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生産効率アップと高付加価値化へ進化する平版印刷機の最新動向

■オフ輪の技術革新
 オフ輪をとりまく社会環境として、景気の低迷から趣向の多様化・人材不足等があり、市場の環境としては、多品種小ロット・短納期・低価格等があり、これに対して準備時間の短縮・損紙の低減・稼働率の向上が印刷会社から求められるニーズである。
 オフ輪の仕事は1万部を割る仕事も多くなっていることから、色合わせ・折り合わせ作業を学習機能搭載した損紙低減システムにより、簡単に扱えるオフ輪が開発されている。 従来は印刷の絵柄によりインキの調整をそのつどセッティングしていたが、調整した面積率のデータを保存することにより新たなセッティングをする必要が無く切り替え時間の短縮がはかられている。
 また、機上のローラの調整やインキ膜圧が自動的に均一に保たれるようになった。版替えも全自動版替え装置の機械が市場の主流になりつつある。ブランケット洗浄装置の性能も向上しいち早く次の仕事の段取り替えができる。 折り部についても、折の種類はチラシ・パンフレット・製本等によりさまざまなパターンがある。従来はそれを仕事ごとに調整していたが、新しい機械では折り仕様を記憶することにより自動的に設定できる機能が搭載されている。そして作業を繰り返すことにより折り仕様のデータが蓄積され、プリセットの精度向上がはかられ、準備時間を短縮することができるようになった。
 刷り出しおよび刷了の自動運転システムにより、機械が自動的に回転スピードまで立ち上がりながら動作をしていくこともできるようにもなった。 これらにより切り替え時間に約30分かかっていた作業が10分程度あれば完了し、効率的な業務運営が可能になる。

■倍胴機から単胴機へ
 稼働率の向上では、最近の設備の傾向としてコストパフォーマンスの高い単胴機に人気が集中している。オフ輪は単胴機と倍胴機という大きな棲み分けがあり、7万部以上ある仕事は倍胴機でそれ以下は単胴機のほうが利益がでるといわれてきた。しかし、単胴機の高速化が進み、ここ数年では倍胴機に比べると単胴機の市場設置台数が多くなっている。単胴機の高速化に伴って倍胴機の6〜7万部くらいの仕事でも、単胴機にかけられるようになった。したがって、倍胴機は高速大ロット専用という棲み分けになる。

■高付加価値化
 オフ輪工場からは付加価値を付けながら差別化をはかるという要求が高くなっている。実際に付加価値を付けるための仕様はさまざまである。
まずハガキ貼りミシン加工をインラインでできることにより作業効率がアップした。また、輪転機で折り機がなくてシータだけを繋いで仕事をしている印刷会社もある。輪転機の印刷品質も上がっていることから枚葉機と同等の仕事ができるようにもなった。
 特殊折り装置により折りのバリエーションを増やすこともできる。さらに、インラインフィニッシング装置により、糊づけ装置・スリッタ装置・仕上げ断裁までの装置を連結して輪転機で印刷した紙を加工することにより、様々な加工のバリエーションが増やせる。

■進む品質管理システム
 オフ輪はシステム構成上の特性から付帯装置が多く管理項目が多くなるため、いかに省力化しながら熟練した作業に頼らずに集中操作して品質保証を行うかが求められている。
 最近の傾向としては機上にカメラを設置してカメラでカラーバーを監視して濃度やグレーバランスを測定し、設定したターゲットに高い精度でフィードバックを制御するカラーコントロール装置が開発されてきている。

■個別駆動方式のメリット
 商業オフ輪に採用され始めてから注目を集めている個別駆動方式も先端技術の一つだ。このメリットとしては、輪転機には折り機や他の装置も装備できるが、単独のモータを繋ぐとさまざまな特殊配置が容易になったり、切り替え中の張力などが管理しやすくなり刷り出し時に速い張力制御が可能になる。
 また折機内の残紙自動排紙処理ができることにより、仕事が終わった段階で折り機のモータを単独で回して折り機から無駄なものを事前に排出することができる。機械調整のための個別の位置出しが平行ででき作業の時間短縮に繋がる。 また個別駆動による制御系・機械系の自己診断も可能で事前に具合の悪い状態を把握することができる。

■AB判兼用バリアブルオフ輪
 オフ輪の市場はB列は縦半裁、A列は横全版の機械が主流だ。どちらも印刷物の天地はローラの径によって決まる。オフ輪は連続して印刷するためサイズを小さくすると余白ができ、どうしても天地方向のサイズに制限がある。
 また、A列とB列の印刷は繁閑の時期が異なるため、これを埋めることにより、年間の稼働率を上げるためにはどうしたらいいかという課題もあった。 こうした問題を解決する機械として、A列B列の版とブランケットをスリーブで交換できるAB判兼用のオフ輪が開発された。
 これは版胴とブランケット胴の軸にアルミのスリーブで缶状のものを入れ、その上に版とブランケットを装着する。そして、版やブランケットを巻くアルミスリーブの厚みを変えることにより半径が変わり円周の長さも変わることになり天地方向の長さを変えて印刷できる。
 したがってスリーブをはめるだけで、今までできなかったサイズの違うものを1台の印刷機でできることになる。また白紙損を減らすことができ用紙コストの削減も可能となる。こうした開発を可能にしたのは、個別駆動方式、針を使用しないピンレス搬送方式の折機、筒状のブランケットを使用したギャップレス印刷ユニットの技術である。

