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デジタルコンテンツとビットウェイ

2005年10月に,ビットウェイが凸版印刷から子会社として独立した。ビットウェイがビジネスを開始した当時,コンテンツビジネスへの期待は大きいものの,苦戦する企業が多かった。その中,印刷業界だけでなく他の業界からも成功事例として注目されるビットウェイ。代表取締役 小林泰氏に,これまでのビジネスの経緯と今後のビジネス戦略を伺い,今後のデジタルコンテンツ・メディアビジネスを考える。

着実な市場拡大
ビットウェイが凸版印刷から独立した理由は、スピード力アップと小林氏は語る。インターネットの事業は,ベンチャー企業と競合することが多々ある。決断の早いベンチャー企業に遅れをとらないように,ビットウェイは独立してフットワークの軽い体制を整えた。
2006年2月には増資を行った。出版社36社から出資をうけ,現在の資本金は5億2,200万円である。

ビットウェイの事業は、有料コンテンツの配信流通事業である。出版系のコンテンツを中心に配信している。もちろん,親会社である凸版印刷との連携も行う。印刷やインターネット配信用にコンテンツを加工するのは凸版印刷,でき上がったコンテンツの配信はビットウェイで行う。2社でデジタルコンテンツのトータルソリューションを実現する。
流通サービスを提供するビットウェイは,コンテンツの電子化,データ管理,販売・宣伝・ユーザサポートのサービスを提供する。コンテンツ作りや,著作権管理などは出版社の側で担当する。

コンテンツ配信から課金までの流れについては,PCと携帯電話とではやや異なる。PC向けへのコンテンツ配信の場合,コンテンツホルダーからビットウェイがコンテンツを預かる。ユーザは,ニフティなどのISP経由でコンテンツを購入する。携帯コンテンツの場合は,コンテンツホルダーからビットウェイがコンテンツを預かって配信する。ユーザは携帯電話のキャリア経由でコンテンツを購入する。

険しかった電子書籍ビジネス
1999年に凸版印刷がビットウェイを開始した当初は,PC向けだけのサービスであった。2001年に@ir BitwayというPDA向けのサービスを始めた。2003年に,ようやく携帯電話においてもコンテンツ流通サービスを提供することが可能になった。この年にHandy Bitwayという携帯電話向けサービスが開始された。

ビットウェイのコンテンツは,2003年から売上が急速に伸び始めた。理由は携帯電話を始めたからだではないか,と小林氏は分析する。

現在,販売チャネルとしてPC向けに17社,モバイル向けは3社,コンテンツパートナーは約200社と提携している。出版社系が特に増加傾向にあるという。
ビットウェイは,コンテンツの中でも特にコミック配信の強化に力をいれている。今後は携帯電話のコミックやPCのコミックの強化が予定されている。

凸版印刷では,1997年ごろから電子書籍ビジネスをはじめている。しかし,ビジネスとしては厳しい時期が続いた。PDA向けの電子書籍は,機械台数のわりには売れたが、PDA自体が日本では馴染まなかったため,大きな市場にはならなかった。

2003年に第3世代携帯が登場した際、ビットウェイではKDDIのWINサービス向けに電子書籍サービスを始めた。そして,NTTドコモ,ボーダフォンへとコンテンツ配信のサービスを拡大していった。

工夫を凝らすコンテンツ構成
ビットウェイでは携帯向け電子書籍関係で公式サイトを7つ運営している。auへは書籍・コミック・写真集、NTTドコモへはマンガ・写真集、ボーダフォンへはマンガ・写真集を提供している。

コミック関係では、講談社、集英社、小学館等から供給を受けながら、約160タイトルを配信している。

写真集は,約250タイトル配信している。専用ビューアを提供しており,その画面で見ると,画面をクロールさせてみることが可能になった。従来なら,上半身くらいしか見えなかったが,スクロール機能で全身を見せることが可能である。このため,人気が高いコンテンツになっている。

文芸作品は,小学館のパレット文庫や映画化・ドラマ化された小説など話題の作品が並ぶ。読者層は10代後半から20代中盤の人が多い。ドラマの1話、2話が放映されている頃にその小説の売上が伸びる傾向がある。

携帯サイトは画面が小さいため,ユーザが閲覧しやすいようないくつかの工夫がされている。ユーザが作品を選んだり,読んだりしやすいようにイメージ画像と書誌データを掲載したり,更新日を決める,などしている。毎週金曜日に更新すると,その曜日以降にアクセスすれば新しい商品があることを意識してもらいやすい。また,コミックは連載コンテンツなので,毎週1話ずつ提供している。さらに,割安なセット販売も行っている。

課金方法は件数課金の方式である。購入する作品の数だけ料金を払う。一般的に携帯コンテンツは月額課金が多く,要望も多いため,月額課金の導入も検討中だという。

ビットウェイは,購入したコンテンツを何回でもダウンロードできるような形で提供している。コミックのファイルのデータは大きいため,携帯電話に多くのコミックをダウンロードすると,ディスクがすぐいっぱいになる。そこで,データを削除しても,再ダウンロードできるというサービスを提供している。

2005年,コミックと写真集の売上は順調に伸びている。2006年度は、テキスト系の電子書籍にも力を入れて販売にも力をいれていくという。

さらなる利便性・可読性の向上を目指して
電子書籍は,全般的に雑誌連載中のコンテンツは少なく,過去に連載した作品が多い。ビットウェイでは,今後は雑誌に掲載中の最新の作品を積極的に提供していきたいという。

また,読みやすさにこだわった制作・配信や,携帯電話向けのオリジナル作品作りも行っていく。これからは,携帯サイトで人気を集めた作品が、紙へ展開されるという流れもあるだろう。例えば,マンガ雑誌の場合,巻頭部分の数ページだけがカラーで,あとはモノクロである。携帯の場合は,作品をすべてカラーで制作するという案もある。

ビットウェイには様々な希望が寄せられる。ワンストップサービスもそのひとつである。デジタルコンテンツを購入すると,その次に物品販売をしてほしいといった要望がある。アイドルの画像を見せた後,そのアイドルのDVDを限定数だけ販売するという試みも行っている。

将来的には,広告ビジネスなども展開し,ビットウェイに来るユーザが満足して帰るようなサービスの提供を目指すという。

ビットウェイは,「ケータイ」というきっかけでデジタルコンテンツのビジネスを大きく発展させた。その背景には,長年蓄積してきた高いコンテンツの処理技術,コンテンツを見やすく編集して表示させるノウハウがある。凸版印刷という100年の歴史がある会社から独立したことで,今まで以上にユーザの視点にたった,きめ細かなサービスの提供が期待される。

(通信&メディア研究会)

2006/04/25 00:00:00


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