今生産現場のデジタル化が進務中で入・出稿形態が大きく変化しているが、その結果管理する対象が現物からデータとなり管理が難しくなっている。このため生産部門では、データ管理・作業管理の負荷が増え、さらに管理を統括する管理部門では、リアルタイムな予定・進行管理を行うことが益々困難な状態になりつつある。言い換えると、今何が儲かって、何が損をしているか、また何が起きているのかなどが把握しづらい状況でもある。本来生産性向上を目的としたデジタル化の推進が、逆に管理間接業務比率の増大となり、プリプレス工程での生産性向上が課題となっている。
またクライアントからも「高品質」、「コストダウン」、「短納期」といった要望に加え、最近では印刷・製版会社をデータ管理・セキュリティ管理のプロとしてのアウトソーシング先としてのデータセンター化の要望も増加している。このような要望を実現するには、個人任せ的な管理体系を改め、組織としての管理品質の向上と生産性の向上に加えて、データセンター化を目指すことも今後の課題となりつつある。
コニカミノルタはIGAS2003で、これらの課題に対するソリューションとして生産性向上と管理品質向上による印刷工程全体の最適化を支援する「Neostream Pro」を発表した。
従来の印刷工程管理システムは、図でいうと横軸系の流れを表し、「入稿済み」、「DTP作業中」、「刷版・校正中」、または「下版」といった業務系伝票の流れを管理する「進行管理」機能が中心であった。これは後戻りのない一方通行的な工程を管理するので、プリプレス(製版)工程のように、「直し」、「再校」、「出校」といった何度も後戻りするような工程の管理が難しかった。またプリプレス工程は一括りになった大きな単位でしか進行を管理していないものが多かった。
この横軸の「進行管理の軸」に対して、このシステムの場合は、このような後戻りが頻繁にあるプリプレス工程にフォーカスすることで、これをデータ管理、作業管理機能(縦軸系機能)という考え方をして管理を行っている。
具体的には、DTP作業におけるオペレータのファイルサーバへのアクセスを監視しながら、どのオペレータが、どこの得意先の、どの品目について、何のデータを、何の作業のためにアクセスしているかを自動監視する。従って、どのオペレータが何をしているかといった作業内容がリアルタイムで把握でき、どのオペレータの作業負荷が高いかといった作業負荷管理も可能になる。ファイルサーバへのアクセスを監視するため、どのデータに誰がアクセスできるか、つまりデータ(フォルダ単位)へのアクセス権の設定も可能で、セキュリティ管理も可能になる。
作業伝票の流れを捉えた「進行管理の軸」に対して、DTP作業における実データを処理する流れを縦軸として捉え、この縦軸を「データ管理の軸」、「デジタル作業管理の軸」と呼んでいる。
この縦軸系機能と横軸系機能を連動させることでDTP作業におけるデータ管理と作業管理・負荷管理を行いながら、同時に品目別、入稿区分別の進行状況を管理することを可能にしている。
作業内容をサーバのデータアクセスの作業ログを残すことで、誰が、何の作業をどれくらいしたかの実績管理や、リアルタイムで実績集計が可能になる。デジタル作業だけの実績集計だけでなく、アナログ的な作業においても実績入力の画面を用意し実績データを取り込むことで、デジタル、アナログに関係なく実績集計が可能になる。この蓄積された実績データは、FileMakerProと連動させることで、情報の二次加工はユーザサイドで自由に行える。
DTP作業におけるデータ管理と作業管理・負荷管理を行いながら、同時に品目別、入稿区分別の進行状態も管理可能になり、作業実績のデータまでリアルタイムに高精度で集約することができる。
システムは、仕事を与える管理者をオーナ、仕事を割当てられた側の作業者をオペレータとして、DTP作業(アクション)をオーナ・オペレータ間でやり取りすることで仕事(ジョブ)を処理していく流れである。オーナの処理は、オペレータに対して、どの得意先の、何の品目の、何の作業をするかの作業指示をすることで、オペレータの処理は、自分に割当てられた作業をその優先順位に従って実行するだけである。
オペレータは、自分に割当てられたDTP作業を開始すると、その作業に必要なデータのフォルダがMacintoshのデスクトップ上にダイレクトにマウント(接続)され、そのままDTP作業を行うことができる。作業終了時には、どの得意先の、どの品目の、何の作業を、何時間していたのかがシステムのログに残るため、煩わしい作業日報の記入は必要ない。1作業ごとに最低限必要な項目の入力だけで済む。DTPオペレータは必ずデータにアクセスするため、作業進捗もリアルタイムになる。
管理者であるオーナはオペレータにアクションを発行することで、今誰が何の作業をしているか、どのくらいの作業負荷が把握でき、作業負荷の高いオペレータの仕事を他のオペレータに割当てるといったことも可能になる。
当社は王子本社に営業部門とプリプレス部門,戸田工場が枚葉機,川越工場はオフ輪で,川越には別会社の製本工場もあり,プリプレスから製本までの一貫した生産体制をもっている。
当社のプリプレスは3つのセクションに分かれている。マルチメディア課,メディアサービスという従来の組版を行っていたセクション,そしてグラフィック課である。現在,グラフィック課にNeostream Proを導入している。グラフィック課は入力部分のスキャナ,デジタルカメラとMacDTP編集,出力部分であるフィルムセッタ,プレートセッタを担当している。ほかにもインクジェットプリンタ,カラーレーザプリンタ,本紙校正,DDCP,カラーオンデマンド印刷などの機器で構成されている。
