デジタルネットワーク化、印刷CIMの中核になるのはMISである。しかし、印刷業界全体のMISに対する投資は産業一般に比べてかなり少ない。
日本の産業一般におけるIT投資の規模を対GDP(付加価値)比率で見ると、ソフトウエアで1.5%、コンピュータ本体・付属機器および通信機器といったハードで3.2%、全体では4.7%になる。100名の印刷会社(売上規模では20億円)に引き当ててみると、その加工高は約50%、10億円だから、ソフトで約1500万円、ハードで3000万円〜3500万円、合計で4500万円〜5000万円の投資になる。
それでは、印刷産業の実態はどうだろうか?社団法人日本印刷産業連合会「平成16年度 高効率印刷物生産システムの構築・展開に関する調査研究報告書」によれば、印刷・出版業におけるIT投資額のうちソフトの開発・購入・運用にかかわるコストが売上げに占める割合は平均0.3%であるという。100名の印刷会社であれば年間600万円であり上記産業一般の数字の1/8程度である。
一方、日本国内で販売されている印刷産業向けITソリューション(内容的には、本稿でいうMISに当る)56種の初期導入、保守運用に必要な金額に関する調査結果によると、初期導入費用は平均776万円、保守運用コストは平均値で94万円/年であった。したがって、減価償却期間を5年間とすると、1年間で必要な経費は平均値249万円となる。
いずれにしても、印刷産業の1事業所平均従業員数は産業一般よりも小さいのでIT投資の対売上比率も低くなるだろうがそれにしても少ない。
次に、減価償却の観点から見てみよう。JAGATの経営力アンケート調査によれば、印刷業の売上高に占める減価償却費とリース代金の割合は約5%である。売上高20億円の100名程度の印刷会社の減価償却費は平均1億円程度になるから、上記の600万円という数字はこの6%に過ぎない。この数字をみると、上記の倍あるいは3倍程度の投資がなされても不思議ではないように思われる。印刷企業のITあるいはMISへの投資の値ごろ感はかなり低いように思う。
ここで投資効果について考えてみると、効果の判断基準を人件費にとったとき、印刷業の1人当たり人件費平均は550万円だから、100名の印刷会社が平均水準のIT投資をしたときには1人分の削減効果が出ればトントンということになる。印刷業に導入されているシステム導入・運用コストならば半人分の削減である。どのようなシステムにするかは別にして、600万円掛けて1人分、250万円掛けて半人分の削減もできないようなIT投資ならばしないほうがいいに決まっている。もちろん、IT投資の効果を人件費削減だけで見るわけではないし、その視点だけでは不十分であるのを承知の上で一つの指標として見た場合である。どの会社でも事務処理や初歩的な工程管理にコンピュータを使っているだろうから、同じような機能のシステムに新たに投資しても効果は少ない。
つまり、IT投資が、投資に見合う成果を出すためには、どのような目的、仕組みの投資をするかが大きなポイントになるということである。
本ページで述べてきたこれからの印刷会社が投資して構築すべきMISの要件は以下のとおりである。
@ 統合システム化による再入力の手間とミスの削減、迅速・正確な情報伝達
A 統合システム化と電子伝票化による経営管理への情報の有効利用
B 各種のシミュレーション機能付加による業務適正化、利益向上
C 情報共有によるコミュニケーション改善
D SCMによる顧客満足向上と生産合理化効果
100名の印刷会社が年間600万円、5年で3000万、50名ならばその半分のIT投資で@〜Dのいずれかの導入が可能なのか、そしてその結果としてたとえば人件費相当で1人分あるいは半分程度の合理化効果ができるのかできないのか、ということになる。
また、これから投資すべき内容の観点から考えるべきこともあるだろう。この数年、多くの印刷会社はCTPの新規導入と両面8色機への入れ替えでコストダウンを図ってきた。しかし、印刷産業の供給力過剰が解消するにはまだまだ時間が掛かる。したがって、さらなる競争力強化をどこで行うかが大きな課題となる。ITはこれからの競争力のポイントになるはずだが、貴社ではどうであろうか?
(「JAGAT info2006年1月号」より)
2005/12/14 00:00:00