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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(20)―フォント千夜一夜物語(53)

超特太明朝体の「大蘭明朝体」に対抗するものとして、モリサワの「ミヤケアロー」(三宅康文)がある。業界の評価では、「大蘭明朝体」に比して一字一字のシャープさはあるが組版したとき、つまり文字を並べて組んだときにスマートさに欠ける、という批判があったようである(図1参照)。

モリサワは、「ゴナU」に対して「アローG」で対抗したが、その後1982年に「ツデイ」というゴシック体のシリーズを完成している。これは欧文のサンセリフ体で評価の高い「ヘルベチカ」の味を、和文文字に生かそうとしたデザインコンセプトをもち、当時としては非常に新鮮な書体として目に映ったものである。

これらに対して後発の写植メーカーのリョービ/リョービイマジクス(以下リョービという)でも、創作書体に対して情熱を注ぎ次第に力をもつようになってきた。まずウエイトの太い書体では、1980年発表の特太明朝体「マリMU」(小塚昌彦)、と1979年発表の超特太ゴシック体「ナウGU」(水井正/タイプバンク)がある(図2参照)。

また写研、モリサワ両社ともに所有していない、横線が太い特太明朝体「ナウMU」(水井正/タイプバンク)が1981年に発表されている。造形的に優れた斬新なタイプフェイスとして注目を浴び、1980年代以降にポスターを初めとして、雑誌広告・書籍・チラシの見出しなど、コマーシャルデザイン関係、編集出版関係などの世界に幅広く使われるようになった。

リョービでは、これらのナウシリーズの明朝系・ゴシック系のファミリー化に注力したが、写研では「ゴナ」をシリーズ化し、モリサワでは「ツデイ」をシリーズ化している。このように写植各社が競って創作書体の充実を図っている努力が実って、写植書体の全盛期を迎えたわけであるが、その多くの創作書体はディスプレイ書体である。

写研の「ゴナシリーズ」も、またモリサワの「ツデイシリーズ」も、それぞれ個性的で特徴があり、優れた造形的な感覚とデザインコンセプトをもち合せているが、特に後発のリョービが生み出した「ナウMシリーズ」は、従来の明朝体にない横太明朝体というユニークな感覚をもち印刷業界や広告業界、加えてタイプデザイナーに、新たな刺激を与えたほどである。ここで「ナウMシリーズ」について少し詳しく解説を行ってみよう。

●「ナウ」シリーズの生い立ち
ナウシリーズは、1979年発表の超特太ゴシック体の「ナウGU」が処女作である。タイプデザイナーの水井正が2年数ヶ月を費やし制作し、その後タイプバンクを通してリョービ印刷機販売(現リョービイマジクス)に提供され、リョービが文字盤化した。初期からフォントはリョービイマジクスが開発し、文字盤化・デジタル化はリョービが担当するという二人三脚の方法を採用している。

その後、特太明朝体の「ナウMU」が1984年に誕生し、それぞれ「ナウGファミリー」、「ナウMファミリー」として、ロングセラーとなった書体である(図3参照)。当時は、写研の超極太ゴシックの「ゴナU」が、グラフィックデザイナーの間に話題を呼んでいた。 ナウゴシックのデザインコンセプトは、シャープな直線と優雅な曲線を調和させたゴシック体である。

なかでも「ナウGU」は、力強い骨格とキレのよいエレメントで構成されている。一般に超特太ゴシックは、画数の多い文字はツブレやすいが、ナウGUはツブレの少ないヌケの良さをもち、均一濃度を維持している書体である。しかも視覚性・注目性に優れ、縦組み、横組みにも適した書体といえる。

図1

図2

図3

※参考資料:「アステ」リョービイマジクス発行、「文字に生きる」写研発行

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2004/09/11 00:00:00


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