印刷業界ではデータ入稿が増えているが,どうやって作ったかわからないCMYKやRGBのデータもある。見本がないときにどう評価すればいいかという問題も起きる。現場ではどのように考えているのかを,6月11日Techセミナー「色とデジタルの謎」の凸版印刷(株)三橋徹氏の話より紹介する。
色評価の目的
良否の判定には,イメージどおりの色になっているかと,目標物の色と合っているかという判断がある。
つまり,色を選択・決定する場合の評価と,目標物との色差の評価である。
第1のイメージする色との比較では,デザイナーは自分の決めた色と比較し,校正刷りの場合はクライアントの頭の中の色と比較して色を決めていく。こういう場合がイメージする色との比較ということになる。
第2の目標物の色との比較とは,目標としている色と成果物の色とが合っているかどうかである。現物を見ながらそれが印刷やモニタ上でどう再現されているかを比較する場合もあるし,校正刷りと本機刷りの比較もある。最近ではモニタ画面と印刷物との比較も行う。
色評価手法の種類
客観的な評価は測定器を用いて定量化する方法で,分光放射輝度計や色彩色差計,色濃度計などを使う。一方の主観的評価は,視感比色すなわち目で見て色を比較する作業なので,対象物や光の特性,評価者によって評価は変わる。客観的評価は測定条件が主な要素だが,主観的評価では観察条件も重要である。
標準観察条件
色の見えは観察者や対象物が置かれている環境や,照明,発光している光の特性などによって大きく変わる。そこで観察条件の標準化が必要となる。
色評価の規格にはいろいろあるが,それらの規格の標準観察条件では,評価対象物が細かく規定されている。また,明るさや照明と観察の方向なども決められているので,色のやりとりをする場合はこうした条件もきちんと整えなければならない。
色評価の現実
1.標準環境の適用状況
デザイン部門では,色の評価というより自分のやりやすい作業環境を重視しているようである。また,印刷現場では周囲の環境を整えることが難しいが,色見台を使えば問題をクリアできる。
2.メディア間での色再現
デジタル化が進むとモニタ上の色と,印刷物やプリントアウトの色を一致させたいという要望が出てくる。sRGBならある程度一致するというが,しかし現実にどうやって評価するのかが問題となる。
sRGBで観察環境を規定しているが,その設定値は実際に観察するには暗すぎる。さらに,モニタを見る距離にしても本当にsRGBだけできちんと規定されるかも疑問になる。
異なるメディア間の色を評価する標準環境はあまりないのだが,照明学会が数年前行った研究委員会の報告書がある。また,去年改訂されたISO 3664にもsRGBと似たようなモニタの評価環境条件が規定されている。しかし,これはやはり暗すぎてモニタを評価する環境ではあっても,メディア間の色を評価できるような環境ではないと思う。
3.色評価のばらつき
環境をきちんと規定しないと色が正しく評価できないという認識があるにもかかわらず,その規定自体にばらつきがあるのはなぜだろうか。
第1に,色評価環境についての認識レベルのばらつきがある。色評価環境が重要だと認識しているところでは,ある程度標準を頭に入れて対応しているが,評価環境にはあまり気を使わないところもある。特にデジタルデータにすればどこに持っていっても同じ数値だから色は変わらないだろうという認識があるからだろう。
第2に,メディア間での色評価の環境が未整備だということがある。つまり,現在の製版・印刷分野ではモニタを評価する環境が実用上未整備なのである。
第3に,標準観察環境と実際の観察環境が違う。製版・印刷側でいくら標準観察環境で観察しても,クライアントはそんな環境では見ていない。現実にはあり得ない環境を標準としてよいのかという話になってしまう。
色評価の理想
色評価の理想は,第1に,評価対象者が観察するであろう最終成果物の色を評価できることである。これが評価できれば何の問題も起こらない。
第2に,複製物の色とオリジナルの色の差を正しく評価できることである。主観評価より客観評価による数値管理がよいだろう。この場合の評価項目は,イメージどおりの色になっているかと,複製物の色にばらつきがないことである。
観察環境は最終的な観察環境をシミュレーションできればよいはずだし,評価対象者は評価対象を特定できるなら,その特性を使って計算することもできるはずだ。しかし観察環境を特定することは難しいので,平均的な環境を考慮した標準観察条件が必要となるだろう。
また,評価対象者を特定することも実際には難しい。結局は標準的な観察者を規定することになる。例えばCIEの標準観察者としては,30代前後の被験者で決めた分光特性を基準にしている。
また,複製物の色のばらつきについては,同じ色が同じに見える必要があるし,色の差の度合いが安定して評価できる必要がある。ある環境の下で見た色の差と他の環境で見た色の差が違って評価されるようでは問題である。ここでもやはり標準的な環境が必要だし,同じ色が同じに見えるためには高演色ランプが必要である。色の差を正しく評価するためには十分な照度が必要になる。
異なるメディアの比較
デジタルの世界では,異なるメディア間でも色の情報をやりとりできることが必要になる。
主観的な評価では,隣り合わせに置いた色が合っているかどうかを見ればそれはそれでよい。ただしそれぞれに適した環境が異なるのでやはり同時比較が難しい。
1つの解決策として,色の見えのモデルを利用する方法がある。モニタが環境の変化によってどのように色の見えが変化するかを計算して,その数値によって印刷物とのカラーマッチングを行うのである。この方法はCIEなどで研究調査が続けられているのでその結果を待つことも一つの手ではある。いずれにしろメディア間での色評価手法を確立しなければならない。
観察環境の標準化
観察環境は特殊であってはならず,コストなども含めて誰でも容易に評価環境を実現できなければならない。
現在,印刷学会の標準化委員会では,モニタを用いた評価環境を決めて推薦規格を出そうという動きがある。第1段階として,実際のモニタを使った作業環境がどういう照度でどういう環境になっているのかを調査しようとしている。
(テキスト&グラフィックス研究会)
1999/12/25 00:00:00