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インクジェットプリンタの用途別機能と傾向

 インクジェットプリンタは,インクの微細な粒子を,さまざまな機構により吹き付ける印刷方式であり,構造上の特長から応用範囲も広い。
 インクジェットプリンタの用途別機能や特長,動向についてリンテック株式会社の中村和喜氏にお話を伺った。

各分野で活躍する大型インクジェットプリンタ

 幅の広い大型のインクジェットプリンタは,ラージフォーマットプリンタ,ワイドフォーマットプリンタなどとも呼ばれ,24インチ(610o)幅以上の印字出力が可能なプリンタと定義されている。最近では,42インチ(1,067o),44インチ(1,117o),50インチ(1,270o)などと印字出力幅の広い製品が次々に出て,海外製品の中には最大で197インチ(5m)幅まで印字できるものがある。印字出力幅が72インチ(1,829o)幅以上の製品を,グランドフォーマットプリンタあるいはスーパーラージフォーマットプリンタと呼ぶこともある。

 インクジェットプリンタは,大型印刷原寸校正用(プルーフィング),印刷用版下フィルム作成,拡大コピープリント・ポスター作成,屋内装飾・ディスプレイ用途,壁紙などの屋内内装材料関連用途,屋外装飾・広告などの用途,駅構内の案内図や時刻表などの用途,布類大型印刷用途など,各種の分野で使用されている。
しかし,これらの用途すべてに一つのプリンタで対応することはできない。用途に適したプリンタと使用メディアを選択することが必要である。

水性染料/顔料インクジェットプリンタ

 水性染料インク又は水性顔料インクを使用するインクジェットプリンタであり,国内でも国外でも導入台数が最も多い。

・水性染料インクジェットプリンタ
 水性染料タイプは,鮮やかな発色で解像度が高く非常にきれいな印字出力を得ることができるという特徴を持っているが,短期間で色があせてしまい屋外用途には向かない。したがって,印刷校正用やポスター作成など主に屋内用に使用されている。

・水性顔料インクジェットプリンタ
 水性顔料タイプは,サイン・ディスプレイ業界において導入台数が圧倒的に多いインクジェットプリンタである。顔料インキを使用しているため屋外でも耐候性に優れており,最近ではバリアブルドット方式などの技術を用いて水性染料タイプに劣らない高解像度できれいな画像を印字出力できるようになった。

油性顔料インクジェットプリンタ

 油性顔料インクを使用したインクジェットプリンタであり,出荷台数はそれほど多くはない。水性染料/顔料インクジェットプリンタに対して,印字スピードが速く,耐候性にも優れている。解像度はやや劣るが,壁紙メディアに直接印字して使用したり,サイン・ディスプレイなどで使用されている。

水性熱硬化型アクリル系顔料インクジェットプリンタ

 水性インクを使用するインクジェットプリンタでは,インクを吸収するためのインクジェット受理層がないメディアにプリントすることは難しい。しかし,水性熱硬化型アクリル系顔料インクジェットプリンタは,水性インクを使用するにも関わらず,インクジェット受理層のない専用メディアに直接印字可能である。

ソフトソルベント型顔料インクジェットプリンタ

 ソルベントとは溶剤という意味である。ソフトソルベント型は,人体への影響や臭いが比較的少なく,有機溶剤には該当しない低溶剤の顔料インクを使用するインクジェットプリンタである。低溶剤を使用するために機器の配管内部が乾燥しやすく,詰まりやすいなど,これまでは技術的に製品化が難しかった。  しかし,この数年間に各社が次々に製品化し,解像度についても水性顔料タイプと同程度の解像度(1440dpi)の製品がでてきた。低溶剤の顔料インクを使用するため,水性顔料タイプではできなかったインクジェット受理層のないPVC(塩化ビニル,polyvinyl chloride)フィルムに直接印字できるとともに,耐候性にも優れている。したがって,屋外サイン・ディスプレイに使用されている。

溶剤型顔料インクジェットプリンタ

 有機溶剤系の顔料インクを使用するため,特別な排気装置や取扱い免許が必要である。前述の印字出力幅197インチ(5m)の製品を含めて,印字出力幅の広い大型の製品が多い。印字出力幅が広く,高耐候性という特徴から,欧米の高速道路脇の大型サインボード,町中の壁面広告など大型屋外サイン・ディスプレイに使用されている。

UV硬化型顔料インクジェットプリンタ

 UV硬化型インクを使用し,印字直後に印字ヘッドに取り付けられたUVランプを照射してインクを硬化させメディアに定着させるプリンタである。溶媒を使用しないため環境に優しく,ガラス,発泡ボード,板などに直接印字・定着することができる。よって,粘着剤がついたメディアに印字したものを貼っていた従来方式に対し,作業効率を大幅に向上させることができる。

ピエゾ方式とサーマル方式

 インクジェットプリンタのインク滴を吐出する方式には,大きく分けてピエゾ方式とサーマル方式がある。
ピエゾ方式は,電圧を加えることで変形するピエゾ素子(圧電素子)の特性を利用し,加える電圧を変化させることでピエゾ素子を振動させ,インクを押し出す方式である。加えた電圧に対してリニアに変形するピエゾ素子の特性を利用して,異なるサイズのインク滴を吐出するバリアブルドット方式と呼ばれるものも最近でてきた。ピエゾ素子の変形によってインクを押し出す方式のため,使用するインクの溶媒や成分はあまり問題にならない。

 サーマル方式は,インクに熱を加えて発生する泡でインクを押し出す方式で,キヤノンのバブルジェット方式も基本的な動作原理は同じである。インクに熱を加えて泡を発生させる方式のため,油性インクのように沸騰しにくい溶媒や溶媒に溶かす物質などに制限がでてくる。このようなことから,大型インクジェットプリンタではピエゾ方式が多く採用されている。

最近の傾向

 以前の大型サイン・ディスプレイは,少し近づくとインク滴で印字していることがわかったが,最近では写真をそのまま引き伸ばしたのではないかと思えるほど繊細な画像が印字されている。大型インクジェットプリンタの解像度も最高で1,440dpiになり,卓上型インクジェットプリンタの中には2,880dpiの製品もでてきた。
 また,一時期はコンピュータによる画像出力処理に時間がかかったが,現在はコンピュータの性能向上も加わって高速に処理できるようになった。更に,インクの色についても,一般的には4色でフルカラーを表現するが,現在は6色機が普及して,表現力が格段に進歩した。

 1997年頃のサイン・ディスプレイ業界では圧倒的に水性顔料系のインクジェットプリンタを導入していた。しかし,水性インク型は使用するメディアにインクジェット受理層が必要であり,インクジェット受理層のないPVCフィルムなどに直接印字することができない。そのため最近では,インクジェット受理層のないメディアにも直接印字できるソフトソルベント型顔料系インクジェットプリンタを導入する方向にシフトしてきている。
 水性顔料系に比べて溶剤型顔料系は装置も高価であり,導入のための設備や取扱い免許などの制約があるため,水性顔料系から溶剤型顔料系への移行は,それほど多くはない。最近は,その溶剤型顔料系からUV硬化型顔料系に移行しつつある。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2004/08/15 00:00:00


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