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分光光度計による濃度と色差の数値管理

製版の仕事では初校責了をねらうために,校正刷りは見栄えがよくなければいけない。しかし,印刷機の段階で色調調整をするという考え方では調整しきれないところも出てきてしまう。だから,製版においての品質作成がどうしても必要になる。そのためのベースとなる色の数値管理について,8月27日のTechセミナー「カラーマネジメントワークフローの構築」における(株)きもと 中込浩之氏の話から紹介する。

品質設計,品質管理,品質保証
品質設計とは,スキャナ分解〜製版〜校正刷りまでの間に,顧客に対して商品として見せるための品質を作り上げるための設計である。それは,クライアントの趣向を含んだ商品設計になる。

品質管理は,校正刷りと本機印刷で使用されたフィルムに対して,ロット間,ロット内での品質維持のためにベタ濃度ドットゲイン・トラッピングの数字を用いて,工程をコントロールすることである。

しかし現場では,実際に作った印刷物で,校正刷りと本機間の品質保証やロット内での品質保証をどうするかという問題がある。
それを解決するために,CIEL*a*b*(以下CIELAB)を使った品質保証で数値の運用をしたらどうなるのであろうか。
濃度数値の利用は,基本的には品質管理の部分で,工程コントロールのための数値として使い,本機刷りと校正刷りとのコンディションの比較になる。つまり,使用材料や機械コンディションを決定するときの参考値として,濃度計から出てくる数字を使用でき,校正刷りと本機印刷の印刷時の調整確認時において,実際に刷るときのインキの出し方と盛り方を,濃度計から出てくる実際の濃度の数値,網点再現を使って確認ができる。

品質保証は,色彩数値の利用,校正刷りと本機印刷機との色差の証明数値である。校正刷りと本機で印刷された印刷物が,どのくらい色調として同じなのか,あるいはどのくらいの振れ幅に入っているのかを証明することは,濃度の数字,ドットゲインの数字ではなく,色彩の管理数値を運用する。
本機印刷物のロット内の色差の証明数値は印刷した中でどのくらいのばらつきがあるかである。現状でも何百枚に1枚の割合で抜き取りをして確認している。それらから測定数値を取ることにより,1つのロットの中でどれだけの色のばらつきの中に入っているのかを証明することができる。そのときの数値には,色彩数値を利用する。

CIELABとは何か
色彩数値には,CIELABという数字を使う。それは,人間の視覚的な色の差と,あるレベル相関をもたせてある色空間の数字である。
CIELABはプラスマイナスのa軸,b軸,それに対して三次元で上の方向にL軸がでる。その中にプロットした2つの色の間の差が,人間の目で見た色の差に比較的近い色空間になる。しかし,a軸,b軸,プラス,マイナスといういい方をすると,例えば数値が出てきたとき,パッと頭の中でそれがどういう色なのか,なかなかわかりにくい。

これに対して同じCIELAB空間の中で,もう1つの色の評価の呼び方がある。センターから外側にサイドクロマのCを出し,+aと−bとを結んで色相(hue)のhを出して,Cとhで同じCIELABの空間の数字を表すことにより,Cの数字が大きいほど鮮やかな色,小さければセンターの基本的にはグレーに近い,鮮やかさがない色になる。また,H(ヒュー角)を角度として表すと,+a軸の位置を0度として,+b軸を90度,−aを180度,−bを270度とすると,その空間が頭の中に入っていれば,大体どんな色相なのかhの数字でわかる。あとはCの数字が大きいか少ないかで,その色の鮮やかさを評価できる。Lの数字に関しては,小さくなれば暗く100に向かって大きくなれば明るいほうである。

実際に2つの色の差を見るには,ΔEを使って見る。ΔEは,単に2つの色の間の距離の計算をしているだけである。CIELABという1つの表色系の中の2つの点を結び,その2点の間の色の距離の計算をして,その距離が長いとか短いという評価が,ΔEで大きいとか小さいという評価になる。

色差量の評価
色差量を評価する場合,1以下は基本的に人間の視覚的にほとんど差が検出できないといわれている。色相によってそうではないものもあるし,CIELABの色空間自体がパーフェクトではないので,人間の視覚と必ずしも一致するわけではないが,今それ以上の色空間を評価できるものが運用上広まっていないので,ICCプロファイルもこのCIELABの空間を使った色変換をしているし,色の差の評価も,このCIELABがメインになる。

濃度と色差の数値管理が必要
なぜ基本的に工程管理が濃度の数字で,品質保証がいわゆる色彩数値になるのか。例えば,墨とイエローでは,濃度計の濃度数値をもって品質の保証をしようと考えたとき,同じ0.05の管理幅に入っていても人間の視角的な感覚を考慮したCIELABという表色系のΔEという評価をしたときは,その数字が同じにならない。

つまり,工程をコントロールすることは濃度計でいいが,印刷機はプロセスでいえばCMYの濃度のインキの出し量を調整して操作しているわけだから,濃度の数字,ドットゲインの数字管理を使いコントロールしたほうが,実際に機長が壺を開閉するときには運用しやすい。ただ,クライアントに何かの形で品質保証したいと考えたときには濃度数字では問題を抱えているということである。

また,分光光度計を使用すると,濃度数値,色彩数値を両方使用できるという利点がある。しかも,CIELABの数字も測れ,品質管理の濃度数値と,品質保証の色彩数値の両方が使用できる。

濃度数値に関しては,ピーク波長での濃度管理が可能になる。これは濃度計では精度が出ない特色の濃度管理が可能になる。

今までの印刷業界は,濃度計の運用に関しては普及している部分もあるが,これからは顧客に対する品質保証やピーク濃度での管理に,分光光度計を運用してうまく品質設計をする時代である。分光光度計は高価な機械だったが,価格的には安くなってきているので,運用面でも対応しやすくなってきている。

トータルな管理のために数値の互換性が必要
良い製品を作成するための工程設計が,品質設計である。次に品質管理は,品質設計に基づいた管理数値の決定と工程管理である。品質保証は品質管理に基づいて製造された商品の品質保証になる。

これらをトータルで数値管理するときは,やはり濃度計だけでは難しい。デザインの段階で色指定に使われるようなパッチなどを数値で管理していくとき,濃度計で測った数字というわけにはいかないからである。ただ,色のパッチを測った数字が最後の印刷機のデリバリから出てくる色と,ΔEでいくつという管理をする時代がそこまできているのではないか。

そのときに大事なのは,数字の互換性である。どの部署で,どういうかたちで測定器を使うかにより,CIELABの数値が一致しない可能性があるので,最終的にデザイン部門からいわゆる印刷機のデリバリまでを数値で管理する場合,使う測定器で何を測ってどのように管理するのかをよく考慮して,数字の設計をすることが必要だと思う。
(テキスト&グラフィックス研究会)

2000/01/04 00:00:00


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