一眼レフタイプのデジタルカメラも普及し始め,印刷原稿として大量のRGBデータが入稿されるようになり,印刷会社を取り巻く環境も大きく変わってきた。また,扱われる画像は印刷物製作だけではなく,Webでの掲載やデータ配信などマルチユース対応にも幅広く利用される。これらのRGBデータを活用するポイントや課題について,富士写真フイルム株式会社 河合英昭氏よりお話を伺った。
■RGBデータによって変わること
RGBデータは,プリンタ,フォトプリント,Web利用など多様な用途に使用できるものである。RGBには基準が必要とされ,その色を決めるための入れ物,すなわち「カラースペース」が,sRGB,Adobe RGBという名前で呼ばれているものである。
RGBとLabの関係は入れ物が決まると決定する。これは,逆にRGBの組み合わせを決めても,入れ物が変わると,その色は変わってしまうという点が難しい。
現段階では,変換する色空間が狭くなるように,広い方のデータを保存しておけばよいという考え方がある。やはり情報として,多く持っているものを残して,それを利用していくことは,色の情報がなくなってしまったものから再運用するよりよいことは間違いない。ただし,RGBも万能ではない部分もあり,広すぎるがゆえにいろいろな問題も発生する。
また,印刷工程において,品質に対する責任の範囲が変化する可能性がある。従来のアナログとCMYKの数値という関係が,RGBの数値も入ってきてしまい,特性の違いも発生する。
RGBデータの確認をどうするか,デジタルデータで上流から来た場合に,最終的に印刷物上で発生する印刷物の「像構造」,すなわち見え方の問題もある。一番分かりやすいのはシャープネスや光沢であるが,そのような情報はどのように補助するかという課題ある。
また,リバーサルフィルムからデジタルデータに移行しても,色再現域を印刷していく上で圧縮するという観点ではあまり変わらない。これは色を圧縮して見え方を一致させていくという技術であり,印刷業界が昔から網点化するときに培ってきた圧縮の技術である。
ただし,リバーサルの時代から表現可能な色でも,印刷では再現できない色が存在した。印刷の再現域にはもともと限界があり,これは物理現象で仕方がないのである。
RGBの入れ物としてのカラースペースは,sRGBとAdobe RGBがあるが,色空間を圧縮する場合,その大きさによって圧縮の難易度が全く違ってくる。したがって,仕事に合ったカラースペースを考慮しないと,不具合が発生する。
■色空間変換の種類と課題
色空間は,大きすぎても問題であるが,CMS(Color Management System)の中で色の圧縮をしていく方法がガマットマピングといわれる。その中にRendering Intent(レンダリングインテント)といわれるマッピング,圧縮の方法の違いがいくつかある。それらは,絶対的一致,相対的一致,知覚的一致と3種類がある。これはPhotoshopなどで使われている。
絶対的一致(Absolute Colormetric)は,完全にその色をデータの数値で一致させるものである。例えば白色点が,マット系の白色と上質系の白色がある場合,それはもともと数値として違う数値であるからそのまま処理される。
それに対して,相対的一致(Relative Colormetric)は,白色点を合わせながらほかの部分を合わせ込んでいくものである。
知覚的一致(Perceptual Colormetric)は,白色点を補正するだけではなく,すべてをまんべんなく圧縮する。
このように,いろいろな方法があるが,プルーフなどでカラーマッチングをするときは,「絶対」や「相対」を使用する。これは変換するそれぞれの色空間が近いときに有効である。よって,DDCPやインクジェットプリンタの場合には,最初の印刷とある程度近い大きさのガマットを持っているので,絶対的変換や相対的変換を使うのである。RGBからCMYKのようにかなり大きさの違うものを変換する場合には,知覚的変換を使うことが多い。
絵作りをしていく中で,出力部分の圧縮のイメージは,もとのRGBのデータを狭い所に押し込めていくわけであるから,ある点から再現できなくなる。機械的に処理すると,できあがった画像の中に何も調子のないベタッとした部分ができあがってしまう。これは仕上がり品質として良くないので,なだらかに調子を保ちながら階調を残していき,最終的な見た目の階調性をもとのデータに合わせていく。このような出力リミットを最大限に生かすマッピング技術が必要である。ただし,これは各ベンダが準備をするCMM(Color Matching Module)の性能や,プロファイルを作るときのツール,技術に依存する。色変換には,さまざまな問題があるが,sRGBかAdobe RGBの善し悪しではなく,ルール作りが重要だということである。
色空間スペースの広さには,いろいろあり,実際には構成する色域だけを目標のターゲットにマッピングする。sRGB,Adobe RGBの色空間といっても,実在するデジタルカメラで撮ったデータは,その全域にあるのではなく,ほとんど狭い部分にあることが多い。しかし,空間の形どうしをマッピングしてしまうので,一番広い所を圧縮する全体の圧縮がかかる。そうではなく,画像を構成する色域だけを,うまく目標のターゲットにマッピングするようなダイナミックな動きをするCMMが理想的であり,そのような画像解析ができる技術が必要と考えている。
■取り組むべき印刷の安定化
ある目的で作成したデータを,違う物に出力するというデジタルならではの再利用がある。これはある情報を伝達する選択肢が増えたということで,情報を伝達する産業である印刷業としては,それをどう捉え,どう対応していくかメーカーも含めて重要である。
デジタルフローでは,保存データがRGB化していくことは,時代背景や周りのデバイス背景として自然な流れである。ただしクリエイティブワーク,すなわち原稿からCMYKデータを作る段階で,現場のプロが処理していたクリエイティブワークの手法が変わることが問題である。
しかし,きれいな物を作るというやるべきことは変わらないのである。いろいろ複数に介入してくるものがあるので,その分新しい技術とコミュニケーションが必要である。
現在のPDFは,PDF/X-1aと呼ばれるものであるが,PDF/X3というPDFになり,RGBとCMYKの混在,オブジェクトごとのCMSなど,いろいろなことが可能になる流れがある。その中でも,コミュニケーションということが重要になる。
色品質の保持には,技術的な現在の課題ということで,その解決策を理解してもらうことと,それを加味したルール作りが必要である。それらについては,技術の進歩により各メーカーが,CMSやRGBに着目して取り組んでおり,そこに合ったツールはすぐに提供される方向にある。
最終的な成果物は印刷物であり,それを提供している印刷は,アナログ部分がある。印刷については,パラメータも多く,管理も困難ではあるが,この部分を安定させることが,今後ますます上流のフローが進化する中で,取り組まれていくべき基本である。
2004/04/10 00:00:00