デジタル化を終えた印刷業界の次のインフラはデジタルネットワークとなる。デジタルネットワークを基盤として、様々なITを活用した新たな仕組みによって情報流通におけるボトルネックを解消し、MIS(Management Information System)を中心とした情報の有効活用を可能にすることによって、従来にないコストダウン、機会損失削減、顧客満足向上、ひいては利益向上を図ろうというビジョンが、いま印刷業界で言われている全体最適化である。JDFワークフロー、MIS及びCIM(Computer Integrated Manufacturing)は、EC/EDIとともにその新しい仕組みを構成する要素であるが、JAGATが使用するそこでの言葉や用語を説明し、JAGATの研修や書籍において誤解の無いよう円滑にコミュニケートするために、MIS関連用語として以下の用語を新たに追加することにした。
BPR・・・Business Process Re-engineering。企業目的を達成するために、業務内容や業務の流れ、組織構造を分析・評価し、最適化すること。例えば、ITツールを活用し、本来営業が行っていた業務を顧客と設計部門が直接デジタルネットワークで連携し、企画設計部分のスピードを格段に向上する、などがある。
CIM・・・Computer Integrated Manufacturing。日本語では統合生産管理システム。これも元々は、企業の製造部門と販売部門をネットワークで接続し、データを共有して企業活動の効率化を実現するシステムのことだった。ここではより広義に捉え、生産の効率化を目的に、製造・技術・管理などの各種情報をコンピュータシステムによって統合管理すること、と考えている。JAGATモデルでは、第1階層と第2階層の一部、顧客、資材調達先や協力会社も含めて考えている。
EC・・・Electronic Commerce。Eコマース。インターネットなどのネットワークを利用して、契約や決済などを包括的に表現する。BtoB、BtoC、CtoCなど、取引対象によって分かれる。
EDI・・・Electronic Data Interchange。外部組織との間で必要な情報の双方向の流通を、人が介在することなくコンピュータ to コンピュータで自動的に行なう仕組みである。情報を標準的な書式に統一して、企業間で電子的に交換する。データ形式やネットワークの接続形態は、一般的に業界ごとに違うため、EDIで他の業界の企業との取り引きをするのは難しかったが、インターネットの普及に伴い、WebブラウザやXMLなどインターネット標準の技術を取り入れたり、業界を超えた標準化、オープン化が進行している。
ERP・・・Enterprise Resource Planning。MRP(Material Requirements Planning)から派生した言葉。日本語では基幹業務システム。名前のとおり、計画系の部分を主として扱うが、必ずしもそれだけではなく、販売管理、在庫管理、生産管理、財務会計管理、人事労務管理、等を統合的に一つのデータベースで連携させている。パッケージ・ソフトの販売が盛んで、印刷業界にも幾つかの製品が出ている。各パッケージとも標準的な業務モデルに基づきアプリケーションを組んでおり、その業務モデルや流れを参考にBPR推進に活用することもある。
JDF/Job Ticket・・・Job Definition Format。JDFはMISや工程管理などのマネジメントシステムと、生産機器の情報伝達を双方向で行うための業界標準フォーマットであって、現時点で印刷業界においては、生産工程の省人処理・自動処理など工場のFA化・CIM化を実現するために使い得る可能性が高いフォーマットである。 CIMを実現するためには、まず、経営管理のコンピュータ、そしてDTP作業などで使われる生産設備のコンピュータのデータフォーマットを同じものにしなければならない。その標準のデータフォーマットがJDFである。さらに、もう一つの仕掛けが必要である。それは、ばらばらに発生する各種の情報を、ひとつの仕事の単位毎にまとめるためのものだが、それがジョブチケット(Job ticket)である。ジョブチケットは、営業マンが受注・販売管理のコンピュータに得意先名、品名、部数、ページ数、納期といった受注情報、製品仕様情報を入力すればひとつの仕事単位で作られる。以降は、工程管理のコンピュータが発生した日程計画情報、作業指示情報、あるいはプリプレス工程で使われた生産設備で発生した印刷機、後加工機の調整に使われるデータ等が次々にJDFで書き加えられて、必要なタイミングで必要なコンピュータにそのデータを自動的に届ける役割を果たすものである。