Neostream Proを導入する前に,プリプレス業務にいくつかの課題があった。まず,リアルタイムの進捗管理ができていないこと。例えば,予定してた仕事がキャンセルになり社内に空きができたにもかかわらず,ほかの仕事を協力会社に依頼してしまうというようなケースが起ったりしていた。
2つ目にデータのセキュリティ管理が不十分なので,強化したいということ。
3つ目にリアルタイムで高精度の実績管理を行いたいということ。例えば今日の何時の時点で,どれだけの出来高なのかを工場管理者は把握したいというニーズである。
次に工務進行担当メンバーが多いにも関わらず,オペレータの管理間接業務負荷が大きいことなどである。
そこで,課題解決への取り組みとして,「リアルタイム進行管理体系の確立」「データ管理体系の確立」「リアルタイムの実績管理体系の確立」という改善のための方向性を定めた。これによって,中間要員(集計作業者など)の削減,オペレータの管理業務の削減,ファイルサーバの強化という目標を立てた。
例えば現在,DTPのスタッフは40名ほどいるが,管理者が自分の業務をこなしながら,これらを一人ですべて見ることは不可能である。そこで5つのグループに分けて,グループごとに実績集計を行い,一つのシートにまとめていた。しかし一部にアナログ作業が残り,リアルタイムに実績が把握できない,作業者の負荷が増えてしまうという問題があり,期待した効果がなかなか得られなかった。
そこで,コニカミノルタ(当時コニカ)が工程管理と実績管理を合わせたようなシステムを開発中で,モニターの依頼があり,2001年に導入した。実作業でも生かせそうだということで,新たに当社でのテスト期間中に出た結果をフィードバッグし,バグ等を修正し,2002年に本格導入を前提に活用を開始した。
当社はDTPの一部門から運用を始めて,現在はDTP全部署で運用している。
一方,2003年10月から下版以降の印刷,製本,納品工程については,その整流化とWebブラウザを活用して工程全体の透明性を確保するためにProgress Contorol System(PCS)という自社システムを構築・開発中である。将来的には,これとプリプレス工程管理をつないでいこうと考えている。
Neostream Pro導入以降の取り組みについては,3段階でステップアップする。
ステップ1として,データ&デジタル作業管理の部分を立ち上げた。これよって,今だれが,どこの得意先の,何の品目の,何のデータを,何の作業のために使用しているのかが,リアルタイムに把握することができる。またオペレータ個々の作業進捗状況と,作業状況を定量的にグラフィカルに把握することができ,ブラックボックス化していたDTPの作業状況が透明性をもつことができた。
ステップ2として実績集計システムを立ち上げた。DTPオペレータに新たな負荷を与えることなく,リアルタイムに高精度に実績集計が可能になり,集計業務が改善され,担当要員が削減できた。
ステップ3では進行管理システムで,前後の営業,工務の部分を含めたものを,まもなく運用を開始する予定である。
このシステムは,一般業務系システムのように一度に全部署に適用しないと効果が確認できないようなものではなく,小さく始めて,大きく広げていくステップアップの展開が可能である。そのため,設備投資のリスクを小さくできる。
実際,導入するに当たってはあるDTPグループに導入して,その効果を確認した。その後,ほかのグループに適用を広げた。
また,短時間の導入研修後にすぐにシステム運用ができ,使い慣れたMac上でも稼働する。デジタルの仕事であれば全業務に適用でき,バックグランドで動くシステムとなっているので,制作環境に全く影響せずにPhotoshopやIllustratorなど既存のDTPアプリケーションもそのまま使える。
実績集計では,当社でこれまで利用してきた集計項目が利用でき,集計までの処理も大幅に短縮できた。作業終了情報を入力するとNeostream Proと自動連携した集計データベース(FileMakerPro)を使って,オンデマンドで集計・出来高管理ができる。オペレータが実績集計に掛かる負荷が軽減して時間が短縮できた分は,実際の制作作業に当てていくことができる。
このほか導入効果としては,管理品質上の効果も大きい。当社はISO9000シリーズの認証を取得しているが,これを運用していく上で社内に細かな規定があり,作業履歴を残さなければならない。また,作業データの保存場所,作業終了したデータの保管場所を明確にする必要がある。これらもNeostream Proの作業管理機能,実績集計管理機能,データ管理機能を利用することで運用できる。
このほかに当社はプライバシーマークも取得している。Neostream Proは,データアクセス権を設定でき,だれがどのデータにアクセスしたかが明確にすることもでき,異常時,事故時のトレースが可能になるので,プライバシーマークの運営でも効果がある。
将来的には進行管理においては,営業を含めて,顧客に対しても制作の進行状況の情報開示をできるようにしたい。そのことが受注獲得に結び付くようなセールスポイントとなり,さらに充実したかたちで運用していきたい。
2004年1月26日のJAGAT「プリプレスのデータ管理と工程管理を統合すると」セミナーより。
MISページ
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2004/03/10 00:00:00