものを届けるというスタイルのオンデマンド出版に取り組んでいるメーカーや印刷会社はあるが、同社は、書店やホテルに機械を設置しているので、その場で出力して販売できる「まさにオンデマンド」を実現している。
出版流通が崩壊するのか。それとも、共存・共栄を目指しているのか――。その実態を探るべく、当事業に取り組んでいるコニカビジネスマシンのオンデマンドイメージング事業部を訪ねた。

「書店で販売している書籍や新聞と競合するものではなく、あくまで違うユーザーを対象としているのです」と同社のソリューション営業部・花岡知彦氏。
同サービスを開始したのは、日韓共催のサッカーW杯が開催された2002年6月。各国のプレス関係者や選手が宿泊している各ホテルにシステムを設置した。特にニーズが高かったのは新聞記者で、自分の書いた記事が掲載された自社の新聞を当日見たいと利用する人が多く、W杯開催中で約12000部の売れゆきだったという。

●「リアルタイムパブリッシング」体験!

▼書店内に設置されたリアルタイムパブリッシング

どのような仕組みで、海外の新聞や出版社のコンテンツがオンデマンドできるのだろうか。コニカビジネスマシンは、世界の新聞社と契約している会社と国内のライセンスパートナーとして契約をしている。各新聞社や出版社がサーバにPDFでコンテンツを上げ、店頭で注文があれば、サーバから最新のコンテンツをダウンロードし、プリンタが印刷・製本まで行い、その場で販売する。プリンタは、7085HVと7165の2種類があり、設置するスペースの大きさによって分けている。

▼ご注文はカウンターまで

百聞は一見にしかず…ということで、さっそく書店で「リアルタイムパブリッシング」を体験することにした。八重洲ブックセンター(東京・中央区)の7階、洋書コーナーへ向かう。欲しいコンテンツを店員さんにお願いするとパソコンで操作してくれる。本を購入したいと依頼すると、パソコンの画面の「Book」「Magazine」「Newspaper」から「Book」をタッチパネルで選択し、次にジャンル、タイトル、著者、出版社などから選択し、表紙画面が出てくる。欲しい本を選択して部数を入力、最後に「注文ボタン」をクリックすれば、ダウンロードが始まる。あとは、プリンタから出てくるのを待つだけ。データがパソコンからプリンタに行けば80ページの雑誌が約40秒で完成。本を立ち読みしている間に出来上がる。
新聞を注文した場合は、画面の世界地図から地域を選択、国名を選択、表紙画像から新聞を選択して、あとは部数入力、注文ボタンをクリック、きわめてシンプルな操作だ。

▼あっという間に本の出来上がり

●コンテンツ拡大を目指す

現在取り扱っているコンテンツは、世界約160社の新聞、夕刊フジ、メールマガジン「まぐまぐ」のコンテンツである「まぐまぐ文庫」、雑誌、その他出版社のコンテンツである。出版社のコンテンツに関しては、これから拡大していくことを目指している。
夕刊フジは、東京発行の最終版をダウンロードできるので、首都圏以外あるいは海外でのニーズがあるのではないかと睨んでいる。
また、2003年9月1日から、読売新聞の海外でのリアルタイムパブリッシングをスタートした。海外在住の日本人へのサービスだ。

●取り扱い場所・販売形態

リアルタイムパブリッシング導入店は、北海道から九州まで、全国の書店、ホテルインターコンチネンタルベイ、横浜グランドインターコンチネンタル、東京リスマチック(新聞のみのサービス)など国内約20拠点。また、旭屋書店のニューヨーク(11月20日から)、ロサンゼルス、ロンドン店にも導入している。今後、書店を中心に、全国100店舗目指して広げていきたいとしている。
印刷は、現段階ではオール1Cモノクロ、製本はA5かA4中綴じ80ページまで(表紙含む・表紙は別厚紙など使用可)、または、A3天綴じ100ページ。

●個人出版もできます!

当サービスの「目玉」の1つに、個人出版ができることがある。顧客が書店に、フォント埋め込みのPDFデータをCD-ROMで持ち込むと、10冊単位から書店で出力し出版できる。
8月1日から、ジュンク堂池袋本店(東京)、旭屋本店(大阪)でスタートし、その後、東山堂本店(岩手・盛岡)もスタートした。現在は3店舗であるが、10月からは旭屋書店札幌店(北海道)でも開始する予定。これからは、全国に広げたいと考えており、持ち込むメディアをどうするか、データはPDFだけでいいのかを今後の課題として検討している。本だけでなく、大学のサークルの冊子、会社の会議資料など、さまざまなニーズに応えられるだろう。
「『こんなに簡単にあなたの本が作れます!』ということをアピールしたい」と花岡氏。

●eBookとオンデマンド

コニカビジネスマシンでは、新聞社、出版社から提供してもらったコンテンツを供給する2つのWebサイトを運営している。

eBook-print.com
リアルタイムパブリッシングのコンテンツ紹介サイトで、いわゆるオンデマンド印刷、紙として販売するものを扱っているサイト。

eBook-salon.com
電子書籍販売サイトで、携帯情報端末で読むための本を配信している。

●「遊歩人」

『遊歩人』は、「リアルタイムパブリッシング」の機関誌として、2002年4月に創刊した月刊雑誌。eBookとオンデマンド本を同時に配信・発刊している。
内容は、筒井康隆など人気作家による新作の掲載や再録、エッセイや対談など、一般雑誌と比べても勝るとも劣らない内容である。
新刊は無料配布をしており(2004年4月まで)、バックナンバーのみ販売している。1ヶ月の購読料はブックオンデマンドとイーブックのダウンロード権も入って300円である。

▼出来上がったオンデマンドブック

●絶版、在庫切れなしの世界実現

当サービスによって、出版社、書店、読者にとって悩みのタネであった、絶版・在庫切れがない世界を実現できる。
ただ、出版界と競合するものではなく、共存していくことを目指している。「もちろん、上製本の方がいい場合もあるが、簡易なものでもいいというものが世の中にはたくさん眠っている。そのようなニーズに合ったものに、リアルタイムパブリッシングを利用してほしい」。
新刊の本にしても、出版社側として、どれくらい売れるかの検討がつかない場合、リアルタイムパブリッシングでパイロット販売(テスト販売)し、どのくらい反響があるかを見極めてから、改めて本として出版するようなことも可能である。

今後の課題としては、システム設置書店の増加、コンテンツの増加、カラー化などだ。
「少量だがニーズのあるコンテンツを大量に集めれば、まとまった数字になり、出版市場も伸びるのではないか。全国の書店に機械が増え、コンテンツが集まれば、そこからが本格的な事業展開となると思っている。世界でもやっていない試みなので、長い目で考えています」。

(文・写真 岡千奈美)

2003/09/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会