JMF・・・Job Message Format。JMFは印刷機械やデバイス(RIP等)などへの送信記録やJDF指示内容(Rip、Trap、面付け、等)が正しく行われたかなどの状態を監視する目的で定められた。その情報を次のデバイスやコントローラに引き渡す役割も果たしている。また印刷機械などからの実績情報(開始・終了・停止、実稼働率など)のフィードバックに活用し、JDFとの相互運用性が期待される。
MIS・・・Management Information System。日本語では経営管理情報システム。1960年代に流行したMISは、経営判断に必要な情報を提供する目的であったが、ここで使用しているMISの意味は、さらに広義の意味で、経営活動上の情報を総合的に管理するシステムと言う意味で、ERPに近い意味である。適用範囲は、JAGATモデルの第3階層と、第2階層の一部を含む。
MRP・・・Material Requirements Planning。製品の部品展開から、必要部品の正味所要量を算出し、発注部品数量を算出する方法。具体的には、基準生産計画、部品表(部品展開した表)、調達リードタイムなどから、資材・部品の需要に対する正味所要量と発注時期を事前に算出する。IT技術の進展によって組立加工型製造業を中心に利用が広まった。ERPではこれを全社レベルに拡張した概念となっている。
基準日程・・・工程の所要時間のことで、(1)直接作業時間(準備時間と主体作業時間)と、(2)停滞時間、からなる。工程を開始し、完了した後、次の工程に入るまでの時間。
手順計画・・・最短時間で最も経済的に製品を作るための、工程・機械・材料を選択し、工程手順の決定を行うことを手順計画という。顧客から提示される、価格・品質・納期の制約条件が考慮される。従って、原価低減には重要な計画となる。印刷業の場合には、後述の工程計画・日程計画と並行的に計画が進められる場合が多い。これまでは、ベテランの工程管理担当者がその経験や勘に基づいて判断し、手順を決定してきた。しかし、標準化を進め、各種基礎資料を整備し、コンピュータによる計画立案を可能とすることで、脱技能化を進めていくべきである。
日程計画・・・「受注が確定し、仕様がほぼ明確になった仕事」についての、各工程毎の仕事の着手・完了時点、及び手配手順を決定すること。印刷業の場合、一般の中日程計画に相当し、小日程計画はこの日程計画の細部計画に当る。主に、(1)基準日程(本書を参照)の決定、(2)工程負荷の山積みと負荷調整、(3)作業予定、を決める。
標準工程手順・・・社内の「標準仕様」に合格するために、工程・材料・検査の手法やレベルと、責任者などを決めておくこと。仕事の流れ、工程間の連携状態を決め、生産部門の管理者が利活用し、適宜改善していくものである。(そこにJDFを介したMISが重要になる)
標準仕様・・・自社の市場や受注を調査した上で、特注品以外の製品(つまり、ある程度繰り返しが発生する製品)を、制作するための一定の品質・スピード・コスト、いわゆるQCDを決めた仕様。従って、同じ業種の企業でも、企業毎に仕様の内容は異なる。(業界標準ではない)
標準工数・・・ある製品を、「標準的な能力の作業者」が、「標準的なスピード」で、単位当たり作るのに要する直接作業時間のこと。通常、○○人時、○○人分、で表わされる。従って、ある仕事(まとまった量の製品χ個)を処理する「標準時間」は、この「標準工数×χ」で表わされる。
ボトルネック・・・ここではTOC(制約理論)の用語から派生して使用。例えば、生産ラインで全体のスループットを決めてしまう工程を「ボトルネック工程」と言う。つまりボトルネック工程の生産効率が全体のスループットを規定する。従って、全体最適を目指す場合、優先的に対策を講じていくべき部分になる。ここでのボトルネックは、社外も含めたサプライチェーン全体の生産効率を考慮している点に留意が必要である。
2005/03/30 00:00:00