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価格に関わる3つの「標準」の共通点と相違点

本ページでは、印刷価格に関する問題(「見積もりを考える」「印刷営業の役割と印刷価格の本質」)、印刷経営の基本的考え方(「『ing思想』に基づく経営管理の基本的考え方」)について書いてきている。これらの記事に共通するポイントは、安値受注に関する各社内部における問題の解消、緻密な経営の実践、今後目指す自動化実現のためには、工程手順と価格に関する「標準」を各社なりに持って運用することが不可欠であるということである。(「ing思想」という言葉にはじめて触れられた方は、「印刷営業の役割と印刷価格の本質」、「『ing思想』に基づく経営管理の基本的考え方」を読んだ上で、以下の文章を読んでいただきたい)

価格に関わる社内標準については、一般的には「標準製造原価」、「社内仕切価格」、「社内基準売価(社内料金)」の3つが使われていることを「印刷見積もりの難しさ」で述べた。(注:標準製造原価を「社内仕切価格」と呼んで利用している企業もある。標準製造原価の内容として、一般管理費の製造部門負担分を含める場合とそうでない場合があるが、ここでいう「社内仕切価格」は、「代表的利益管理方式それぞれの得失」で紹介しているように、一般管理費とともに利益の配賦分を加えた数字を元にして設定したものとして扱っている。)
現在の印刷業界の運用実態としては、「社内基準売価」の使用が最も多く、それに次いで「標準製造原価」が多く、「社内仕切価格」を設定、運用している企業はそれほど多くない。それでは、この3つの指標を使うことの共通点と相違はどこにあるのだろうか?

3つの指標の共通点は、いずれも「ing」の成果を評価できることである。たとえば、標準製造原価の場合、月次単位での「月次生産高(=標準製造原価合計)―実際製造原価合計」がプラスになれば、製造現場が合理化努力をした成果であるとみることができる。営業部門は、標準製造原価合計に対する売上額合計の比率(実績粗利益率)と年度予算において製造原価に対する売上予算額の比率(予定粗利益率)を比べて、後者が前者を上回っていれば「Pricing」 の成果があったと見ることができる。「社内仕切価格」であっても「社内基準売価」であっても、いずれも「標準」だから、上記の標準製造原価の場合と同様に標準と実績の比較によって「Costing」、「Pricing」の成果を評価することは可能である。

ただし、社内基準売価を使っている場合でも、社内基準売価と実際の請求金額の比較データを管理数字として使っている企業は非常に少ない。社内基準売価は、あくまでも見積り金額なり請求金額なりを算出する根拠としてのみ利用しており、社内基準売価で計算した結果を残しておかない企業が圧倒的に多い。このような企業のほとんどは、アワーコストと作業時間とを掛け合わせて出したいわゆる「原価」と「売上高実績」の比較数字を、一品別の粗利益管理を主目的にしたデータとして使っている(「代表的利益管理方式それぞれの得失」)参照)。したがって、この場合には「社内基準売価」は持っていても、「Costing」、「Pricing」の成果を見ることはできない。

「標準製造原価」、「社内仕切価格」、「社内基準売価」の中で、「社内仕切価格」が他のふたつの指標と異なる最大の特徴は、営業部門、生産各部門のすべてについて、「利益目標(予算)」を設定して、その利益目標に対する実績を出すことができるという点である。 すでに述べたように、「社内仕切価格」は、標準製造原価(製造現場の労務費、各種経費および外部購入価値(外注費、材料費)だけを含める場合とこれらに一般管理費の配賦分を含める場合とがある)に対して、一般管理費とともに利益についても営業部門を含む部門ごとに配賦した数字を上乗せして設定される。生産現場は、単にコストダウンをすればいいということではなく、営業部門と同様に「利益の目標」を持って活動を行うべきであるという「部門別利益管理」を重視するからである。

先に、「標準製造原価」、「社内仕切価格」、「社内基準売価」の3つの中で、印刷業界で使われている多さは、第一が「社内基準売価」、第二が「標準製造原価」そして「社内仕切価格」であると述べた。
社内基準売価は過去の数字あるいは市況をベースに作ることができる。標準製造原価の場合には工数を考慮しなければならない。社内仕切価格の場合には、工数データだけでなく、目標利益を設定する時も目標と比較する実績数字を出す時も、一般管理費とともに利益(利益は目標設定のときにのみ配賦)を部門別に配賦しなければならない。そのような手間とともに、配賦の考え方などについても基準を作らなければならないといった複雑さが加わる。
基本的には、管理数字としては1品別の粗利益管理への関心が強く、部門別の利益管理が重視されてこなかったことも、社内仕切価格が標準として使われなかった大きな理由である。上記で紹介した「原価」と「売上高実績」とを比較する方式を採用する最大の目的は、一品別の粗利益を把握することにある。

管理手法については、経営者の考え方で各社それなりに採用するものが異なることは当然である。もちろん、さまざまな手法の特質を吟味して自らの考え方や自社の実情に照らた上で、という前提においてである。これから、経営管理コンピュータシステムを再構築しようとする会社は、それを機会に上記の3つの標準のどれを採用すべきかを熟考してみてはいかがだろうか。

2003/10/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会