■枚葉機で進む自動切換え装置
 枚葉機の分野もオフ輪同様、高品質・コストダウン、高速化、そして作業効率アップとくに切り替え時間の短縮が要求されている。
 紙厚の種類により以前は手作業による調整が必要だった細かい部分も、今では紙厚・印圧の設定は自動的に切り替えることができる。さらに圧胴洗浄、ブラン洗浄、インキローラ洗浄、版交換、インキングアップ等の切り替えの作業をプログラム化して自動的に切り替えられる装置が搭載された枚葉機も登場している。
 刷り出しの色だしがより早くできるインキング機構も開発されている。従来よりも長いロットの印刷でも安定したインキ供給ができるようになったり、機械が停止すると壷からインキが出て再スタート時のオーバーインキングの原因となるが、新しい機構ではインキの皮膜が安定し、再スタート時のヤレの数量の減少に繋がる。
 また、インキ壷の自己学習機能が搭載され繰り返して絵柄データを読み込み、オペレータが修正したデータを基にインキ壷の設定を自己学習し個々印刷会社の設定に合った再現カーブを自動的に形成するシステムもある。自動洗浄装置は多くの機械に搭載されている。洗浄時間は生産時間ではなくロス時間になるため各種の改良が重ねられて洗浄時間を短縮する装置も開発されている。

■後加工もインラインで
 後加工装置付きの枚葉機が注目されている。インラインコーターを含めこうした機械が登場した背景には、ベルリンの壁崩壊により旧東欧諸国の印刷会社が安いコストで市場に参入したことに対し、西欧諸国のメーカーが従来オフラインで作業されていた後加工をインラインで作業することにより、高速・低コスト・高品質で対抗する手段として開発されたことがある。
 日本ではコーター付きの枚葉機はまだ一般的ではないが、欧州では厚紙はほぼ100%、薄紙でも50%以上はコーター付きで購入される場合が多い。また、コーターでニス引きをする場合に総ベタで塗る場合とスポットコーティングという2種類の使い方がある。
従来は、この切り替えが煩雑で時間がかかったがコーターとブランケットの兼用の万力が装着されており万力を切り替える必要がなくなり機械的な切り替え時間はなくなった。

■注目されるダイレクトドライブ
 ダイレクトドライブは版胴を単独駆動させる装置である。従来の枚葉印刷機はギアトレインによる連続駆動もしくはギアトレインとドライブシャフトのダブル駆動で、機械全体が一体として動いていた。しかし、ダイレクトドライブは版胴から上は特殊トルクモータで一胴ごとに単独で駆動していく。これを電気的に機械駆動と同調していく。
 この目的は、版交換の時間短縮である。従来は1胴毎に版交換をしなければいけならず、例えば1胴1分としたら4色機だと4分、8色機だと8分と色数が増えればそれに準じて版交換に時間がかかっていた。これが版胴の単独駆動になると全胴一度に版交換ができるため、1胴1分の版交換であれば何色の印刷機でも1分で済むということになる。8色機で8分かかっていたとすれば単独駆動だと1分でということになる。
 日本では導入されていないが、海外では14ユニットの機械もあるがそれもこうした単独駆動装置があって実現できることだ。このダイレクトドライブと自動切換え装置、インライン後加工を組み合わせればさらなる生産性アップが期待される。

■DI機のこれから
 1998年に発表されたDI機のひとつであるKBA社の74カラットはキーレスのインキングシステムを採用している。キーレスはインキ供給部にツボネジのないグラビュフローというインキングシステムであるが、日本ではまだ導入実績がない。
 ローラ配列は、インキカートリッジ、インキ壷、アニロックスローラ、インキ着けローラ、プレートシリンダ、ブランケットシリンダ、圧胴となっている。版は機上製版の優位性をいかすためレーザー・アブレーション方式による水なし平版が用いられている。
このシステムではピストン型のインキカートリッジで圧をかけてインキがアニロックスローラ上に出され、その表面をドクターでかき取ることでアニロックスローラの凹部にインキが堆積され、それが着けローラ・版・ブランケットと転移して印刷される構造になっている。
 版は水なし平版であり、全体として1本の共通圧胴に対して4つのインキングユニットがV字型に配列されている。V字配列の理由は、メンテナンスが容易であることにある。 このインキングシステムでは専用のインキが必要になる。アニロックスローラの凹みの部分に流れ込むフローがあり、かつ水なし平版に対応できるタックが必要になる。専用インキとともに温度管理が必要になるが、アニロックスローラと版胴で温度調整をしている。 また、水なし平版用の水性インキも使えることがひとつの特長だ。もっとも海外でのテストは完成しているが販売はこれからだ。
 プレプレスのデジタル化によりCTPの環境が整備されつつあり、ツボネジをはじめ印刷機の設定は変えないのが基本的な考え方になってきている。オペレータの高度な技術も不要、カラーマネジメントシステムも確立され湿し水の管理も不要、さらに版の取り付けが容易になるとデジタル印刷機と同様、データ入稿からの完全自動移転も可能となり、DI機での水なし平版による印刷にも期待が寄せられる。
                「2005-2006機材インデックスス」より(伊藤禎昭)

2005/09/27 00:00:00


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