DTPからドキュメントのソリューション提供へ
デジタル化とは,単にプリプレスのDTP化にとどまらず,データベースまで取り組んで初めて意味があるともいわれている。コンピュータとのつながりもまた当然のごとく密接になってきている。デジタルを介したいわゆる情報提供型のビジネスが注目されている。
そこで,SGMLを使った電子文書管理から印刷物,CD-ROM,インターネット配信等に取り組んでいる(株)マックスの代表取締役柳瀬茂氏とデジタル事業部の永原誠子氏に同社の姿勢を伺った。
DTPは道具にすぎない
東京都府中市にあるマックスは,1946年に立川で創業された印刷会社で,3代目になる柳瀬氏が社長に就任してからは,広告代理店・大手学習塾関連と仕事の幅が増えてきた。
1987年にプリプレス部門におけるデジタル化に着手した。完全デジタル化を完成させたのは,95年のことで,同時に菊半裁オフセット4色機の導入をした。97年に現所在地の府中市に移転し,商号を現社名に変更した。企画・制作からDTP,マルチメディア,印刷全般に製本加工,そしてデリバリまでを主要業務としている。
DTPに関しては,このところMac(Macintosh)よりもWindowsによるDTPが増えてきているという。しかし,DTPはしょせん道具にすぎない。Macだ,Windowsだ,というよりもデータベースを構築していかなければ印刷業界全体の未来は暗いと語る。同社では,未来に有効な可能性を秘めた文書管理システムとしてのSGMLに注目し,顧客に提案をするようになった。そこでさらに一歩踏み込んで,98年にデジタル事業部の設立となったのである。
SGML/XMLによるドキュメント管理の提案
SGMLに取り組んだきっかけは,「マルチメディアって何だろう」という素朴な疑問から始まっている。もちろんその背景には,印刷の受注が減りそうだという危機感が潜在的にあった。「今まで印刷会社は印刷機を回すことに頭を使っていたが,オンデマンド印刷機の出現等環境が変化しているので,発想の転換を図らなければならない」との考えからSGMLの勉強を始めてみて,例えば,金融・保険会社等の内部文書なら面白そうだと思った。そして「SGMLによる文書管理なら何年経っても陳腐化することなく,ローコストでタフな使い方ができる」とにらんだわけである。
印刷会社は文字情報を扱っているため文書管理は得意なはずである。デジタル化への流れもスムーズに行われ,本格的にSGMLに取り組み始めた。パートナーとして,(株)ミックとの共同プロジェクト展開をしている。これは,同社がミックの日本語組版システム「iPRO-8000」ユーザであることから話が進んでいった。ミックのもつシステム管理やプログラミングのノウハウとマックスの制作印刷技術を融合させることにより,顧客にSGML/XMLによるドキュメント管理の提案が可能になる。ソフト開発はミックで,制作がらみはマックスという位置づけで,それぞれの得意分野を生かした営業活動を行っている。
営業のスタイルも従来のやり方では通用せず,文書管理の必要不可欠さを顧客に訴え,提案していく。そのためにSGMLシステムをドキュメント構築のワークフローにする必要がある。
「印刷物から見たSGML」の視点で構築
「印刷物から見たSGML」という視点から,印刷の品質レベルを落とすことなく文書管理を行うことを前提としたシステムを構築し,入口から出口までの一貫した情報管理が売り物である。
SGMLの基本ツールとしては,FrameMaker +SGMLを使用している。選んだ理由は,独自のデータ形式にとどまらず,PSやPDFを選択できること,DTPの感覚でスタイル設計ができ,顧客サイドにもワープロ操作程度の作業負担しかかからないことなどが挙げられる。
DTDの設計・運用から新規文書の入力および大量の改訂文書をSGML化し,FrameMaker+SGMLで管理する。実績として,既に数万ページ規模の文書をデジタル化している。顧客の業務形態ごとに応じた専用エディタの開発やトレーニング,メンテナンスを実施している。
出力に関しては,横組みを中心とした一般組版レベルでは,FrameMaker+SGMLのEDDによる属性・書式指定に基づいた情報で指定版下を作り印刷を行う。また縦組み組版等の特殊な処理を含む場合は,FrameMaker+SGMLからプロ用日本語組版ソフト「iPRO-8000」へデータ交換して組版をした後,CTPやイメージセッタ出力して印刷物制作を行う。こちらは特に高品位のものや大ロットのものが対象である。
もう一つの出口であるCD-ROM,Webによるリアルタイムでの情報発信サービスも好評で,「ワンソースマルチユース」の発想を核とした新たな文書管理の道が開けてくる。またPDF・電子帳票などドキュメント管理以外の電子管理についてもコンサルティングを行っているという。同社としては,「SGMLをはじめデジタル化について困ったときの相談相手になれれば」と思っている。
デジタル文書管理事業を推進
「正直なところ世の中の動きに圧倒されている」と柳瀬氏は語る。ハード系技術の進歩の速さを指しての言葉だ。デジタルデータは,使う側の「文化」とか「モラル」が確立されないうちは制作側の存在意義はないという。データの信頼性を得て,顧客から資本を投入できると判断してもらう必要がある。同社では,学参物を扱っていたことから文書管理には慎重であった。印刷物の品質についてもうるさくいわれており,それがベースになって,積み重ねが生かされている。また大手の情報系の企業にはない文字情報管理に対しての強みがあり,高品質のものが作れる。経験を積んで,顧客からの信頼を勝ち得ていくことを目指している。
デジタル文書管理の事業が世の中に受け入れられるには,市場が成熟していかなければならないだろう。そういった意味においては,現在はまだ,SGMLの黎明期であり,競合他社が増えることは,仕事上の危機ではなく活性化のためにも,事業を市場に知らしめるためにも,いいことだという。これからデジタル化を考えている一般企業に対しては,コンサルティングも考えているし,ビジネスパートナーとしてみてもらいたいと願っている。また同業他社からのデジタル化の相談も受け付けたいという。
今後も従来どおりの印刷分野は残しておく予定である。ただし,資本配分でいくと今までどおりにはいかず,データベース業務がキーワードになっていくだろう。オンデマンド印刷工程の導入もあり得る。時代の流れや環境動向の変化に柔軟に対応する姿勢が大切である。
また人材面については,同社の場合,新しい事業を立ち上げたからといって外部スキルに頼ることをせずに,内部で人を育てる方法を採った。だからコンピュータに詳しい人を中途採用するといったことはしなかった。それよりも個人個人の得意分野を伸ばしていくことで,結果的にうまくいっている。
現在は一般企業のなかでも,各種製造業,生命保険・損保・金融機関,医療書籍出版会社向けのSGMLソリューションが中心となっているが,今後は,企業内文書の一元管理にも着手したいと考えている。ドキュメントに関するソリューションビジネスの提供を掲げた同社の新事業に期待したい。 (上野寿)
『JAGAT info』2000年1月号より
1999/12/28 00:00:00