「DM革命」続行中
効果的なDMかどうかは,開封率や直接の受注率で推し量ることができるだろう。通常通販などのDMによる受注率は,よくても0.5%程度だといわれている。ここに,受注率15%という驚異的な数字を誇っているDMがある。形状,色,キャッチコピーとさまざまな付加価値が必要となってくるが,大切なのは人間の五感に訴えることと基礎的な市場調査がなされていることである。
今回は,DM制作に特化し,独創性あふれる企業として活躍する内田紙工業(株)代表取締役社長内田和行氏にお話を伺った。
下請け脱皮を目指してDMに着目
内田紙工業(本社・東京都北区)は,1964年3月に先代の社長が個人経営で創業し,会社組織として設立したのが1970年11月である。もともとは印刷から製本加工まで行っていた。主な得意先は印刷会社と企画会社であった。フィルムを支給され,印刷加工し,発送業務までを請け負っていた。しかし,受け身の仕事ばかりでは飽き足りず,下請けで終わりたくはないという強い願望を抱いていた。
バブルの時期,他社が設備投資等,ハードに時間や金を費やしていたのに対し,内田氏はソフトに着目していた。そして,これからの時代は「感性とサービスは商売になる」として考え出したのがDMの製造販売事業であった。バブル景気の頃には利益のほとんどを新事業の研究開発費に当てていた。それは,ある意味では冒険であった。しかし,長年思い描いていた下請けからの脱出を図るには冒険も必要だった。
今までにない新しい商品を作り出していくのは容易ではない。DMに関するあらゆる知識の習得とその応用から始め,専従者をおき,DMに関する外部の講習会等にも参加させた。セールスプロモーションの基礎講座に始まり,化学的知識の習得にも努めた。コンピュータの画像処理も勉強し,製品化のために努力を重ねたという。しかし,そういった苦労にも,創造する喜びがあった。
そして1991年,DMに特化したメイラブルパック事業部を発足させた。
「DM革命」を掲げアイデア商品を開発
やるからにはオンリーワンを目指したいという内田氏は,「DM革命」を掲げ,それまでになかった新しいものを創造していく。ヨーロッパ,アメリカのDMマーケットのいいところを学び,独創的な日本のDMに置き換えた。
設備に関しても,スイスのフンケラー社製のシートフィニッシングシステムとフェブフィニッシングシステムという最新鋭のシステムが稼働している。両システムが稼働しているのは世界でも数社しかなく,日本では同社のみである。つまり独自のDMの生産ラインを確立したわけである。
もちろん,小さな会社が新規事業に参画するにはそれなりのリスクがある。知名度も低い。企画会社とタイアップして,次々とアイデア商品を企画開発していったが,すぐには軌道に乗らなかった。しかし商品が優れていれば,売れるのも時間の問題であった。1992年に通販国際見本市の正規招待状に同社のメイラブルパックが採用されて以降,注目されるようになった。
その後もユニークなDMを制作し続けて,これまで数々の受賞歴を誇る。なかでも1998年の第12回全日本DM大賞製造業部門では見事金賞を受賞している。
同社の製品例を少し紹介しよう
名刺と香り袋を封入し,封筒全体がほのかに香る「おすすめ〜る」。「メイラブルブック」では,DMそのものが小冊子になる世界初の試みを行い,大手企業にも採用された。通常のDMとは異なり,人間の五感に訴えるアイデアをDMに盛り込むことで,高い開封率,受注率を誇っているのである。
「みえみえ〜る」シリーズでは,消費者の手をなるべく煩わせない方式をとった。注文する際には,自分の住所や名前をいちいち書き込まなくても必要な個数等を記入するだけで済むように工夫されている。「パーフェクト2ウェイ」と名付けられたこのシステムでは,返信用の葉書に,事前に住所・氏名が記載されている。窓あき封筒の宛名と注文用葉書の住所・氏名を兼用しているのである。発想の転換で強力な武器になることを示す好例であろう。
これら同社のユニークな商品群は,特許・実用新案保有,商標等申請済みである。
公的資金で「やる気」を形に
「楽しんで作って,楽しんで仕事している」と語る内田氏だが,開発には膨大な資金が必要である。せっかく新らしいものを考案しても大手企業にまねされるおそれもある。そこで制度資金利用を思い立った。
1994年,95年と2年連続して東京都中小企業振興公社開発促進事業の認可を受け,94年には東京都新技術等開発企業化の認可を受ける。公的資金を支えとして十分な開発がまかなえる,という多大なメリットが生じた。同社の独創性は制度融資や助成金の力に頼るところ大であった。
そして1998年には東京都知事中小企業創造的事業法の認可を受けた。創造的企業としてのお墨付きを都から受けたわけで,新製品の開発資金に充てる予定である。また金融機関からの資金調達の面でも信頼の面でもプラスになっている。
最近では公的制度利用の相談もよく受けるという。堂々と申請し,制度を利用すべきだという。しかし「問題はやる気」といいきる。「やる気さえあれば,夢をかなえることができる。公的資金はそのための大きな支えになる」。
DMのトータルサポート
現在でも印刷製本加工の仕事はしているが,DMに関する仕事との割合が3:7くらいになっている。ひとつの事業を10年一区切りに考えているので,今後もいろいろな展開が考えられるが,DMの本場アメリカでの活動も考えて,現在アメリカでの法人化に向けて準備中だという。
DMに関してはプロフェッショナルの内田氏も,最近ますます奥の深さを感じているところだという。DMは会社案内でもある。顧客である企業の商品力,企画力のマーケティングをする。まず売りたい商品が何であるのか,それがすばらしいものなのかどうかを考えるところから入る。それに見合ったDMを考え,製品化していく。同社では,このようなDM業務でのノウハウを生かし,DM作成,発送,アンケート調査なども行っているほか,アフターフォローとしてテレマーケティングも最近始めた。売りっぱなしではなくDMのトータルサポートをしているわけである。
この仕事をやって一番よかったのは「自分が成長していけることを感じられること」だという。「お客様が成功したときは自分のことのように思える。これからも暖かみのあるDM作りを目指していきたい」と語る。
今後は,インターネットと印刷媒体における競合と融合を図り,それぞれのいいところを見つけてインターネットビジネスにも参入したい。そのためにデータベース化の準備にも余念がない。
ひとつの事業に特化し,「オンリーワン」を目指す同社の姿勢には学ぶべきことが多い。(上野寿)
内田紙工業株式会社
〒115-0051 東京都北区浮間2-13-11
TEL:(03)3967-1681
FAX:(03)3967-1683
E-mail:k.uchida@po.cnet-ta.ne.jp
1999/11/26 00:00:00