顧客から要求され続けている短納期要求への対応を,従来の延長で行うのは限界にきた。抜本的な対策はCTPとデジタル校正によって最終品質が保障できる管理の確立を,顧客も巻き込んだ流れとして組み立てることである。カラーマネジメントシステム(CMS)はこのための強力な武器となり,企業の生き残りとして取り組んで成果を上げている印刷会社もある。CMSは現場任せにするものではなく,営業から顧客まで印刷制作ワークフローに関わるすべての関係者が十分に理解しておくべきものになってきた。
どこでも色が見えて確認できるが…
DTPが始まる前の時代には,カラー印刷物を作るためには製版用カラースキャナから直接,CMYK4版の色分解済みの網フィルムを出力していた。そのスキャナにカラーディスプレイはなく,電卓のような小さな表示部のレベル値や網点パーセントを頼りに,頭の中で仕上がり色を想像してスキャナを色調整していた。色を確認する最初のものは色校正刷りであった。つまり「色」の付いているものは写真原稿と校正刷りと本刷りのわずか3種類のみということになり,カラーマネジメントという言い方もない時代であった。
しかし,今ではデジタルカメラの液晶ディスプレイから始まってMacintoshなどのパソコンのディスプレイ,プリンタ,印刷用のデジタルプルーフ用出力機,本刷りという流れの中で,たくさんの異なる表示・出力装置があふれ,それぞれのところで「色を表示・出力」して制作作業や確認や校正が行われている。しかも撮影から印刷に至る工程にはたくさんの会社や人が関わっていて,製作工程は行ったり戻ったり横に広がったりしながら進んでいく。その結果,同じであるはずの現物・原稿の色を中間工程では皆が違う色で見てしまうことにもなる。
そこで異なる装置であっても,表示され出力される「色」が同じに見えるように維持調整管理する,カラーマネジメントシステム(CMS)に注目が集まっている。
マルチユース時代の色指定は数値管理
CMSを実現するにはルールの標準化と実際の仕掛けが必要で,ICCプロファイルは異機種間で「色に関する基本情報」を交換するために機器ベンダーが作った基準であり,色の表示の標準は国際機関のCIEが制定したXYZやLabを使用する。また,前工程のRGBにはベンダーやベンダーグループが作ったAdobeRGBやsRGBという基準が,印刷工程ではISOで制定されたJapanColor2001のCMYK標準がある。そして,これらを実現する測定器,処理ソフト,CMS実装の生産機器がそろってきた。
今まで色のコミュニケーションは「もう少しメリハリを付けて」とか,「健康的な肌色に」とか,「自然な緑に」というような冗長的な表現が多かった。しかし,マルチユース時代は数値でコミュニケーションを取る必要が出てくる。例えば工業製品の色は「リップスティック」でも「自動車」でもLab によって管理され始めた。
ということはカタログの印刷もLab管理すれば,「現物の色=カタログの色」が実現できる。そこで,印刷営業担当は「実際には家庭や電車内でカタログを見るのだから,現物の色よりΔEで0.5だけ彩度を上げる」というようなやり取りを,印刷発注担当者と行うことになる。
客先の協力も得てCMS導入で大きな効果
都心に制作拠点,郊外に印刷工場をもつ印刷会社で,CMS導入で効果を上げた事例を紹介する。
始めに納期短縮要請を実現するために,重点4項目として,〔1〕校正工程(回数)の削減,〔2〕顧客内の校正責任明確化と役割分担(色調,文字),〔3〕コンテ段階の精度向上,〔4〕品質の安定化を設定し,CMS導入プロジェクトを立ち上げた。
[実際のアプローチ]
1月:CMS導入プロジェクト立ち上げ
・事務局とリーダーの設置(クリエイト部内)
・各部署の役割分担の決定(デザイン,画像処理,製版,印刷,生産管理,営業)
・印刷機の仕立て,調整開始,基準印刷物の作成
2月:作業標準の検討と新ワークフローの策定開始
3月:新ワークフローの決定,日程短縮効果の測定
・DDCPを工場内に導入し色調調整,プロファイルの作成開始
・第1次プロファイル完成
・既存フィルムでテスト校正しマッチング確認
4月:客先の特定カタログを手刷り校正・DDCP校正併用作業(品質の確認)
5月:上記DDCPにて顧客へプレゼンテーションと了承取り
・品質確認を踏まえた再調整作業
・協力会社への協力依頼(印刷系,デザイン系)
6月:RGBtoCMYK変換サーバ立ち上げ
・実践開始
・DDCPの制作拠点への移設作業
7月:新体制で本格作業開始
8月〜:トライアンドエラーを繰り返し
[顧客へのアプローチ]
デジタル校正導入によるメリットとして,次の5点を列挙し訴えた。
〔1〕顧客要望である短日程に寄与
・制作工程の効率化(CMYK自動変換,DTPソフトの実データでの運用)による
・データ移動時間の排除(デザイン拠点⇔印刷拠点)
・瞬時の確認,修正作業による
〔2〕意図した色調が初校から再現可能
・モニタキャリブレーション,DDCPバラ校正(内校)での事前チェック実施による
〔3〕赤字修正内容は次回の校正に確実に反映
・手刷り校正の不安定さ排除による
〔4〕多くの部数を出校した場合でも色調がそろう
・手刷り校正の不安定さ排除による
〔5〕校了まで持ち込んだ色調は確実に製品に反映
・本機印刷とのカラーマッチングによる
[顧客の反応]
・コンテ段階で確認したままが校正に反映される
・指摘した赤字が次回の校正でほぼ反映される
・従来の校正刷りに比べ奇麗
このように良好な反応で,訂正赤字も大幅に減少するとともに,校正回数が半減した効果は大きい。
[CMSによるデジタルプルーフ導入の効果測定]
・校正工程生産性向上:200%
・製版外注費の削減:50%減
・クリエイティブ外注費の削減:30%減
・作業日程短縮:20〜25%減
・校正出力に関わる経費の増大:200%(旧工程補助材料費比)
[CMS導入成功への3つのポイント]
〔1〕顧客との強い信頼関係
〔2〕従来工程との決別(社内の強固な意志統一)
〔3〕印刷機の標準化・安定化
JAGAT通信教育CMSコース第1弾
2004年7月に開講したJAGAT通信教育「カラーマネージメントコース基礎編」では「新時代の色管理を学ぼう!」をテーマに,営業マンからデザイン制作,印刷など,部門を問わずに印刷のCMSを理解していただくための入門コースとして分かりやすい言葉と図版で解説をしています。色の理屈は苦手だ,という方にはお薦めします。
■受講期間:3カ月
■受講料金:JAGAT会員2万円 一般2万5000円
■教材:オリジナルテキスト(A4判75ページ),ワークスコーポレーション刊『図解カラーマネージメント実践ルールブック』
■問い合わせ:JAGAT通信教育担当TEL03-3384-3115
『JAGAT info7月号』より
2004/07/18 00:00:00