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印刷とプリントの境界

昔プリントショップが街中に出来だして話題になりだした頃、プリントのことを布地と考える人がいたり、学校で配るような問題だと考える人がいて、日本では「プリント=印刷」ではないのかと思わされた。JAGATの月刊プリンターズサークル誌は、印刷人向けの通信教育の副読本として出発したので、「印刷人=プリンター」という定義をしていた。これはアメリカ流の言葉の使い方で、印刷会社、印刷人がプリンターあった。

そのころはまだコンピュータのプリンタは身近になかったのでそれでよかったが、パソコンが登場して、オフィスの中にもプリンターなるものが普及し、一般にプリンターといえばそれを指すものと思われるようである。パソコンで出力をする際のメニューでは「印刷」を指示すれば「プリント」するように、あれっ? やはりプリント=印刷がフツーの解釈なのね! と、分かったような分からないような、まっいいか!的状態に陥ってしまう。

プリントとは非常に広義に使われている語で、木版もプリントであるし、捺染(上記の布地)もそうだ。プリントという言葉でくくると、パソコンから友禅までがひとつのグループになってしまう。逆に印刷という言葉は明治以降に出現したもので、印刷機による生産を指していた(日本発の単語?)である。つまり狭義の印刷業界の印刷を指していた。

長らくの間、印刷は他の技術との交流はあまりなく独自の世界であったので、印刷の言葉が一般に使われることは少なかったのであろう。しかしデジタル化で事態は一変し、印刷業界の中も外も同じような方法で印刷物の制作をするようになり、異なっているのはまさに印刷機かプリンターか、というだけになってしまったのだ。オフセット印刷機などはその運用に特別のスキルが必要なので、素人が手を出しにくいわけだが、プリンターが次第に印刷機に近づいてくると、結果的に印刷のプロかアマかの差は分かりにくくなってしまう。

また印刷業の側の仕事の比重も、印刷の生産能力の方に重点を置く経営と、印刷物制作の方に重点を置く経営とに分かれてきている。全社は印刷工場設備に投資が必要で、それもFA/CIM化に進んでいるので、次第に生き残る業者は少なくなっていく。しかし後者は次第にコンピュータ設備が中心になり、従来の印刷業だけではなく、印刷関連サービスをしていたところからいろいろな参入もある流動的な分野となった。

プリンターで「印刷」するビジネスというのは、請求書・明細書などバリアブルな世界では昔からあったが、それがプリンタの多様化とともにPOPや教材などいろんな分野に広がりつつある。これらの仕事はプリンタの特性に合わせて企画することと、そこに向けたデータ処理の2面のソフト能力を持たなければならない。だから印刷関連サービスをしてきたところがノウハウを発揮できる分野であるわけだし、また印刷物企画が得意な印刷業にとっても、あらたに工夫のし甲斐のある分野になっている。

しかもプリンタの世界の移り変わりは激しく、前述のように小型印刷機に迫るところまで、あるいは特殊印刷の分野まで、実用になる機械が出始めている。ちょうど学校で第1外国語、第2外国語を習うように、印刷を母国語とするならば、小型印刷機並みのプリンタが第1外国語、特殊プリンタが第2外国語のような関係になるのではないだろうか。そういう知識や能力を持つことが、これからのグラフィックアーツ・ビジネス機会発見の鍵になるのだろう。

関連情報:11月5日(金)バリアブルDM製作・加工のポイント

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2004/11/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会