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知識のみでなく実作業に生かしてこそ真のエキスパート

若杉達実 (スバルグラフィック)

 「Macオペレータ募集。初心者歓迎」この一言で現在の会社へ入社したのが約5年前。当時の環境は,製版用アプリケーションを詰め込んだCEPS風Macintoshが2台だけ。事前にPhotoshopやIllustratorのマニュアルを詰め込んでいった僕は,拍子抜けしたものでした。
 そもそも当時はまだ,レタッチ職人さんが全盛であり,驚きと発見の連続でした。製版会社と印刷会社の違いもろくに知らずに入社した僕は,レタッチ職人さんの補助として,Macに触れることもなく,1年ぐらいを過ごしました。
 しかし,製版会社にもデジタル化の波が押し寄せ,当社でもアナログ入稿,デジタル入稿の両方に対応するため,大日本スクリーン製CEPSとイメージセッタを導入しました。このオペレータとして,やはり,1年ぐらいの月日を,ほとんどMacに触れずに過ごしました。
 しかし,今まで手作業で行っていたことのほとんどが,画面のなかで作業でき,フィルムが出力されるということに感動を覚えたのも,ちょうどこの時期からでした。
 CPUの性能向上で市販Macでも,容量の大きな画像を扱え,価格も下がり始めて,個々にMacが与えられるようになり,ついに念願のMacオペレータとして働けると喜びました。しかしそれも束の間,中途半端なレベルの知識では対応できず,入社当時,拍子抜けしていた自分が恥ずかしく感じられました。
 時代は,めまぐるしく変化するDTP模索期。運用の仕方や問題点が,次から次へと出てきては,それに悩まされました。
 「手作業のほうが早いんじゃねぇか」「手作業ならこんなミスはしない」なんて職人さんの声に負けそうになりましたが,手作業に頼らず,完全なデジタル化を目指そうとがんばりました。幸いDTPに精通した人がまとめ役となり,何度となく助けてくれたのでやってこれました。また,アナログ時にはなかった観点,考え方を再認識しました。一方,アナログ時代を体験できたのも大きな要素です。入社当時の勉強意欲をちゃんと持続してきていれば,もっと理解していただろうにと,悔いる部分もありました。ちょうどそのころから,「DTPエキスパート」という資格制度に着目し始めました。
 しかし,時間に追われる仕事の毎日。なかなか勉強などできず,「自分の仕事である製版の範囲だけでも日々勉強なのに,印刷全般の広い知識の習得はまだ早い」と,あぐらをかいていました。すると今年の初めに,「印刷機を導入するんで動かしてくれ」と社命がくだりました。そして,コストに対する内制化対策が始まり,知識の習得が必然的なものになりました。それまでは問題集を何となく見ていただけでしたが,必然性が出るとがぜんヤル気になり,5月に無事合格通知をもらいました。
 しかし,これから本当のエキスパートなのかが試されるのであり,そういう意味で今がスタート時点なのです。今までフィルムで納めていた仕事を,自社内で最終製品にして納めると,予期せぬさまざまな問題点が発生します。ちょうど,アナログからデジタルへの変換期にも似た体験をしてきました。これを乗り越えると,初めのころの感動をもう一度味わえると思います。
 正直いって,肉体労働にガラッと変わってしまい,戸惑いますが,良いモノを制作しようという方向性は同じです。最終工程にまで手をつけられるのは,コスト的にも,時間的にも,メリットが多いようです。極論ですが,家庭用のパソコン,スキャナ,プリンタが進化し普及することはあっても,何万枚と刷れる印刷機は,絶対に会社レベルでしか扱わないでしょう。このことは,これからのDTPを考えていくにも,重要なことがらだと考えます。
 最終工程までできることで,最終工程に沿ったワークフローや作業を考えられるわけです。後行程,前行程を考慮できるオペレータこそエキスパートであり,また知識だけでなく,実作業の後行程,前行程もこなせてこそ,真のエキスパートだと考えます。マウスとヘラが使える「Macオペレータ」として,これからもがんばります。

1999/09/06 00:00:00


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