Windows NT 4.0をルーツとする32bit Windows OSの最新版であるWindows Server 2003は,Windows 2000 Serverの後継サーバOSである。マイクロソフトが提案するMicrosoft.NET技術との連携により,インターネットの向こうにある様々なWebサービスが利用できるようになる。
3つの目的
Windows Server 2003を発売するにあたり,マイクロソフトは大きく3つの目的を掲げた。
第1は,ミッション・クリティカルなシステムに対して安定的に使用できるベースOSであること。Windowsサーバに対する顧客の疑念をはらし,より重要度の高いサーバとして使ってもらう。
第2は,管理コストの低減。Windows サーバの購入価格は,一般的にUNIXサーバに比べて,安い認識がある。しかし実際に使い始めると,修正プログラムの適応で運用コストがかかる。現在の経済状態を考えると,「新しい機能が増えた⇒新製品を買う」という図式を描くことは難しい。
Windows Server 2003の導入を進めるには,サーバ運用にかかるコストの低減をアピールしなければならない。マイクロソフトはそれを理解している。そこで,Active Directoryの柔軟性の向上,サーバの管理機能を強化することで,管理コストが低減できるとしている。また非常に目立たないところだが,管理用の多数のコマンドラインツールがWindows Server 2003には標準で搭載されていることもポイントである。
第3は,.NET時代の足がかりにするということである。Windows Server 2003には「.NET Framework」と呼ばれるフレームワークが標準で入っている。.NET Frameworkはマイクロソフトのサイトから無料でダウンロード可能であり,Windows 2000 Serverに組み込むこともできる。
しかし多くの管理者は,余計なものをインストールしてシステムを不安定にしたくないという理由から,なかなか.NET Frameworkのインストールが進まない。.NET Frameworkが入っていないと,.NET対応アプリケーションは実行できない。この点,Windows Server 2003には.NET Frameworkが標準で入っているので,.NET対応アプリケーションをすぐに実行できる。
Windows Server 2003が普及することで,.NET Frameworkの実績も増え,普及にはずみがつくだろう。
セキュリティ強化
今回のサーバ開発でマイクロソフトは,プログラムの新規開発を約2ヶ月間中断し,セキュリティホールがないかどうかを確認する「Windows Security Push」を行ったことを強調している。少なくともWindows 2000 Serverよりは,セキュリティホールが少ないだろうと予測できる。しかし残念ながら,すでにWindows Server 2003向けのセキュリティホールも続々と公開されている。セキュリティホールがないということではない。
具体的なポイントとしては,ネットワーク関連の各種機能がデフォルトで無効化されているという点である。Windows 2000 Serverのときは,インターネットへの直接続より,社内イントラネットによるネットワーク接続という前提で標準設定がされていた。
たとえば,Windows 2000 Serverをインストールすると標準でIISがWebサーバとして機能する。社内利用には便利な機能だが,インターネット利用となると様々な攻撃を受けることになる。これに対しWindows Server 2003では,インターネットに接続することを前提として,デフォルト設定は安全性に重点をおくことにした。Windows Server 2003からは,標準の設定で多くのネットワーク機能がデフォルトではほとんど無効になっている。たとえば,管理者が明示的に指示しない限りは,IIS 6.0はインストールされない。様々な拡張モジュール(ISAPI)も,デフォルトが無効化されており,必要に応じて有効化しない限り使えなくなっている。
.NET Frameworkの統合
.NET Frameworkは,マイクロソフト.NETの対応アプリケーションを実行するためのベースとなるフレームワークでWindows Server 2003には.NET Framework 1.1という最新バージョンが標準で入っている。これまでWindows 2000 Server向けの.NET Frameworkも提供されていたが,無用なインストールでサーバを不安定にさせたくないという企業ユーザが多いため,インストールはあまり行われていない状況だった。
Windows Server 2003は,サーバ単体として目立った機能は少ないと前述したが,マイクロソフトの戦略としては,ネットワーク環境にWindowsサーバがあり,クライアントに最新のOfficeあるという環境で,トータルに生産性の高い情報環境を作ることを目指している。
なぜ,今Microsoft.NETなのか?
IEとWindowsは,密に結合しており,それぞれを分離するのは難しい。同じことがシステムにも言え,インターネット,LANの中で情報システムは密に融合する時代になっている。たとえばOfficeの場合,どこまでがWord,Excel,IEなのか。IEでWordのドキュメントをクリックすると,IEのブラウザでWordのドキュメントが見える。今までのようにWordのパッケージを買ってWordが使える,Excelのパッケージを買ってExcelが使える時代から,それぞれの境界があいまいになって,あくまでユーザは,サービスとしてアプリケーションを利用し,それが結果として,ときにはWordを使い,Excelを使うということになる。
そういう中でマイクロソフトが持ち出したのがMicrosoft.NETの考え方である。今後は,ネットワークサービスとの境界がどんどん見えなくなってくる。これまでは,道具を人間が自分で選択して使い分けていったが,今後は,それらを融合的に見るようなサービスが提供されるようになる。また,単体のコンピュータで処理していたものを,ネットワークの先にある情報やサービスを効果的に使って処理するようになる。
Webサービス
Microsoft.NETとは,インターネット/イントラネット技術を中核とし,アプリケーションと情報サービスを渾然一体化する新しい情報環境を構築するための戦略である。.NETの中核的な技術がWebサービスと呼ばれるものである。Webサービスは,インターネットのWebのメカニズム(HTTP)を使用してアプリケーション間通信を可能にするプロトコルのことである。現在のWebは,Webサーバから提供されるWebページのデータをWebブラウザで表示し,その内容を人間が理解して使っている。これに対しWebサービスでは,Webのテクノロジを利用しながら,プログラムとプログラムがネットワーク越しに会話できるようにする。アプリケーション通信は以前からあったが,独自のプロトコルであったために既存のネットワークとうまく連携できず,広く普及しなかった。
Webサービスとはマイクロソフト独占の技術ではない。W3Cで標準化されている公開仕様である。IBM,マイクロソフト,サン・マイクロシステムズ,Java関連ソフトウェア企業などコンピュータ業界全体がWebサービス対応へと向かっている。
従来のWebは,HTTPを使用してHTMLのデータをやり取りし,Webページ表示やインタラクションを実現する。これに対してWebサービスでは,HTTPをベースとしたSOAPというプロトコルを使用して,アプリケーション連携を可能にする。
(通信&メディア研究会)
2003/10/25 00:00:00