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タイ印刷産業の現状と変化(概要)

■ASIA FORUM
第7回マレーシアFAGAT(2004年)
タイ講演レポート

2004年11月20日

Mr. Tanit Wangthumboon/Assistant Manager of Kanoksilp (Thailand) Co., Ltd

●業界現状

2003年はタイ印刷業界にとって記念すべき年で、大きな機材展と国家プロジェクトが始まった。バンコクを中心に印刷企業数(製版等を含む)は約5000社従業員数は12万人。紙の消費量は200万トン(前年対比9%増)、その内約42万トンが輸入。最近はサービスビューロが伸びている、印刷製版へサービスを提供しているところもある。昨年度は5億ドル以上の投資があった。

印刷分野の4大区分出版印刷、一般印刷、パッケージング、新聞印刷
2003年総出荷額(輸出を含む)200億ドル(2兆2000億円)
印刷物輸出先ヨーロッパ、アメリカ、アジア諸国
近年の輸出金額(年率30%程度と急伸長)1.04億ドル(2000年)→1.21億ドル(2001年)→1.56億ドル(2002年)→2.20億ドル(2003年)
2003年印刷物輸入7500万ドル(12%)
これらの印刷物をタイ国内でこなせる状況になってきているが顧客の意向である。このなかにはタイに投資している企業もある。
全体の輸入コスト印刷用紙代が50%、労務費を合わせると80%を占める
製版印刷機械、材料の輸入額年率8−10%で増加
3.40億ドル(2000年)→3.61億ドル(2001年)→3.80億ドル(2002年)→4.15億ドル(2003年)
紙の状況輸出→中国に72万トン、香港、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、台湾
輸入→インドネシア、アメリカ、日本、スウェーデン、韓国(高品質の紙)
インク特殊なインクはヨーロッパ、日本、アメリカから輸入

●新しい動き

タイ印刷協会、タイパケージング協会、タイスクリーン&イメージング協会……など9つの印刷団体をタイ印刷工業会が束ね、各社各団体がバラバラに活動せず、いろいろな役割分担をしていこうという動きがある。これによって印刷工業地域といったものを立ち上げた。タイ国際空港から56kmほど離れたSinsakhon Printing City(144ヘクタール)がそれである。プリプレス、印刷、後加工、パッケ−ジング、フルフィルメント、サプライヤなど、印刷に関わる全ての機能を一箇所に集約してそれぞれの得意分野によって相乗効果を挙げようというもの。目的は各社の力をあわせることによって、マーケティング、技術、研究開発、そして仕事の確保により強い力を発揮するような新しい協調体制を確立することである。
ここに入る企業には法人税が8年間免除、またここで新規の会社を起した場合は5年間法人税が免除。輸入設備や生産材料への関税や付加価値税(消費税)が免除されるといった特典が与えられる。海外の企業にも工場設立が認められており、2006年までに構想が完了する予定である。ここには、郵便局、GS、コンビニ、出版社、印刷資材の集配所、印刷情報センター、図書館などがあり、印刷と関連ビジネス、行政とが一体になってワンストップで印刷のすべてを解決することができる。

●問題点について

タイの印刷の成長は経済とともに順調に伸びており、広告宣伝費については予想伸び率が8%、パケージや雑誌は12%という数字もある。 これからの印刷は最新鋭の技術を導入して初めて生き残ることがでくる。そのキーワードが,スピード、品質、コスト、信頼、ローカル性である。

新技術導入(2003年)
CTP:12ユニットインディゴ:8台ドキュテック6135:3台
ドキュテック6060:2台デジタルワークフローソフト:20セット以上CIP3対応設備:12台
中型サイズの6,7色オフセット印刷機:8台中型サイズの4/4オフセット印刷機:2台 ナローウエッブフレキソ印刷機:30台
ハイブリッドラベル印刷機:10台CIフレキソ印刷機:2台 フレキソ用CTP:3ユニットなど

政府も印刷業に対する政策に熱心であるが、印刷業界からタイ首相に対して「Development Strategies for the Printing Industry`s Competitivenss Potential」(印刷業の競争力強化のための開発戦略)という提言をした。これは、5年以内に印刷物輸出を7億5000万USドルまで増加させ、投資額は5億USドルまで増加し、年率3%で雇用を増加させるとしている。

このような計画の根拠としてタイの印刷産業は・・・・
@印刷コストの大きな部分を占める印刷用紙の国産化が出来るようになり、コスト面、技術、人材能力面での国際競争力があること
Aタイ経済の発展に伴う印刷需要拡大が望めること、海外からの投資が期待できること、である。 しかしなから、このような計画を実現するのは簡単ではなく、いろいろな問題がある。とくに業界の80%を占める小規模企業は技術面、経営面で遅れているうえ、最近のハード、ソフトの多様化で先に絵が見えず決断ができない状況である。

●プリプレス分野

プリプレス全体のワークフローがまだ確立をしていない。デジカメを含め、MacまたはPC、プリンタなどのカラースペースを巡る互換性など適切なものの見直しができていない。前段階での品質が向上すれば校正等の工数も低減できる。現在はプリプレスのオペレータの間でPDFを使ったワークフローに関心が高まっている。フォントについてはタイの電子出版クラブとアドビ社の間で10種類のフォントが開発された。

●印刷

  CTPと同時に高速度の印刷機を導入しようとしているが、それを使いこなす印刷オペレータが不足しているため、顧客の満足する品質のものが提供でききない。また、プリプレスとプレスが技術的に上手く繋がっていないのも現状である。
タイの一般的な印刷会社での標準化が遅れている。色の標準化のためのISO12647などの導入もまちまちで、後数年は掛かるであろう。海外からの注文はISOに準拠が条件であるので今後は不可欠である。
近年、海外企業が印刷工場を建設し、それらの企業との競合が激しくなっている。資本力のある中堅、大手企業は新技術の導入で品質、価格面でも対応できるが小規模企業には課題が多い。ひとつの解決策は合併で適正規模を維持することが必要。中小でもデジタル化に対応し生き残ることは可能である。従来の印刷分野では、それぞれのニッチマーケットを開発しなければならない。カスタム化された印刷である。タイのスクリーン印刷業界は18の分野(テキスタイル、表示板、クレジットカード…等)のニッチマーケットとして評価されている。
パッケージ印刷分野では、頻繁な製品仕様の変更への対応と小ロット化、あるいはインターネットショッピングにあったパッケージといった時代に合った製品への対応等が求められている。 パッケージ印刷ではより短い納期に小ロット対応するためデジタル印刷に注目している。デジタル印刷を使ったパッケージやラベル年率5%程度で伸びるを見られている。
デジタル印刷は、フォーム印刷、ラベル印刷や大型インキジェットプリンタによるポスターの分野で新たな市場を伸ばしている。現在、印刷による配布だけではなく電子配信とよばれる方法が増えており、それにともなってデジタルコンテンツの分野が年率10%で成長しているといわれている。

●新しいチャレンジ

・ PDFやJDFによるジョブチケットをインターネットを介して一層の生産性向上ができな  いか
・CIP3、CIP4の実現
・ISO12647による標準化の導入
・校正、カラーモニター、インキジェットプリンター等の標準化
・さまざまな機能をインラインで繋げたハイブリッド印刷などの新たな技術の導入による  生産の最適化

2004/10/19 00:00:00